第30話 作戦失敗
「二人が真実を知ったとしても、好感度をある程度保つためには、今からすばると将晴、両方から伏線を張っておくのがいいと思うにゃん」
少し経って落ち着いてから、気を取り直して中島かすみは俺に提案する。
「伏線って、要するに両方の状態からヒントを優司と優奈に宛てて出すって事か?」
俺が尋ねれば、中島かすみは小さく首を横に振る。
「ちょっと違うにゃん。大事なのは、二人が真実を知って今までの事を思い返した時に、それでも将晴の事を完全に切り捨てられないような気持ちにさせる事にゃん」
つまり、事前にバレた時にあまり心証が悪くならないように手を打っておこうという事なのだろう。
「なるほど……でも、具体的に何をすればいいんだ?」
「まずは、将晴の状態でもすばるの状態でも、二人の事を大切に思っていると行動で示すにゃん。コレは大掛かりに何かするというよりは、日常のちょっとした気遣いが大事だにゃん」
日常のちょっとした気遣い、と言われて俺はどうしたものかと考える。
すぐに具体例が思いつかず、俺は不安になった。
一体どんな事をすれば正体がバレても嫌われないくらいに好かれるものなのだろうか。
「俺にそんな事できるかな……」
「普段、鰍にしてるみたいにしたら大丈夫だにゃん。そして、時々急に寂しそうな顔をしたり何かを言おうとしてやめるにゃん。コレもどっちの姿の時にもやるにゃん」
俺が呟けば、中島かすみは気楽そうに笑って答える。
普段、鰍にしているように…………。
泊まる時にあれこれ世話を焼いたりしてしまっているけれど、あれの事だろうか。
しかし、アレを弟や妹にやっても鬱陶しがられそうだ。
それとも、あの時みたいに相手をもてなすという心が大事と言う事なのだろうか。
実家に帰った時は家事を手伝うとか、何か相談されたら親身になって話を聞くとか、相手の趣味を否定しないとか、話す時は聞き役になって相手に楽しく話してもらう、とかだろうか……既に全部やってる。
新たにできる事としては、将晴として実家に帰ったり、すばるとして二人に会う時に必ず手土産を持っていく、とかだろうか。
……というか、それ位しか思いつかない。
「……それだけでいいのか?」
ちょっと考えて、俺は首を傾げる。
「将晴が二人を大好きな事と、ずっと言おうと思ってたけど言えなかったっていう事が伝わればそれで良いにゃん。ただ面白がってからかってた訳じゃないってわかるだけでも心証は大分変わるにゃん」
「確かにそうかもしれない……」
中島かすみの言葉に俺は妙に納得した。無理に好かれようとするよりは、できるだけ誠実な態度で接して、決してこちらに悪意がある訳ではないと言う事を伝える方が重要だろう。
「スケジュールとしてはカミングアウトは三月にする事にして、当面の将晴の目標は二人の好感度をあげつつ伏線を張ることにゃん」
「わかった」
中島かすみの言葉に俺は頷く。
「注意する点は、二人に突発的にバレる事だにゃん。正体を話して後から思い出す事なら素直に受け入れられても、もしバレた後なら何をやってもいい訳っぽくなるにゃん」
「そうだな」
こうして俺は、三月には朝倉すばるの正体を優司と優奈に話そうと腹を括った。
それが十二月も半ばが過ぎた頃だ。
年末に実家に帰って、母に成人式はどうするかと聞かれた時、めんどくさいから出なくていいやと俺は答えた。
すると後日、大事な話があるから+プレアデス+の格好して来いと実家の隣町にめかしこんだ様子の父さんと春子さんに呼び出され、俺はそのまま写真館に連れて行かれた。
気が付いたら赤い振袖を着せられて、父さんと春子さんと三人で写真を撮られ、どういう事なのかと尋ねると、
「成人式に行かないにしても、子供の振袖姿は見たいなって。一生に一度の事なんだもの。記念に、ね?」
なんて言って優しく微笑まれてしまった。
……コレは、あれだ。
振袖を着たいけど着れないからと成人式をスルーしようとした心は女の子の息子に、せめて晴れ着だけでも着せてやろうという親心みたいなものではないだろうか。
というか、絶対そんな感じなんだろうなあ……と、やたら振袖を着せられた俺を褒めまくる父さんと春子さんを見て思った。
なんか違う。
とは思ったけれど、父さんと春子さんの厚意を
取り合えず、優司と優奈には見せないよう念を押しておく。
後日、春子さんから送られてきた写真を見たら、確かに綺麗に撮れていたので、これはこれで滅多にできない体験ができたと思う事にした。
そう、神妙な顔した中島かすみが大事な話があるとすばるの家にやって来るまでは。
「優奈ちゃんと優司くんに、すばるの正体がバレちゃったらしいにゃん。あと、今将晴は二人からアルコール依存症とギャンブル依存症を併発していて借金持ちで男女問わず手を出しまくってる浮気性の疑惑が持たれてるにゃん」
女装癖が霞むレベルのクズ設定に俺は固まる。
なぜ、そんな事になっているのか。
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