第8話 「能力」

「能力を2つ…」


「そうよ。 慣れるまでは大変だったわ」


なるほど…そういうのもあるのか。


また新しい事が分かったな。


「んで次が本題。 早速能力使ってみるぞ」


来た。


凍夜さんが立ち上がると、他の2人が立ち上がったので、僕も同じく立った。


「こっちだ」


凍夜さんは生徒会室を出た。


廊下に出ると、同じ3階のあるすぐ近くの教室に入っていった。


ここは……


「科学部?」


科学部と書かれた教室があった。 外見は普通の教室だ。


中になにがあるんだ?


「あー、それは気にしないで」


香夜さんがそう言ったので、構わず中に入った。


中に入ると…


「へ、部屋が…繋がってる⁉︎」


なんと教室と隣の教室の境の壁が無くなっており、2つの教室が繋がっていた。


そして外側と廊下側の壁はコンクリートか何かわからないが、硬そうなもので出来ていた。


窓は無く、外の音は何も聞こえない。 地面も他の教室の物とは違う感じだ。


そして教室の中には机も椅子も、何1つ無かった。


「この教室は能力の特訓に使ってるんだ。 かなり頑丈に作られてるから、絶対に壊れない」


「能力の特訓…」


「あぁ、俺達も最初から能力が使えた訳じゃない。 ここは能力を使いこなせる様に特訓する場所なんだ」


校内にこんな場所があったなんて…全然気づかなかった。


…というか


「あの…勝手に教室を改造してもいいんですか?」


いくら生徒会だからと言って、勝手に教室をこんな風に改造するなんて…


僕がそう言うと、凍夜さんはニヤッと笑い。


「実はな、俺はこの学校の権力者と知り合いなんだ。 だからその人に頼んで、黙認してもらってる。 因みに、その協力者は俺達の正体を知っている」


……めちゃくちゃだな…まぁ、凍夜さんの家は大金持ちらしいし、それくらい出来るのか?


「そんな話はいいから、早く始めましょうよ」


「お? 珍しくやる気だなアリス」


「うるさい。剣生成ソード・クリエイト


突然、目の前でありえない事が起こった。


何も持っていなかったアリスさんの右手に、突然剣が出現したのだ。


アリスさんはその剣を迷わず凍夜さんへと突きつけた。


「おぉ⁉︎ おいおいやりすぎだろ。 分かったよ真面目にやるよ」


凍夜さんは頭を掻きながら言うと、アリスさんは僕の方を見てきた。


そして僕に剣を見せ…


「これは私の能力、武器生成ぶきせいせいよ」


武器生成…って事は、剣以外にも生成出来るって事か?


「アリス、もう1つも見せてやれよ」


「分かってるわよ。 ブレイズ


アリスさんは剣を持ってない左手を前に出すと、突然その左手が燃え始めた。


「え、あ、アリスさん⁉︎ ひっ…火が! 水! 早く水を…!」


僕が本気で焦っていると、アリスさんは呆れたように笑い


「これも私の能力よ。 武器生成とブレイズ 。 この2つよ」


そう言うと、アリスさんの両手から剣と炎が消え、何事も無かったかのようにアリスさんが両手を広げる。


…これが能力……間近で見るのは初めてだけど、僕にもこんな事が出来るのか…?


「次は私だね」


そう言って香夜さんは僕の前に立つ。


「私の能力は、水だよ」


香夜さんは教室の壁の方に手を向けると…


「水鉄砲!」


香夜さんの何もない右手から、まるでレスキュー隊のホースから出る水みたいな威力の水が出てきた。


だが壁にはヒビも、傷すらも付いていなかった。


「み…水の能力…」


「あーあ…部屋がビショビショじゃねぇか。 威力考えろよな」


凍夜さんが頭を掻きながら言う。


確かに香夜さんが出した水のせいでこの教室は水浸しだ。


「いやぁ…凍夜がいるからいいかなと思って」


「ったく…仕方ねぇな。 雷斗、よく見とけよ、これが俺の能力だ」


凍夜さんは水浸しの地面に手を向けて…


氷結フリーズ


部屋の水を凍らせてしまった。


だがちゃんと僕達の足元は凍らせないように加減してくれている。


「これが俺達3人の能力だ」


凍夜さんは「氷」、香夜さんは「水」、アリスさんは「炎」と「武器」……


この数分の間に、僕は凄いものを見てしまった。


「さて、次は雷斗。 お前の番だぞ」


「へ…?」


「へ…? じゃねぇよ。 何の為に今日1日公欠にしてもらったと思ってんだ。 これからお前には能力を使う特訓をしてもらうぞ」


僕の能力。 あの鉄骨落下の時、実際に見てはいないが、間違いなく僕は能力を使った。


だから、僕にも凍夜さん達みたいに能力を使えるはずなんだ。


「……分かりました。 やります」


僕がそう言うと、凍夜さんは笑顔になり。


「そうか! んじゃ早速…と言いたいが…」


凍夜さんは凍っている床を見つめて…


「この氷が溶けるまで休憩するぞ〜」


…確かに。 凍った床は危ないもんな。


寒いし…


僕達は特訓部屋から出て、生徒会室に戻った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……で、雷斗。 お前は一度は能力を使えた。 これは本当だな?」


「はい。 実際に見たじゃないんですけど…」


「その時の状況を教えてくれ」


「えーと…生き返った次の日に、外出をしたんです。 そして工事中の建物の下を通ったんですよ」


凍夜さんは何も言わずに真面目に聞いている。


香夜さんとアリスさんは今生徒会室に居ない。

アリスさんはブレイズで特訓部屋を暖めて氷を溶かしに行き、香夜さんは「暇だから」という理由でアリスさんについていった。


「そして工事中の建物の下を通った時に、運悪くぶら下がってた鉄骨が全部落ちてきたんです」


「…その時か?」


「はい。 地面に蹲ってたので見えなかったんですけど、バチバチバチッって音が聞こえて。 顔を上げてみたら、周りに鉄骨が散らばってたんです」


「…なるほど…分かった。 雷斗、なんとしても能力を使いこなすぞ」


「は、はい!」


能力が使えるようになったら、僕はどうするんだろう。


…もし能力を使いこなせたら、僕はもうただの人間ではなくなる。


アリスさんには能力を人助けに使いたいと言ったけど、僕なんかが本当に人助けなんて出来るのかな…


「凍夜、氷溶けたわよ」


生徒会の扉を開け、アリスさんが言った。


凍夜さんは立ち上がり


「よし、んじゃ始めるぞ。 雷斗」


「……はい」


僕はゆっくり立ち上がり、生徒会室を出て特訓部屋に向かった。

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