第5章 幸せ家族計画
第29話 本当かにゃん?
報告会もお開きになり、一真さんも帰った後、俺は中島かすみに先程、優奈から届いたラインメッセージを見せた。
優奈:大学の推薦受かったよ~今日手続きしてきた! 優司が先に一芸入試で受かってたからちょっと焦っちゃったけど、来年の春からは同じ大学だよヾ(*´∀`*)ノ
「優奈ちゃんも優司くんもおめでとうだにゃん!」
「確かにめでたいけど俺が言いたいのはそこじゃない!」
というか、優司既に受かってたのかよ……なんも連絡無いから実はダメだったじゃないかと思ってたのに……!
「話を聞いた時からこうなるとは思ってたにゃん」
動揺する俺を他所に、中島かすみは随分と落ち着いている。
「どうしよう……」
「まあ落ち着くにゃん。すばるの正体が将晴だって事は、二人が大学に上がる前までにはカミングアウトするって事で良いのかにゃん?」
意図せず不安が俺の口から転がり落ちれば、中島かすみが俺の隣までやって来て、確認するように尋ねてくる。
「うん……」
「それでカミングアウトした後、将晴的にはどうしたいんだにゃん?」
俺が頷けば、中島かすみはまっすぐ俺の目を見つめてくる。
「とにかく、二人は絶対ショックを受けるだろうから、俺の事は嫌いになるとしても、そのせいで引き篭もりになったり非行に走ったりとか、そんな風に道を外させたくはない」
これは今まで幾度となく頭の中で繰り返し思っていた事だ。
だけど、やはりどうしても口に出すと喉の奥が締め付けられて目の奥が熱くなる。
「それだけかにゃん?」
目は逸らさず、中島かすみは小首を傾げた。
「……」
俺はすぐには言葉が出てこなかった。
「本当かにゃん?」
しばらくして俺が話さないとわかると、中島かすみはもう一度確認するように俺に尋ねてくる。
「…………本当は、俺も嫌われたくない」
口に出した途端、胸がどうしようもなく締め付けられた。
せっかく優司と優奈と仲良くなれたのに。
だけど、その仲良くなれたきっかけこそが今、正に直面している問題の元凶でもある。
俺は嘘をついて二人と仲良くなった。
だからその嘘がバレてしまえば、その関係が崩れてしまうのも仕方が無い。
本当の事を話してしまえば、もう元通りににはなれない。
わかっていたからこそ、ずっと黙っていたし、ギリギリになるまで見ないフリをしてきた。
だけど、もうそれも限界なのだ。
それでも俺は……。
「その願い、鰍が聞き届けたにゃん!」
突然、俺の両肩を掴むと中島かすみは、大きな声で俺に宣言した。
「でも、そんなの……」
「無理じゃないにゃん!」
俺の言葉を遮って中島かすみが言う。
「鰍……」
顔が近い。
そして、俺の目をまっすぐ見つめてくる中島かすみの瞳には、確固たる強い意思が感じられた。
「将晴、鰍は子供の頃、自分を慕ってくれる可愛い下の兄弟が欲しかったにゃん」
中島かすみは姿勢を正し、もう一度まっすぐ俺を見つめた。
「……俺も一人っ子だったから、兄弟とかずっと憧れてたな」
その勢いに押されて、俺もポツリと呟く。
「優奈ちゃんとやり取りしてると、本当に家族の事が大好きだって伝わってくるにゃん。優奈ちゃんや将晴の話を聞くと弟くんもきっと良い子だにゃん」
中島かすみの言葉に、俺は頷く。
「もちろん。それは保障する」
二人共、本当に俺にはもったいないくらいに良い弟と妹なのだ。
「だったらそんな上玉との関係を絶つなんてもったいないにゃん」
「うん………………上玉?」
諭すように言う中島かすみの言葉にしんみりしながら頷き、俺は首を傾げる。
なんか今、変な単語が聞こえたような。
「鰍は可愛い妹と弟が欲しいにゃん」
「お、おう……」
突っ込む間もなく中島かすみは言葉を続ける。
「その妹と弟との関係を絶つなんて、将晴は自分で自分の価値を下げようとしているにゃん!」
「んん……?」
中島かすみは一体何を言っているのだろう。
「息子の特殊な趣味をカミングアウトされても寛容で歩み寄ろうとしてくれる両親に、当たり前のようにそれを受けいれる弟と妹、こんないい家族そうそういないにゃん!」
「あ、ありがとう……」
とりあえず褒められたのでお礼は言っておくが、これは喜んで良い流れなのだろうか……?
「将晴には鰍の家族計画の為にも頑張ってもらうにゃん!」
………………。
要するに、こんな良い家族を持ってるというのは、中島かすみにとってかなりポイントの高い事なので、それを手放すなんてとんでもない、という事なのだろう。
「ありがとう鰍。俺、がんばってみるよ」
「その意気にゃん!」
改めて俺がお礼を言えば、中島かすみも意気込んだ様子になる。
「…………鰍、ぎゅってしていい?」
俺の一番望む事を叶えようと、俺の起こした問題を一緒に解決しようとしてくれる。
おどけてみたり、ふざけた言い回しをして、俺を元気付けようとしてくれている。
それがどうしようもなく嬉しくて、だけど、それを言葉に出して中島かすみに言うのも何か違う気がして、だけど気持ちは伝えたくて、中島かすみにそう言ってみる。
直後、中島かすみは柔らかく笑って、俺を抱きしめてきた。
「大丈夫にゃん。鰍と将晴ならきっとできるにゃん」
言いながら中島かすみは俺の頭を優しくなでる。
「うん……」
抱きしめ返しながら、俺はいつも中島かすみに助けられてばっかりだと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます