第2話 もう辛い
礼をすると言われ、突如主人公に抜擢されたのは昨日の夕方の事。
現在は一夜明かして朝。学校に行く準備が終わった直後の事だ。
目の前の光景に開いた口と目が塞がらない。
よーく、昨日の事を思い出してみよう。
訳の分からない事をぶつぶつ言っていた残念美少女を何とか外に出したは良いが、外は土砂降り。そして更に、またあの指をパチンと鳴らし魔法でも使ったかの様にちんちくりんな女の子姿になった。
俺は玄関のドア片手に固まって動けなかった。
このまま外に出してずっとここに立たれでもしてみろ。見る人の目には幼児虐待だとも捉えられる。
結果的に俺はそのちんちくりんな女の子を家に入れたのだ。
幸い、うちの両親は海外に転勤中。
いや、逆に年端もいかぬ男女が2人きりで1つ屋根の下というのはまずいのかもしれないが、幼児虐待に思われるよりはまだマシだと思いたい。
夕食のレトルトカレーを食べながら事情を聞くと、美少女の正体は天使、との事。
本来ならここで、うわ〜完全に厨二だよ。と、思うところだが、先程の指パッチンの魔法の様な物を見てしまったので信じるしかないようだ。
ちょっと天界から下界へ遊びにきたら突然雨が降ってきて天使の羽が濡れて飛ぶのが辛かったから雨宿りをしていたらしい。
聞いてみると天界では雨は降らないらしい。
と、まぁ事情も分かった事だし、明日の晴れている時間にでも天界に帰ってもらおう。
「とりあえず今日は俺のベッドを好きに使っていいからゆっくり寝ろよ。風邪なんか引かれたら厄介だしな」
風邪で飛べなくて天界に帰れないの。なんて言われたら面倒だ。というのは胸の内にしまっておこう。
美少女天使にベッドを譲り俺はリビングのソファーで寝る事にした。
で、朝。
はい、回想終了!
学校に行く準備が終わり例の美少女天使を起こしに部屋に行こうとリビングのドアを開けようとした時。先に向こうから開けられた。
そこにいたのは紛れもなく昨日の美少女天使。
天使なのだが、俺が貸した部屋着を着ているわけでも昨日のちんちくりんな姿でもなく、うちの学校の制服を着た天使だった。
ブレザーの首元からキツネ耳付きのフードが出ている。
「何をそんな驚いておる。ん〜?それとも見惚れておるのか?」
ニッシッシと笑顔になる天使。
「え、お、おまっ、なんで制服?」
辟易しながらも聞きたい事がちゃんと言えた。
「お主はやはりバカなのじゃな。制服とは学校に行くための正装なのだろう?ならば制服を着るのが道理というものじゃろうが」
鼻を尖らせ、いかにもバカにした言い方の天使。
「いやいや、それはそうだけどそういう事じゃなくて、え、ああそうか、お前も17って言ってたもんな。天界にも高校があるのか。で、たまたまうちと同じ制服だった。そういうことか」
納得納得。
「何を納得しておる。バカモノよ。お主と同じ学校に通うからこの制服を着ているに決まっておろう!」
呆れ顔の天使。
そして。
「バカモノにも分かりやすく説明してやろう。昨日の例にお主は主人公になった。そして、主人公になったなら何か面白い事がたくさん起きるのが普通。主人公とはそういうもんじゃ。そして、面白い事一つ目。天使との同棲!どうじゃ?中々萌えて来るじゃろ?そしてこの先も面白い事盛り沢山じゃ!そしてせっかく主人公にしたのじゃから、その面白い事をわしも見てみたいではないか!だからお主と同じ学校に通う。そういう事じゃ」
全然分からん。
どういう事?
同棲?
高校生で?
しかも天使と?
え?え?
ぜんっっぜん分からん!
こっちが混乱しているのはどこ吹く風。
天使は顔を近づけ、
「まずは話し方を直して、私はキリカ。という事で、これからよろしくね!りく!」
ニコッと笑った顔はまさに天使という言葉がぴったりの、誰もが見惚れる程の笑顔だった。
「って、なんで俺の名前を……天使だから分かるのか?」
「ブブー、残念。昨日お風呂入る時に制服から生徒手帳出てたから見たの。ちなみに、天使っていうのはみんなには秘密ね?色々と面倒な事になっちゃうから」
ほら、遅刻するよと俺を促して家をでる天使……キリカ。
なんだかな〜。
ふぅ、と嘆息を漏らしなが、まぁ、なんとかなるか。
ポジティブシンキング。
前向きに生きよう!
行ってきます。誰も居ない家に言葉をかけ、家を出た。
教室。
朝のホームルーム。
担任でマスコットキャラ担当の藤堂愛海先生、通称あみちゃんが転入生を連れてきた。
というかキリカだ。
美少女転入生に教室が騒めく。
男子は、よっしゃー美少女きたー!とか、あみちゃん先生ナイス!とかそんな感じだ。
女子も皆、美人、きれー、など様々だが、中々の好印象。
「ほーらほーらみんな静かにー!じゃあ、キリカちゃん、早速だけど自己紹介してもらってもいい?」
いつものおっとりした声であみちゃん先生が言う。
「はいっ!ええと、キリカです。まだ日本に来たばかりで分からない事もたくさんあるのでご迷惑おかけする事もあると思いますが、どうぞよろしくお願いします!」
挨拶を終え頭を下げるキリカ。
すると。
先程の騒めきを遥かに凌駕する程の声でみな、「「よろしくねー!うおーー!何でも教えるから頼ってー!」」
元気な奴らだな。
というか、あいつ帰国子女の設定にしたのか。中々やるな。
「はいはい、みんなが仲良くしたいのは分かったけどー、落ち着いて、キリカちゃん困っちゃうでしょー。特に男子はそんなに喜ばないの!まだ全部終わってないんだから」
あみちゃん先生が言う。
そして、
「はい、キリカちゃん続きどーぞ!」
続き?まだ何か話すのか?それにあみちゃん先生が促すって事は話さなきゃいけない事なのか?まさか天使の事とか……?
「えーと、私キリカは、
えへっと笑顔を付け足すキリカ。
「ええええぇぇぇぇーーーー」
と、驚きの声をあげたのは俺だけ。
皆はというと。
まさしく静寂の教室。
皆の視線が突き刺さるのが分かる。
なんかもう辛い。
美少女天使は口が悪いっ! @-heal-
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