美少女天使は口が悪いっ!
@-heal-
第1話 主人公になりました
まだシトシトと雨が降る季節。ジメジメとした空気とムシムシとした空気が入り混じる夏直前の梅雨。
下校途中の公園での事だ。
ドーム状の遊具のトンネルで、雨宿りをしている小さな女の子がいた。
7、8歳くらいだろうか?キツネ耳付きのフードを被り、何やらお悩みのご様子。
この時期に傘もささずに遊びに出た結果雨宿りをする羽目になったからだろうか。確かに昼頃は少しの晴れ間が見えていた。
しかし、すぐにまた雨が降る事は予想ができたはずだ。まぁ、そこが予想できないのがあれくらいの年齢なのだろうか。
傘を貸すべきか、否か。
傘を貸すという行為自体に俺自身抵抗がある訳ではない。走れば2、3分とかからずに帰宅できる距離の公園だ。
だがしかし、このご時世、高校生男子が小学生の女の子に声をかけたとあれば誰かに見られたら通報される恐れがある。
辺りを見渡せば幸いにも今は通行人は俺だけ。仕方ない。行くか。そう決心し公園に一歩踏み出そうとした時だ。一台の車が通過した。
通行人だけを気にすれば良いという事でもないか。よし、帰ろう。
結局俺の決心とはそんなもので、踵を返し家路へと向かう事にし--。
「おい、おい」
公園の方から小生意気な声が聞こえた。
友達でもいたのか。声かけなくて良かったー。安堵の息が少し漏れる。そのまま俺は歩き始めた。
刹那。
背中に衝撃が走った。
「ってて、なんだ!雷か!」
俺は辺りを見渡す。普通に見渡せる俺の身体からするに、雷ではないようだ。ぎっくり腰か何か? そんな事を考えていると。
「バカモノ、どこを見ておる。下じゃ下!」
さっき聞こえた小生意気な声が下から聞こえる。
「うわっ、なんだ! って、さっきのちびっ子か」
キツネ耳付きのフードをから鮮やかな金髪を出し、少しツリ目がちな女の子がそこにはいた。
「ちびっ子とはなんじゃ、バカモノが! わしはこれでも17じゃ! 今はこのそれはそれは可愛らしい姿をしておるが、本来ならば、ボンッ!キュッ!ボンッ! なのじゃぞ!」
両腕を腰に当て、妙に自信満々の女の子。キツネ耳付きのフード被り、そこから鮮やかな金髪を出している女の子。傘もささずにそれをやっているずぶ濡れな……残念な女の子だ。
「な、なんじゃその残念な人を見る様な目は!」
どうやら顔に出ていたらしい。
俺はどうすればこの状況から素早く抜け出せるか考える。傘をさした自分とずぶ濡れの女の子を前に客観的に他の人がその光景を見た時の様子を想像する……さっきの公園にいた時に傘を貸していた方がまだマシな状況だっただろうな。悔やまれる。
仕方ないか。
俺はそっと傘を差し出し、
「ほ、ほら、良かったらこれ使えよ」
なっ、と付け加えて俺は笑顔を見せる。
すると。
「お主はバカか、バカモノなのか? こんなにずぶ濡れで傘なんてもう意味がなかろう」
呆れた顔で言う女の子。
うわー、面倒くさっ。
「あー、そっか。それもそうだな。わり。じゃあ、俺は帰るからお前も気をつけて帰れよ」
退散退散。
再び踵を返し家路へと向かおうとした時。
またしても背中に衝撃が走った。
今度はすぐさま下を見る。
キツネ耳付きのフードが後ろへと行き頭がフードから全て出ている。どうやら衝撃の正体は女の子の頭突きだったようだ。
「だからなんだよ。傘いらないんだろ?」
背中をさすりながら言う。
「バカモノが!こんなに濡れておったら風邪を引くだろうが!わしを暖めい!」
…………。
……。
え?
ど偉い事言いましたよこの子。
「あ、暖めるって、具体的には一体何をすれば良いんだ? あ、あぁ、いや、いい、悪い、帰る」
混乱する頭の中で俺は女の子を見ずに帰る。
ダッシュで。
家に着き、俺はさっきの状況整理のために風呂場で落ち着こうと一直線に洗面所へ向かい制服のブレザーを脱ぐ。
ドサッ!
走ったせいで俺をあの子同様ずぶ濡れになっていたらしい。ブレザーがこんなに重かったなんて、そうとう濡れてたんだな。
……。
いやいやいやいや、おかしいだろ。ドサッ!だぞ? ブレザー脱いで降ろした時の音じゃないだろ! なんだだったら、ドスッ! だったようにも聴こえたよ!
「ご苦労ご苦労。良い走りっぷりじゃったぞバカモノよ」
キツネ耳付きのフードを被り、キョロキョロと風呂場を眺める女の子がそこにいた。
「ちょ、え、え、うええええぇぇぇぇ!」
よろめきながら後退りする俺。
すると、女の子こちらに振り向き、
「うるさいぞ、バカモノよ。処でここは風呂場か? わしは寒い。早く湯を張るのだ」
ビシッと風呂を指差す。
「いや、それよりなんでお前ここにいるんだよ」
「そんな事は後じゃ! まずは風呂! お風呂じゃ!」
……ダメだこりゃ。
仕方ないと断念し、俺は言われた通りお湯張りボタンを押す。
「溜まるまで時間あるからとりあえずシャワー浴びとけ」
家によって仕様が違うであろうと思い、シャワーの使い方を教える。一通り教えた処で、俺はタオル片手に洗面所を後にした。
濡れた髪をタオルでわしゃわしゃと乾かし、リビングのソファーに腰掛けテレビをつける。
女の子が風呂を上がってくるまでの間、俺はなんでこんな状況になったのかを必死で考えたが、混乱した頭の整理は結局できなかった。
「上がったら帰ってもらうか」
ぼそっと、呟いた時、リビングのドアが開き、風呂を上がった女の子が、女の子が、
「女の子がぁぁぁぁーーーー」
開いた口が塞がらないとはこの事か。
ボンッ!キュッ!ボンッ!
じゃなくて、ポン、キュッ、ポン! くらいの、まさしく同年代くらいの金髪美少女がそこに現れた。俺の部屋着を着て。
「なんじゃバカモノ。バカモノが更にバカモノ面になっておるぞ」
そして、何か企んでいる様なイタズラな笑みを浮かべる。
「ほほー? お主、さては興奮しておるな? さっきまでのそれはそれは可愛らしい女の子がまさか、こんなに美しい美少女に大変身。ましてや自分の部屋着を着て現れた美少女とあれば、興奮せぬ方がおかしいと言うもの。よいよい、これはわしからのサービスと思え。後で存分にこの部屋着の匂いを嗅ぐがよい!」
ニッシッシ、と笑う美少女。
「だ、だ、だ、誰ですかっ! なんで俺の家に? あれ、鍵、鍵かけたよな? え、最初から? 最初から忍び込んでたとか? 警察! 早く110番しなきゃ! あれ、110番って何番だっけ? ああ、ええと、あれ? あれ?」
スマホを片手にあたふたする俺を見て。
「バカモノめ、わしじゃ」
パチン、と指を鳴らすと、その美少女はさっき風呂に入った小さな女の子になった。
「え、おま、さっきの」
そしてその女の子はまたパチンと指を鳴らし美少女になる。
「分かったかバカモノよ? さっきのは仮の姿。わしの趣味じゃ」
小さな女の子の時同様、両腕を腰に当て自信満々のその子を見て、ようやくこの2人が同一人物だった事を理解する。
そして、
「バカモノよ。そなたに礼をしよう」
今度はイタズラな笑みでも自信満々の表情でもなく、うーん、と人差し指を下唇に当てて悩む表情をして、こう言ったのだ。
「バカモノよ。そなたは主人公に選ばれた!」
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