第33話 二人きりになったのはなにも意図した事ではない

 帰路を歩いていた俺は、あることをずっと考えていた。

 阿賀山先輩の話は、嘘ではないと思う。言葉の端々はしばしからにじみ出ていた感情は本物だったように思えたからだ。

 だが雨宮のとは食い違っている気がしてならなかった。


 島を消すと言った雨宮の言葉が脳裏に浮かぶ。

 それは生徒会を建て直し、引いてはサクライにはびこり始めている腐敗を清浄化するという先輩の目的と、合致がっちしていない。

 小骨が刺さって抜けないような不快な違和感を抱いたまま、夕飯なににすっかなと自宅の扉を開けた。


「遅いわ。遅刻ね。罰金よ」


 玄関で仁王立ちしていた雨宮るりかは、開口一番、不満げな挨拶おかえりなさいを投げつけてきた。


「ここは俺の部屋であって門限はない。しかもその上で罰金とかさすがに驚きを隠せない」

「私がいたことには驚かないのね」

「お前の突拍子もない行動にも慣れた。どうせ管理人さんにおしとやかな挨拶でもして鍵を開けてもらったとかだろ?」

「ご明察。でも安心して。部屋は荒らしてないから。もちろんノートPCにあったエッチな画像フォルダも見てないわ」

「まったく安心する材料にならないっていうか絶対見てんだろそれ」

「……見てないわ」

「その溜め、完全に肯定じゃねえか」

「私が見てないったら見てないの」

「でも俺が先輩の家に行ったのは見てたんだろ」


 雨宮は少しだけ目を見開く。「察しが良いのね」と言うと、すぐに元の固い表情に戻った。


「お前にゃ聞きたいことがある」

「奇遇ね。私もよ。だからここにいるのだけど」

「ならとりあえず俺の話からでいいか」

「分ったわ。私の話からいきましょう」


 お、おう。なにが分ってそういう結論に? 日本語が通じなかったのかな?


「まあいいや。話ってなんだよ」

「どうやって選挙に勝つか、をちょっと考えたくて」

「え? あの生徒会室で解散ぶっぱしたのはなにか勝算があったからでは……」

「ないわ。今から考えるのよ」


 うーんこの。先輩も言ってたけどほんと、道を作る構想のは得意だが舗装はできないのなこいつ。

 ただ意外なほど真剣な顔つきからは、一体どうやって会長選挙に勝つか頭を悩ませているのかがうかがいい知れた。


「わーった。とりあえず中に入れてくれ。腹減ったから飯食う。話は長くなりそうだし、お前も飯食ってきたらどうだ」

「分ったわ」

「近くに結構美味い中華料理屋がある。安いしおススメだぞ」

「行かないわ。夕食はここで食べるから。構わないでしょう?」

「いやまあいいけど。コンビニも近くにあるし」

「あと今夜は泊まっていくから。それも構わないでしょう?」

「まあそれも……――もぉうん⁉」


 変な声出た。

 こいつ今なんつった? 泊まるっつったか? いや待て慌てるな。止まると言ったのかもしれない。


「心臓でよかったら止めて上げましょうか」

「物騒な発言を真顔で言うのやめろ? つか、泊まるって、いやいや。ないありえない!」

「なにを慌ててるの。イカ臭いのは我慢するわよ」

「臭くないでしょ⁉ ていうかそこじゃない」


 なにをバカなことを言い出すんだこの女は――と思い部屋に入ろうとするが、雨宮さんは腕を組んで仁王立ちのまま、入らせてくれなかった。「さっさとハイと言いなさい。そうじゃないとこの部屋には入らせないわよ」ってここは俺のおうちなのですが!


「親は⁉ 男子のうちに泊まるとか心配するだろ⁉」

「女子寮だから大丈夫」

「一体なにが大丈夫なの。それはそれで門限とかあるんじゃ」

「そんなものあってないようなものよ」

「第一どこで寝るんだ。ベッドは一つしかないぞ」

冒険者ハンター見習いなら寝袋の一つくらいあるでしょ」

「いい読みだ。確かにある。けど、女の子を寝袋なんかに寝かせるわけには」

「は? 寝るのはあなたに決まってるでしょう」


 あ、ですよね。

 とにかく。今夜の夕飯は、二人分の用意が必要そうだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る