第9話 「特訓」
「さーて、んじゃ早速始めるか」
僕はまた、特訓部屋に来た。 氷漬けだった特訓部屋は、何もなかったかのように元通りになっていた。
…能力って便利だなぁ…
「まずは雷斗、お前の能力がどんなものなのかを予想する必要がある」
「予想…ですか?」
「あぁ。 能力者ってのはな、本人の1番嫌な思い出が能力になる事がほとんどなんだよ」
1番嫌な思い出……そんなの決まってる。
「僕の1番嫌な思い出は…サラさんです」
「そうだ。 お前はサラに何をされたんだっけ?」
「能力で…殺されました」
思い出すだけでも足が震える。
あの日の事を僕は一生忘れる事はないだろう。
「そう。 お前はサラに”能力で”殺された。 そして、サラの能力は電気だ。 つまり?」
「僕の能力は…電気…ですか?」
「その可能性は高いだろうな」
僕の能力は電気…
サラさんと同じ、人を殺せる力。
「能力が分かった所で、次だ。 ひたすらイメージするんだ」
「イメージ、ですか?」
「あぁ。 1番簡単なのは、手から出すイメージだな。 俺の場合は、手から氷を出すイメージをすると…」
凍夜さんが壁に手を向けると、凍夜さんの右手から小さな氷が出て、壁に凄まじいスピードで飛んでいった。
あれはまるで氷の弾丸だ。
そして凍夜さんは僕の方を見て
「こうなる。 簡単だろ?」
と、微笑みながら言った。
「早速やってみろ。 素質があればすぐ出来るはずだ」
そう言われ、僕は壁に右手を向ける。
イメージするのは電気。
手から電気を出す。
「電気…電気…電気…!」
目を瞑り集中するが、手から電気を出せる気がしない。
それもそのはずだ。
僕は電気を見た事がない。 炎、水、氷は探せばいくらでも見る事が出来るが、電気は簡単に見る事が出来ない。
「……出来ません」
「そうか、だが能力を使えるようになるにはこれしかないんだ。 何回もやればいつかは出来るようになる」
そうだろうか。
僕にはそうは思えない。
だけど、僕が能力を使えるのは確実なんだ。
「時間はまだまだある。 イメージし続けろ」
「…はい」
この人達の期待を裏切るわけにはいかない。
…頑張らないと。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「電気…電気ビリビリ…ビリビリ…!」
「なんか怖いんだけど」
突然、アリスさんからそう言われた。
今、この部屋には僕とアリスさんと香夜さんしか居ない。
凍夜さんは今購買に食べ物を買いに行っている。
特訓部屋にある時計を見れば、時刻は11時を超えていた。
時計を始めたのが9時過ぎだったから、2時間くらい特訓をしているのか。
「そんなに力まなくても、電気をパッとイメージすればいいだけでしょう?」
…簡単に言ってくれるなぁ……
「…電気ってものを見た事がないんですよ」
「はぁ? 電気なんていくらでも……あっ」
途中まで言って、アリスさんが顎に手を当てる。
「確かに…そう言われてみれば私も見た事ないわね…」
「なるほど…見た事ないものをイメージ出来るわけないよね」
そう言うと、香夜さんはポケットからスマートフォンを取り出し、何か操作をする。
「あった! 雷斗君、こっち来て」
香夜さんが手招きをして来たので、なんだと思いながらも香夜さんの隣へ行く。
「これを見て」
そう言って香夜さんは僕にスマートフォンを見せてくる、画面を見ると、大人気の動画サイトが開かれていた。
そして、香夜さんが開いていた動画のタイトルは…
「『自然災害〜〜雷編〜〜』……なんですか? これは」
「まぁまぁ、再生ボタンを押して見てよ」
言われるがままに再生ボタンを押し、動画を見る。
動画は、誰かの自宅で撮影されたもので、台風の中、ゴロゴロ…という音と共に雷が落ちている。
「雷も一応は電気な訳だけど、イメージ出来そう?」
…なるほど。 見た事がないなら、見ればよかったんだ。
今は便利な時代になった。 インターネットで全てが分かるんだ。
電気なんて、検索すればいくらでもヒットするだろう。
なんでこんな事に気がつかなかったんだ。
「ありがとうございます。 やってみます」
香夜さんに頭を下げ、もう一度壁に手を向ける。
雷の色は青、だからイメージする色は青でいいだろう。
そして、真っ直ぐに電気を飛ばすイメージ。
あの動画で見た雷を思い出し…
「…うおぉっ!」
一瞬。 ビリビリッ! と言う音が聞こえた。
そして、その音と共に、青い光が壁に凄まじいスピードで向かって行き、消えた。
だが、その一瞬を、僕達3人は見逃さなかった。
今のは間違いなく、僕の手から出たもの。
それはつまり…
「で…出来た」
「うん! おめでとう雷斗君!」
「やれば出来るじゃない」
お世辞にも威力が高いとは言えないけど、能力を使う事が出来た。
自分の意思でだ。
「うぃーす。 食べ物買って来たぞー……って、なんで皆笑顔なんだ?」
そこに、何も知らない凍夜さんが扉を開けて部屋に入ってくる。
香夜さんはニヤニヤしながら
「雷斗君、凍夜にも見せてあげなよ」
と言って来た。
僕は「はい!」と元気よく返事をして、壁に手を向け、先程と同じようにイメージする。
「行けっ!」
すると、先程と同じように一瞬だけ青い光が壁に向かって凄まじいスピードで飛んでいった。
それを見た凍夜さんは、両手に持っていた袋を床に落とし
「せ…成功したのか?」
と、驚いていた。
「はい。 まだ威力は弱いですけど…一応、能力を使えるようにはなりました」
「良くやったな雷斗! これでお前も能力者だ!」
「はい!」
これで僕もこの人達の力になれる…
「思ったより早くて驚いたが、その方がこっちも助かるぜ」
「そうだね、まさかこんなに早く能力を使えるようになるとは思わなかったよ」
凍夜さんと香夜さんが微笑みながら話す。
僕は何度も手を開いては閉じてを繰り返す。
本当にこの手から電気が出たんだな…
「よし! ちょっと早いが、昼食にしようぜ。 雷斗が早く能力を使えるようになったおかげで、午後は違う事が出来る」
凍夜さんはそう言って床に落とした袋を拾い上げる。
時刻はまだ11時だが、今はお腹が空いているから丁度いい。
特訓部屋を出て生徒会室に戻って来た僕達は、それぞれの席に座る。
凍夜さんが買ってきてくれた袋から食べ物を取り出し、机の上に出す。
「さ、好きな物を選んで食ってくれ」
机の上には、焼きそばパンが3つ、コロッケパンが2つ、唐揚げ弁当が2つ、ハンバーグ弁当が2つ、クリームパンが3つ。
コーヒー牛乳が3つ、牛乳が4つ、お茶が3つある。
「…あの…多くないですか?」
一体何人分あるのだろうか。 生徒会は5人なのに、こんなに沢山の食べ物、食べれるわけが…
「じゃあ私はコレとコレとコレを貰うわね」
アリスさんが唐揚げ弁当とコロッケパンとクリームパンとコーヒー牛乳を1つずつ取る。
……えっ?
「それじゃあ私はコレとコレとコレ!」
香夜さんはハンバーグ弁当と焼きそばパンとクリームパンとコーヒー牛乳と牛乳を1つずつ取る。
……えぇっ?
2人共食べ過ぎではないだろうか。
「んじゃ俺はコレな」
凍夜さんはハンバーグ弁当とお茶を1つずつ取る。
……ちょっと待ってくれ。
「え⁉︎ 残った食べ物は⁉︎ どうするんですか⁉︎」
まだ焼きそばパン2つ、コロッケパン1つ、唐揚げ弁当1つ、クリームパン1つ、コーヒー牛乳1つ、牛乳3つ、お茶2つ残ってるんですが⁉︎
「食べていいぞ?」
そんな遠慮しなくていいぞ? みたいな感じで言われても…
「こんなに沢山食べれませんよ!」
「はははっ! 冗談だよ、焼きそばパンくらいは食ってやるからさ」
そう言って凍夜さんは焼きそばパンを2つ取る。
……まだ全然多いんですが…
「はぁ…いただきます」
僕は諦め、残りの食べ物を食べ始めた。
……全部食べれるだろうか。
ギルティ・アビリティ 皐月 遊 @bashi
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