コンテンツ論:コンテンツはフラストレーション解消装置

 以前、読者が面白いと思わせるにはカタルシスを起こす必要があり、読者が何にカタルシスを起こすかは、その人の背景(性別や年齢など)に大きく依存すると書きました。

 人によって様々である、では実用的な理論とは呼べません。実用性を高めるために心理学における欲求(要求)の考えを導入したいと思います。


 まずことわっておくと、ヒトは社会性動物です。言語等の同種間のコミュニケーション能力が他の生物よりも発達していることから分かるように、ヒトは独りで生存するようにはできていません(不可能ではありませんが)。

 そのため欲求も、生物に共通する個人の生存と、社会性動物のみが持つ、社会の中での生存欲求に大別されます。

 前者は一次欲求、後者は二次欲求などと呼ばれることがあります。


 一次欲求はその名の通り、生物としてまず満たされていなければならない、生存欲求のことです。

 例えば何か食べたい(食欲)、眠りたい(睡眠欲)、息を止めていたくない(呼吸欲)などはみな一次欲求に分類されます。


 二次欲求は金を稼ぎたい、偉くなりたい、自慢したい、モテたいといった自分以外のヒト(社会)が関わってくる欲求のことです。これは社会の形態や文化に大きく依存するため、一概に言えないところが大きいです。


 生物は欲求を解消するために行動する、逆に言えば生物の行動動機は欲求によって決定される、というのが心理学的な欲求の考え方です。

 有り体に言ってしまえば、ヒトは生物である以上、欲求を解消するように行動するのです。

 しかし現実にはその欲求をすぐに解消できないことがほとんどです。腹が減ったときに目の前に食べ物があるとは限らない。モテたいからといって異性の気を惹くことができるとは限らない。


 解消不可能な欲求をヒトはどう解消するのでしょうか。ここがヒトの素晴らしい機能の一つであると筆者は思うのですが、直接欲求を解消しなくとも、代替行為で解消することができるのです。

 代替行為は色々ありますが、例えば自分が直接満たされなくても欲求は解消できることがあります(心理学では「同一視」などと呼ばれます)。

 その時に出番となるのがコンテンツです。


 カタルシスは「読者がその作品を読んで良かった」と想った時に起こります。そしてそれは欲求が解消される時に起こりやすい。

 ヒトが普段抱えている欲求不満(フラストレーション)を同一視等の代替行為によって解消させてあげる。面白いコンテンツには必ずこの構図が含まれているのです。

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