最後の砦
阿房饅頭
終わりの前
「なあ、俺たちが死んだらどうなるかわかっているか」
それは俺たちがおっさんと呼んでいる先生の一言だった。
目の前には怪物の大群が迫っている。
赤い目をした豚のような人間のようなオーク。小鬼のゴブリン。
牛の顔をしたミノタウロス。
俺たちの傍らにも怪物のような姿の人間のような、魔族と呼ばれる者達がいる。
うめき声のような悲鳴のような雄叫びは俺たちの心をすり潰すような声で俺の理性が逃げろと思わせるようだった。
あいつらと俺たちの違いはなんだろうか。
俺は考えてみる。
「後ろには城壁。そこには多くの人間や魔族がいる」
異業の姿をしたぎょろりとしたした顔をしたリザートマンが少し違和感のあるしわがれた声で答えた。
答えは今の言葉にある。
彼らには知性があった。
考えることができる。理性がある。そして、俺たちと戦争をする頭があった。
狙われたら俺たちと殺し合いをしてきた。
だが、今は違う。
利害が合って、目の前の理性を失った赤い目をした怪物と化して、俺たちを飲み込もうとしていた。
それが大きな違いだ。
俺たちは生きるために戦う。
理性のないあいつらにはもう何もない。ただ俺たちを殺し、仲間を殺すだけの災害でしかない。
理性はなく、ただ俺たちに襲いかかろうとしているだけの本当の獣だ。
ああなった詳しい理由を砦にいる大半は知らない。
だが、無精ひげのある国の100人隊長だったおっさんだけが詳しい真実を知っている。あとは、それをおっさんから聞かされた俺だけだ。
その事実はあまりにも酷いものだという。
一柱の神が世界を救おうとした仕組みが暴走し、その真実を知った魔王が世界を救おうとし、勇者があとでさらに真実を知って暴走を止めるために協力すると言ういびつな真実。
多くの国の人々はそれに驚愕する。だから、語ることはほとんどないとおっさんに語った勇者は言う。
だが、おっさんや俺達には戸惑う暇はない。
災害と化した怪物が濁流の如く俺たちの守る城壁へと迫ってくる。
後ろには多くの生きるものたちの姿が見える。
俺たちの後ろには多くの命がある。
俺たちが蹂躙されれば、あのような理性のない化け物へと人間もなってしまうらしい。
「もう終わりなんだよな。これで」
俺はおっさんに眼を向ける。
「さて、どうなるんだろうな。俺は知らん」
おっさんは後ろを振り向く。
そこには人間だけではない。
耳が狸の耳のような人間、獣人や魔女と呼ばれるような人間のようなモンスターのような魔族もいる。
あちら側にいるような子鬼のゴブリンもいる。
彼らだって生きたいのだ。
思い思いの武器を持って、構えている。
小高い丘の上に穴を掘って、山を作って何とか隠れている。
「なあ、副官殿。どうされますかね」
おっさんは俺のことをそう呼ぶ。
「よしてくれ。俺はあんたの国で革命を起こそうとしたクソ野郎だ」
「いいじゃねえか。勇者はそれを許した。魔族と間を取り持とうとしたいいやつだとな」
「だが敵だった」
「でも、後ろに広がる人間と魔族を最終的には繋げた」
ただの結果論。
おっさんは俺たちの革命の失敗の後、勇者の仲間として、ここまで色々な冒険をしてきた。
それに比べれば俺のしてきたことは交渉だけだ。
「けどな。おまえがやったことで救える命が増えた。だから、俺がココに連れてきて、俺の副官殿としているんだ」
おっさんは一人の魔女を見やる。
くしゃくしゃの顔。何かをこらえるような顔だ。
「アイツはもう死んだ。彼女はただの妹だ。
「いや、俺の身代わりになった。恨むべきは俺だ」
「感傷は後だな」
「互いにな、おっさん」
理性を失った怪物たちが迫る。
「なあ、副官殿思うんだ」
「なんだ」
「多分、これが終わったら、また俺たちはバラバラになるだろう。それが知性を持つ俺たちだ」
「欲深いものだな。とても罪深い」
「けれども、今ここにいる。さあ、俺たちがここを守る砦なのだから」
おっさんは眩しかった。
副官殿なんて、俺は言われるわけじゃない。
おっさんだけが眩しい。
そして、おっさんに率いれられた俺たちは暴走した災害の前の砦で、勇者と魔王たちの戦いの後ろの砦に立つ。
そこに敵も味方もなかったのだった。
ただここが理性のあるべき生き物の最後の砦だったと思うだけだ。
砦の後ろには何もできない、でも、この先生きる者たちが待っているのだから。
最後の砦 阿房饅頭 @ahomax
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