市立イセカイ者教化学園

@a4b5

第1話 【議事録】イセカイ者保護に関する施策

【議事録】


議題

イセカイ者保護に関する施策


出席者

救貧監督官アラドリエラ

第三市長イラウリエル

治安判事エランディル

第三市区司祭オレンディル


決定事項

イセカイ者の収容と就労支援を目的とする施設を第三市区某所に建設。


記録者

助司祭エルローワ



アラドリエラ(以下ア)「今回お集まりいただいたのは、最近増加しつつあるイセカイ者の保護と社会参加についてです」

イラウリエル(以下イ)「イセカイ者には困っている。言葉も通じず急に現れて市内で騒ぎを起こし治安を乱すのだ。何とかしてほしい」

エランディル(以下エ)「同感、迷惑ですな」



オレンディル(以下オ)「皆さま、是非とも彼らにも慈悲の心をもっていただきたい。彼らも被害者なのです」

イ「司祭殿の救貧院のおかげで我が市区の犯罪発生数は減っておる。それはありがたく思っとる。だが、この問題になぜ貴方が首を突っ込むのか?」

エ「不法入国者による犯罪問題ですからな」



ア「司祭殿によればこれも救貧活動の視点である程度解決できるとのことでした。それでみなさんにお集まりを」

オ「イセカイ者。彼らは原因不明の現象でこの世界に現れる異世界の住人ですが、彼らもまた貧者なのです」

イ「どういうことだ?」

エ「我々よりも仕立ての良い服を着てる者が大半だが」



オ「彼らはまず我々の言葉を話せません。これが貧者たる第一の条件。運の悪いイセカイ者は我々に出会う前に狼藉者に襲われて死にます。そして第二に意味不明な全能感を持っている。これは幸運にも我々が保護した少年との対話を繰り返してわかったことなのですが」

エ「全能感?なんだねそれは」



オ「自分が特別な力を持っており、この世界でとても役に立つ大人物であるという妄想です」

イ「意味が分からんが」

オ「私にもわかりません。しかし数人の少年を保護し、彼らの言語を学び、話し合うと必ずこの意味不明な妄想に突き当たるのです」

ア「具体的な事例を説明願えますか?司祭殿」



オ「ではいくつか。一つは自分がこの世界で語り継がれる伝説の戦士だという妄想。これはかなり多い事案で、早急に保護しないと夜盗などに積極的に絡んで死にます」

イ「やっかいな輩だ」

オ「もう一つは自分の体に特殊な力が宿っていてそれが世界を救うという妄想」

ア「高位魔術師の子弟ですか?」



オ「彼らに魔術の素養は一切ありません。彼らは全て人間の若い男なのですが、魔術的素養を持つ者は皆無です。大人しい者ばかりなので、こちらは実害は少ないのですが、言葉が通じないので生活力がないのは同様です」

エ「保護と社会参加だったかな?妄想癖の言葉通じぬ者相手にそんな事ができるのか」



オ「できます。彼らはまだ子供で、頭も柔らかい。そしてイセカイ者の全てが人間であるのも救いです。彼らは我らエルフのように長寿命でもなく、ドワーフのように器用で頑健でもなくオーガのように精強でもありません。しかし短命ゆえか物事を学ぶ速度は速いのです」

イ「確かに人間ならばそうだな」



エ「我々の考えつかんような複雑な詐欺事件の主犯もたいていは人間だからなあ」

ア「司祭殿、何か具体的な施策案はありますか」

オ「はい。彼らを一か所に集め教育します。寄宿舎学校のような施設を作り、そこで言葉を学ばせ、文化と習慣を理解させ、働き口を紹介します」

イ「不可能ではないか?」



オ「可能です。彼らとの対話を繰り返すとわかるのですが、彼らは例外なく我々の平均水準よりはるかに高度な教育を受けた者たちです。読み書きと基本的な算術は全員が会得しています。言葉の壁と妄想を取り払ってやれば、この世界でも真っ当に暮らしていけます。どうかご理解を。彼らに救いの手を」



イ「しかし、異界からばらばらに来る者を教化できるのかね?」

オ「幸いにもイセカイ者は全員ニッポンという立憲君主国の出身です。彼らの文化的背景は似ています」

ア「市長、私からもお願いです。イセカイ者を野放しにすることは救貧政策の視点からも困るのです。この国のことで手一杯ですから」



エ「虞犯者は一か所にまとめたほうが管理しやすい。その点は良いと思う」

オ「どうか市長におかれましては、イセカイ者の学園について便宜を」

イ「ううむ、分かった。その方向で考えていこう。司祭殿の頼みだしな」

オ「ありがとうございます」

ア「では学園建設の方向で、よろしいですね」

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