第2話 面談:グリンゴルム工場工員見習いユーイチ君の事例
第三市区市庁舎前
脇役助司祭エルローワ「司祭様、大きな前進ですね」主人公オレンディル「ああ、そうだな。救貧監督官が話の分かる方で助かるよ」姿勢良く石段を降り「しかし今までに200人以上のイセカイ者の青少年たちが命を落としている。もっと早く手を打てなかったものか」
この都市にワープしてくるイセカイ者は、適切な保護を得られない場合の平均生存日数は3日程度で、わりとすぐに死ぬ。死因は多い方から事故死、獄中死、他殺、病死、餓死と続く。
「しかもみな年端のいかぬ少年ばかり。嘆かわしいことだ。彼らの神はなぜこのような試練を」
「司祭様......」
「......ここは良い町だが、課題も多い」
市庁舎前の広場はいつも綺麗に掃除され道行く色んな種族の人々も小綺麗な格好で金持ちばかり。だが、ちょっと路地裏に入ると小汚い浮浪者とか変な売人とかがいっぱいなのだ。
「この町には持てる者と持たざる者がいる。そして最も持たざる者が」
「イセカイ者ですね」
「そうだ。そして我らの神エルの最も大切な教えが、持たざる者を助けよ、だ」
エルローワはすっかり感動してしまい言葉が出ないが
「せっかくこの辺に来たのだ、親方のところに寄っていこうか」
「それはよいですね」
早速親方のところへ行こう。市庁舎通りを少し歩いて右折。
グリンゴルムの町工場
「親方はいるかな」
オレンディルたちが入ったのはドワーフの町工場で、筋肉質のドワーフおじさんたちがなんかの金属をドカンバキンしており、
「親方!司祭様だぜー!」
「おう待ってろ!」
一番ヒゲの長いドワーフが登場。
「司祭様!こんなむさ苦しい所にどうも」
「ユーイチ君は元気かな」
「ユーイチですか!おおいユーイチ!こっちこい!」
「はい親方!」
親方が叫ぶとドワーフに交じって何かの金属を叩いてた人間が寄ってきた。
「ユーイチ君、元気かね!」
「司祭様!それにエルローワ様!」
ユーイチ君は上品な佇まいのエルフ司祭と美しい助司祭の姿に顔を赤くして喜んだ。
ユーイチ君。彼はイセカイ者の中でも最も成功を収めた幸運な男である!現在グリンゴルム工場の住込み工員見習いとして工賃12カスタルをもらうという輝かしい立場にいるのだ!12カスタルあれば黒パンが6個も買える。
「親方、無理を聞いてもらって本当に助かるよ」
「いや、いいんすよガハハ」
「ユーイチ君、仕事はどうかね?慣れたかな」
「はい!親方のおかげで」
すっかりドワーフ風のアクセントでここの言葉をしゃべれるようになっており偉い。
「こいつは最初ひ弱すぎてどうにもならんと思ってたんですがね、司祭様の言うとおり読み書き算術が出来るもんで、覚えが速いんですよ」
「何もかも司祭様と親方のおかげです!僕も最初異世界に来て自分がラノベの主人公みたいと浮かれてたんですけど、でも実際には言葉も通じないしお金も持ってないし何もできなくて・・・でも今は親方の下で一人前になれるよう頑張ってるんすよ」
「ラノベってなんだ?」
「彼らの国の言葉のようだね」
「ユーイチさん、私できることがあれば言ってくださいね」
エルローワが言うとユーイチ君は挙動不審になり
「はははいがんばりまひゅ」
美しいエルフの女性に話しかけられて興奮した模様。彼は元の世界では、人間の女の子にすら話しかけてもらったことがほとんど無かったのだ!
「良かったねユーイチ君。親方、邪魔したね。彼のことでもし何かあったらすぐ私に相談してほしい。私が責任を持つから」
「滅相もないことで!」
工場を出た。
「エルローワよ、彼は本当に幸運だったな」
「ええ、初めて会ったときはどうなることかと。でも今はとても良い方向に育ってくれて」
ユーイチ君がこの世界で死なずに済んだのは、たまたまオレンディルとエルローワの目の前に出現したという幸運のおかげだった。彼はエルローワを見るなり自己肥大妄想を発症。しどろもどろでしゃべり始めたが、言葉が通じないことに焦り、賢明にも身振り手振りで二人に助けを求めたのだ。
その後、オレンディルの教会に保護されたユーイチ君は、絵が上手という特技を駆使して意志の疎通を図り、少しずつ言葉を習得していった。
「そうだな。そして私たちにとっても幸運だったと言うべきか」
ユーイチ君との対話を続けたおかげで、オレンディルたちも日本語を少ししゃべれるのだ。
「彼は私たちにイセカイ者を救う手がかりを与えてくれた」
「私たちも助けられているのですね」
「そうだ、そして」
またためになることを言いかけると
「おーいまたイセカイ者だぜ」
「ほんとかよ」
路地裏から声が。
「急ごう」
現場に着くと人間の足が突き出たむしろが。
「遅かったか」
「君たち、これはどうしたのかね」
むしろのまわりにたむろするゴブリンとかエルフの子供とかに聞くと
「いや、なんか川を流れて来たんですよ」
「すくい上げたらイセカイの死体で」
「死んでたんですよ!嘘じゃねえです」
「そうか......」
むしろをめくると10代後半らしい人間の青年の死体。
「顔に殴られたような傷、少し前のものだな」
「かわいそうに。何かのもめ事に巻き込まれて、暴力をふるわれて川に落ちたのですね」
「みんな、すぐに司直を呼ぶのだ。亡骸は私が弔おう」
イセカイ者、それは身一つで別世界にワープしてしまう不幸な人々である。
「彼らの神はなんと無慈悲なのか」
皆さんも想像してみてほしい。もし仮に貴方が日本と国交が無く英語も通じない国にワープしてしまったら、果たして何時間無事でいられるだろうか?下手したら数分のうちに凶悪犯罪の被害者になっているかも知れない。
「もっと救いの手を広くしなければ」
オレンディルは決意を新たにしたのだった!
市立イセカイ者教化学園 @a4b5
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