第5話 喧嘩上等! 魔界からの監視者
白みがかった夜明け前の空の下、都心からやや外れた工業団地の一角は静まり返っていた。
いくつかの工場の間にある空き地には古びた二階建てのバスが止まっている。
それはすでに現役を終えて老後を迎えたような車両であり、車輪が全て外されてその代わりに鉄筋の土台で地面に固定されていた。
一階の窓は地味な緑色のカーテン、二階の窓は深い青地に花柄の描かれた華やかなカーテンで覆われていて、一階の入り口近くには赤く簡素な郵便受けが設置されている。
それは廃車となったバスを改造して作られた二階建ての住居であった。
どこからともなくエンジン音が近づいてきたかと思うと、バスハウスの前に二人の人物を乗せた一台のバイクが停車した。
磨き上げられたマリンブルーのボディーが特徴的なバイクに乗っていた二人の人物はエンジンを切ると、かぶっていたフルフェイスのヘルメットを脱いだ。
バイクを運転していたのは
二人は深夜の仕事を全て終え、この仮事務所兼住居であるバスハウスまで帰ってきたところだった。
時刻は午前5時を回っている。
バイクから降り立つと、
「……今日はずいぶんと近くから
年齢は
肩までの短い栗色の髪と茶色い瞳。
服装は紺のスーツに白いシャツ、そしてスーツと同色のタイトスカートを身につけていて堅い雰囲気の女性だった。
「お仕事お疲れさまです」
その女性は二人にそう声をかけると
二人の表情を見ると女は泰然と己の心情を口にした。
「そんな顔をされるのは心外ですね。うんざりなのは私も同じです」
「だったら帰れ!」
「そうはいきません。この
彼女の名は
人の姿をしているが、彼女は妖魔である。
「仕事も終えて、これからお二人の愛の巣で仲むつまじく男女の営みですか?」
「は、はぁ? あんた馬鹿じゃないの?」
怒りを
「照れなくてもいいのですよ。若い男女にとって朝方は比較的性欲の高まる時間帯です。心おきなく
「黙れ! この欲求不満女!」
彼には
「
彼の言う白雪とは
そして
そうした
「それは願ってもない言葉です。ですがそれを直接姫様に伝えるつもりなら
今すぐにでも有言実行しそうな
「ど、どうすりゃいいんだよ」
「簡単ですよ。あなた方お二人が手っ取り早くつがいになれば、私はそれを粛々と白雪様にお伝えして、あきらめていただきます」
「つ、つがいって……」
そう言って
「そんなことになったらあんたの立場がやばいんじゃないのか? 俺たちが妙なことにならないよう見張るのが、あんたが姫様から命じられた役割なんだろう?」
彼女の姫君である
彼女らの一族は代々、女しか生まれないため、他の部族から男性を連れてきて夫とする慣習があった。
半年ほど前、その
その内紛を治めて白雪を暗殺者から救ったのが
そして白雪の強い希望と諸々の事情があって、彼女の夫候補に選ばれたのが
その理由はただひとつ。
白雪が
だが、だからと言って先ほど
(高貴なる姫さまが人間の男に
無論、それは白雪の命令に背くことだったが
「我が一族の真なる繁栄のためならばこの
そう言う
「馬鹿馬鹿しい。あんたたちのお家の事情なんて知ったことじゃないのよ。見張りでも何でも勝手にしてれば? 行くわよ。
そう言うと
バタンとぞんざいに閉められたドアを見つめ、
「馬鹿馬鹿しい? それはこちらのセリフだ。人間ふぜいが」
そう言うと
「まったく。姫様も
そう言った
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