第10回 ナターシャとエルフの国~その3・奥義炸裂編

 あなたのハートに恋の媚薬ラブ・ポーション

 やだこれ、セクシー女優みたい!

 どうも、セクシー女優とかけてナターシャと説きます! その心は?



 どちらも『セイ職者』でしょう。



 ……おあとがよろしいようで。ゆーて、今回まだ始まったとこだけどね!


 エルフ女子へのディスりから始まったエルフの国レポート、今回はその3・奥義炸裂編です。

 登場人物は、純血エルフの美しさに鼻血を垂らして気を失った百合っ子魔法使いユリシーズ、なまじ美人だっただけに自尊心に痛恨の一撃を喰らった踊り子リセリアちゃん、早速ナンパして国際問題に発展しそうになった勇者クズムラ……じゃねえわ、ユキムラくん。そして、エルフさんに男性に間違えられた僧侶ナターシャでお届けします! まな板で悪かったな!



~~エルフの国潜入レポ~~


 エルフのカウニスさんに案内してもらい、私たちはエルフ国東地方の都・チェフルーシルを観光することにした。その間も、隙あらばユリシーとユキムラくんはハァハァしだすし、リセリアちゃんはへこみっぱなしだったので、三人の手綱を引きながら歩くのに苦心させられた。発情期のサル2匹とうつ病のサル1匹を連れて歩いているようなもんだと思ってもらえば、私の苦労が分かると思う。

 とは言え、樹木がそのまま建物に変化したような不思議な街並み、行き交う天女のような純血エルフたち、そして大幅にベジタブル方面に振り切った珍しい料理など、観光を楽しんでいるうちに、私たちは落ち着きを取り戻してきていた。

 そして観光の後は、今回のメインイベントである東エルフ女王への謁見。偶然にもカウニスさんが宮廷に仕える身だったこともあり、謁見にも付いてきてもらった。

 東エルフ族の女王が住むのは、らせん状に伸びた樹木で作られた尖塔だった。敷地自体はそう広くはないものの、天に向かって高くそびえ立つ姿が印象的だ。建物の色は白とエメラルドグリーンを基調にまとめられており、宝石のようにきらめいている。今まで訪れたどの国とも違う幻想的な光景に、私はもちろん、それまで騒がしかった三人も息を呑んだ。

「すごいね……」

 つぶやいた私に、リセリアちゃんとユキムラくんが無言で頷く。

 ユリシーも尖塔を見上げ、感極まったように固まっている。入国してから異常に興奮しっぱなしの彼女だったが、裏返せばそれだけ憧れの強い場所だったということ。その中心部を前にして、さすがに厳かな気持ちになっているのだろう。

 ただの中二病百合娘かと思いがちだけど、ユリシーには意外と素直なところがあるんだよね。そう思って、微笑ましい気持ちでユリシーの隣に立っていると、震える声で彼女が言った。


「この塔が、キマシタワーなんだね……ふへへ……」


 ユリシーズを奥義・錫杖回転突きフルスイングでしばき倒し、尖塔に入った。


 城内は、街の中以上に美しいエルフばかりだった。ここまでくると、なんだか精巧なマネキンに囲まれているようで少々うすら寒い気さえする。例えば人間同士でも人種が違うと見分けがつきにくいように、エルフ同士には明確な差異があるのだろうが、私たちから見るともはや違いが分からない。顔立ちの整い過ぎた、美しすぎる妖精たち。本当に私たちとは、流れている血からして違うのだろう。

 リセリアちゃんも近い感想を持ったらしく、小声で私にささやいてきた。

「ここまで来ると、さっきまでの嫉妬心すら消えそうだよ。さすがに、比べても仕方が無いって気になってきちゃう」

 そう言って彼女はため息をついたが、その表情はさっきよりも明るい。どうやら良い意味であきらめがついたようだ。

「良い機会だから、ちょっと謙虚さを取り戻そうと思うよ。冒険や戦いもそうだけど、女性としても調子に乗ってちゃいけないよね」

 バツが悪そうに笑う彼女。そう、リセリアちゃんも本当は素直で謙虚な女の子なのだ。私たちパーティが有名になるにつれて『噂の美人踊り子!』と取り上げられることが増え、本人も調子に乗ったというより、その期待に応えようとして「私はパーティの看板、いつも綺麗でいなきゃ!」と振る舞っていた部分もあったのだろう。

「何言ってんの、リセはめちゃくちゃ美人なんだから、そのまんまでいいんだって」

 私がそう言った時、間から、私たちを案内してくれていたカウニスさんが話に入ってきた。

「そうですよっ! リセリアさんは素敵ですっ!」

「え? どうしたんですか、急に」

 そう言ったリセリアちゃんの顔には、驚きだけでなく「エルフに言われても、お世辞か嫌味にしか聞こえないお……」という戸惑いも浮かんでいた。

 しかし、カウニスさんはそれに気付かないのか続けて話し始めた。

「だって、リセリアさん、とても蠱惑的というか、セクシーでいらっしゃいますよね。私たちって、華奢すぎることをコンプレックスに思うことが多くて……。エルフの中には人間の女性の大人っぽいスタイルに憧れる者も多いんです。その中でもリセリアさんは、モデルさんみたいでかっこいいです!」

 熱っぽく語るカウニスさんの言葉に、嘘やおべっかはなさそうだった。言われてみれば、エルフは確かに細くて美しいのだが、肉感的な色気、という感じは薄いかもしれない。それに対してリセリアちゃんは、ぼんきゅっぼんのグラマー体型に、踊り子のヒラヒラした服装もあいまって、完全にセクシー系。タイプの違いからエルフが憧れるというのも、ありそうな話だった。

 カウニスさんは熱い視線をリセリアちゃんに向けたままさらに続けた。

「人間の方には、これまで魔法による遠視でしかお会いしたことがなかったのですが、あなたほどお美しい人間の女性を目にしたのは初めてです。エルフ族には無い、熟した果実のような豊潤な魅力を感じます。美容の秘訣みたいなものってあるのでしょうか?」

 その言葉を聞いたリセリアは顔を俯かせ、一呼吸分の間を置いてから小声で返事をした。

「……ごめんなさい、よく聞こえなかったんですけど、今、なんておっしゃいました?」

「あ、すみません。美容の秘訣みたいなもの、あるのでしょうか?」

「その前です」

「えっと……熟した果実のよう、こんなお美しい人間の方初めて、モデルさんみたいでかっこいいです、と言いました」

「誰が?」

「リ、リセリアさんが、です」

「私が?」

「は、はい……」

「ふ、ふふ……ふふふふ……ふははは! やだ~! そんなことないです! 私もエルフのみなさんみたいに可憐になりたいですう~!」

 顔を上げ、頬に手を当てた彼女の表情には、完っっっ全に女の自信が戻っていた。

 この国に入ってから見せたことのなかった満面の笑みでまくしたてる。


「特別なことは全然してないんですけどね? でも、冒険中でも常に見られることは意識してますね。異性はもちろん、同性からも。ほら、同性同士の方が良く見てるじゃないですか? そういう心がけの積み重ねが大事みたいな? それが美の秘訣と言えば秘訣かもしれませんね! 食べ物とか運動とかは気を遣ってないです。ええ、はい、意外ってよく言われます。でも冒険者なので、自然ストイックな暮らしにはなっちゃうんですけど。えっと、さっきなんておっしゃいましたっけ、えと、モデルみたい? いや、全然そんなモデルさんに悪いっす! 失礼っす! 私なんてホントただの踊り子なので! 一応、人間界で一番有名な劇場でソロとって踊ったこともあるんですけどぉ~……ま、それも昔の話ですし。ちやほやされたこともありましたけど、踊らされるわけにもいきませんから。って踊り子なんですけど(笑)。……あ、スタイルですか? 当時から変わってないですね。え? やだ~! エルフさん細くってホント憧れます! 私なんて、もうちょっと胸小さくても良かったのになあ、って思うことも多いんですよ~。え? そこが羨ましい? え~、ないないないない! 絶対細い方が良いですよぅ、エルフさんみたいに! ホント肩こるだけですよ? 体の線が出過ぎるから、逆に着れない服とかもあって悔しいしー。え? そこがモデルみたい? いやそんな何回も言わないでくださいよ、いくら謙虚が売りの私でも調子乗っちゃうからぁ!」


 リセリアを、奥義・錫杖三段当てトリプルフリックでしばき倒し、圧倒されているカウニスさんに地を掘らん勢いで土下座したのち、東エルフ族の女王が待つ謁見の間に着いた。


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 長くなっているわりに、全然中身がないエルフの国編、次回で完結です!

 じゃあまた来週! ナターシャでした!

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僧侶ナターシャの“世界救ったけど質問ある??” 野々花子 @nonohana

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