第26話 活動報告会は嵐の予兆

 査問を開始する、と堂々たる宣言をした大野だったが、それに待ったをかけた人物がいた。


「会長代理。今日は月初の活動報告会の日です。些細ささいな問題は最後にまわしてもいいのでは?」


 黒髪のショートボブに赤い縁取りのメガネ。キチっと着こなした指定の制服には乱れ一つない。見た目こそ儚げな文学系少女だが、その目に宿る強い意思は、大野をしっかりと見据えている。

 大野は隣に座っていた女生徒の前に置かれた「副会長」というプレートに目をやると、ちっと小さく舌打ちした。


「すぐ済む。最初にやってしまって問題ないと思うが」

「代理。生徒会長代理。今日は全クラブ……182の報告を聞くので普段よりも時間がかかります。私たちが授業を欠席してまでやってきているのをお忘れなく」


 という言葉を強調しつつ、副会長の女の子は大野を見た。


「おい。なんか険悪な雰囲気だぞ」

「みのりが以前言ったいたでしょ。今の生徒会は権力争いがあるって」


 雨宮が俺にだけ聞こえるようささやいた。


「現生徒会長は長期療養中で、半年間不在。代わりに会長を務めているのがあの大野という男。本当は副会長が代理を務める予定だったのだけど、あの男が無理やり会長代理という役職を作って居座ったのよ」


 彼女は会長代理を一瞥いちべつする。

 明らかな嫌悪がそこには含まれていた。


「父親が海上都市議会連盟の議員なの。親の威光というやつね。それと元々得ていた生徒会内での権力を駆使して会長代理という席を射止めた。軽薄そうな見た目通りクズな男よ」

「お前の男に対する評価はいつも厳しいが、今回は俺の意見と一致しそうだな」

「あら。今回は、って。まるでいつもは間違ってるとでもいいたいのかしら。おかしいわね。あなたへの評価はほぼほぼ当たっていたはずなのだけど」


 そりゃどうも。

 けど良い方に当たってたのか悪い方だったのかは聞かないでおこう。


「しかしなるほど。あの二人が険悪なのは理解できた。会長代理派と副会長派ってことなんだな。しかしよく知ってるなお前。阿賀山先輩に調べてもらったのか?」

かなめが調べてくれたわ」

「あいつ護衛とか言ってるのにそんな仕事もできるんだな。やるじゃないか」

「ええやれる子よ。うちのメンバーで役に立たないのは一人だけだし」


 ほうほうそれは誰かな? と思ってレポートの続きを待っていたら雨宮さんの目がこっちを見ていました。やっぱりさっき聞かなくて良かった。現場からの報告は以上です。


 さて状況を把握できたところで、改めて生徒会メンバーの面々を見回す。

 会長代理大野の独断決定や横柄な態度をなんとも思ってない者もいれば、あからさまに不快な目を向けている者もいる。勢力図は互角か、代理派が少し優勢というところか。

 そんなこんなのうちに、大野は決断を下す。


「そうだな、副会長の進言には一理ある。査問は本会議の最後に行うとしよう」


 寛大かんだいな所を示すつもりなのか、大野は口の端を挙げて一笑すると副会長の提案を受け入れた。派閥争いが一段落して生徒会室の雰囲気も少し和らぐ。


「そういうことで、あなたたちには申し訳ないけれどしばらくその席で待機していてください」


 副会長がメガネを直しながら俺たちに声をかけた。気を利かせた別の女生徒が副会長に「お茶をお持ちしましょうか」と笑いかけるが、メガネの子は「必要ありません」と背筋を伸ばした。

 うーん。大野のいらつくチャラさもどうかと思うが、この副会長の堅さっぷりもハンパないな? 足して二で割ったらちょうどよくなるんじゃないかと思ってしまう。


「では四月度の活動報告会を始めるとするか!」大野が無駄にデカい声で宣言すると、生徒会メンバーの一人が後方のドアを開いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る