王は旅を始めるそう。

現狼

第1話 そして王は発つ

コンコン、とドアをノックする音が静寂した部屋に響く。

「入れ」

ノックに応え、迎え入れる。

-迎え、という風にはいかないが-

「王よ。身支度が完了しました。じきに、迎えが来るかと...」

「待て、フラン。迎えは要らないと言ったはずだが?」

高圧的に出された言葉に、足が竦む。

「ええ。ですが、万が一のことがあった場合...」

「要らないと言った。目的地まで自分の足で行ける」

王の身を心配する従者を其方退けで、不要だと言い張る王は、些か不満な様に見える。

「私の能力なら知ってるはずだぞフラン。迎えも護衛も要らん」

更に圧を掛け、無理矢理にでも従者を納得させる。

「わ、分かりました」

従者は一礼し、部屋を出る。





「はぁ...いい加減この口調も疲れるモンだ」

従者が部屋を出た瞬間、態度という態度を変える王。

その王の言葉に答える様に、虚空から長身の男が現れる。

「もうそろそろで、それも不要になるぞ。“3期王”」

長身の男は言いながら、王の隣の椅子に腰掛ける。

“3期王”というワードに王は照れる様に頬をかいた。

「やめろよゼクス、そういうの」

「何言ってんだイヴ。元から、俺はお前を“王様”って言わなきゃいけない立場なんだからよ」

“王様”と呼ぶ立場から“お前”呼ばわりされる事に若干の矛盾を感じつつ、“荒廃した”外の景色が見える窓の方へ目を向ける。

「さて、そろそろ行くか」

「ああ、そろそろ行こう」

そうして2人は立ち上がり、窓が割れそうな勢いで開け、飛び降りた。

「おー、こりゃ大胆な登場だな王」

「遅かったじゃん。なにしてたのさ?」

その元には、黒髪の女性と、ブロンドの髪の、特徴的な女性が2人。

「おう、2人で思い出話をな」

「してないだろイヴ。ただの井戸端会議だ」

いつもと調子が変わらない二人をみて、女性達はクスクスと笑った。

「それ、どっちもあんま変わんないじゃん!」

「まあどうでもいいけど、準備はもういいのか?イヴ」

腰に手を当て、首を傾げる女性に、王は頷く。

「ああ。それより、本当にいいのか?2人とも」

女性を2人もこれからの旅に連れていくのが少し後ろめたく感じていた王は、2人に最後の確認を取る。

「だから大丈夫だって言ってるだろ?私達は危険な事を了解して、ついて行くって言ったんだ。な?エレナ」

「うん。私達、この時の為に結構強くなったんだから!アイナと一緒にね!」

その返事を聞き、王は安堵からか息を吐く。

そして、強い眼差しで灰色の空を見上げる。

「俺達は、魔王を倒し、光を取り戻す!」

その強い眼差しで皆を見つめ直す。

皆もそれに応える様に空を見上げる。

1人は、世界の光を取り戻す為。

1人は、王国の再建の為。

1人は、無き父の仇を倒す為。

1人は、愛する者に付き添う為。

それぞれの目的と、それぞれの決意を掲げ、4人の旅は始まった。

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