18 鍵は来訪者の手の中に
時折ページをぱらりぱらりとめくる。カモフラージュは完璧だ。
「ユキ」
あっ思わずびくっとしちゃった。
「誤魔化してるつもりだろうが、バレバレだぞ。さっきから俺を見てるだろう」
ぎゃー! ばれてた!
私はばさばさとページをめくりながら顔を隠す。ちらりと本の上から覗くと、サタンは呆れた目で私を見ていた。
「みっ見てたっていうか観察してただけだよ! 私のことは気にしないでお仕事続けて!」
そう言ってもサタンの羽ペンは動かない。やがてくっと口元を押さえて笑い出した。
「なんで笑うのー!」
笑顔も素敵だなぁとか恋愛脳に浸ってる場合じゃない。いやでも初めて会ったときのことを思えば、こんなにいろんな表情を見せてくれることが不思議だ。……嬉しい、だなんて……。
「あのさ」
言いづらいとか思ってないで、言わなきゃ。そのためにここに来たんだ。
「私とサタンってさ、前に会ったことあったっけ?」
この間から考えていたことだった。
サタンと話してて感じたデジャブ、引き出しにしまわれた小物入れ。
よくよく考えてみれば、私って昔のことをあんまり覚えていない。お母さんがいなくて寂しいって気持ちをごまかしたかったのもあるけど、魔界に来て魔力を目の当たりにして、ちょっと変わってきた。
もし、誰かが私の記憶を書き換えていたら?
みんなは魔力を使っていろんなことをしている。そんなことができるのかは分からないけど、サタンに関して忘れてることがあるのは確実な気がした。
「……なぜ、そう思う?」
ずっと黙っていたサタンがようやく口を開いた。その沈黙って肯定してるも同然じゃない?
「頭の中にね、もやが掛かってるような部分があるの。小さいときの記憶。私、昔のことをあんまり覚えてないんだよね。気にしてなかったんだけど、ここに来てからちょこちょこ蘇ってきたんだ。……特にサタンといるときに」
私はサタンをじっと見上げる。
サタンの態度からしてなにか知ってるはずだ。
「ユキ、俺は……俺たちは」
「ちょっとー! 誰かいないのー? 『鉄槌の魔女』のお帰りよー!」
それを遮る女の人の声が響いた。サタンはしかめっ面を浮かべた。
「元凶が来た……」
なんだ? 何の元凶?
サタンはそれ以上は語らず、私の手を取ると部屋をあとにした。
玄関にはみんなが集まっていた。緊張した面持ちで一点を見つめている。
私はみんなの視線の先を追った。
階段の上で未だ手を繋いだままだった私とサタンを、その人は見上げる。
「あら、どういう状況?」
そこにはお母さんが立っていた。
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