第26話 エピローグ

 真っ白な世界。

 どこまでも続く地平線。

 膨大な空間を満たす静寂。

 そんなどこでもない世界に、二人の少女が立っていた。

 一人は勝ち気な眼をした10代前半の女の子。背中まで伸びた黒髪を、首筋でまとめている。彼女は右手を前に差し出して、もう一人の少女を見つめている。

 そして彼女が口を開いた。強い意志を感じさせる口調で、こう宣言する。

「必ず、お前を見つけ出してやるからな。麻木凛音」

 その言葉に、もう一人の少女――麻木凛音と呼ばれた少女は、大きな瞳を嬉しそうに細めて微笑んだ。肩まで伸びた、緩いウェーブのかかった栗色の髪の毛が、柔らかく揺れた。

「ありがとう。杏ちゃん」

 その少女の言葉に、先織杏も微笑んだ。

 

「でもね……」

 麻木凛音はそう言って、瞼を閉じた。

 再び瞼を開けた時、視界の中から先織杏の顔が消えていた。否。消えたわけではない。麻木凛音はそっと視線を落とした。そこには、眼をまんまるにして驚いている、先織杏の顔があった。

 麻木凛音は自身の姿を意識した。肩まで伸びたストレートの黒髪。大人の女性平均より、やや低いくらいの身長。そして――重要なことに――普通よりやや大きめのバスト。

 先織杏の26歳の姿。その躰に麻木凛音の記憶が入り込み、子供の先織杏を見つめている。なんとも奇妙な光景に、麻木凛音は吹き出してしまう。

 急に笑い出したこちらに、ますます怪訝な表情をする子供の先織杏。あるいは、あたしが何者か分かっていないのかもしれない。この躰では無理もないが。

 麻木凛音は気を取り直すように、咳払いを一つする。そして、膝に手を当て前かがみになると、覗きこむように先織杏の表情を見つめた。

 まだ困惑している先織杏に、麻木凛音は親しげに声をかける。

「杏ちゃんは、あたしをこうして見つけてくれた。ちゃんと、約束を守ってくれた。だからね、次はあたしの番なんだよ」

 そして麻木凛音はこう宣言した。

「必ず、あたしが見つけてあげるからね。先織杏」

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クオリア 管澤捻 @aoyasai

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