第23話 閑話は開幕を誘う
「あっちゃー……先手打たれちゃったか」
数人の生徒会メンバー、その倍はいる警官。それらが倉庫の周囲に封鎖線を敷いており、さらに部活で登校してきていた生徒らが何事かと集まってきていたからだ。
今やちょっとした観光地なみの人口密度である。
「なになに、どったのこれ」「いや昨日地震があったじゃん? で、ここから地下に続く抜け道があるって情報があったみたいでさ。警察が来て封鎖してるみたい」
立ち去る生徒らの会話。それを耳にした俺たちは互いに顔を見合わせた。
「ここから繋がってるってのは明らかなウソなんだけど、昨日の今日だから警察の動きも早いな」
「腐敗してロクな人材ばかりなのに、なかなかどうして手が早いじゃない」と雨宮。
「ま、腐っても
「二人とも落ち着いてるな。俺は一刻も早く開けたい気持ちでいっぱいなんだが」
「あなたが一刻も早くすべきことは童貞を捨て、童貞臭を消し、そして私の嗅覚の邪魔をしないことよ」
「そんな匂いがあったことにまず驚愕だわ。で、どうすんだ雨宮。入れなきゃ鍵があっても例の箱は開けられないぞ」
そうねと小さく頷いた雨宮るりかは、少し思案したのち、答えを出した。
「今日は一旦引きましょう」
「いいのか? 警察があの地下室を見つけたら、俺たちが入る余地なんてなくなっちまうぞ」
「その心配はいらないわ」
「なぜ?」
「
「おいおい相手は公的機関だぞ。たかが学生にそんなことできんのか?」
「バカね。
「まじかよ生徒会ひでえな」
「でも生徒会と雨露木メモの関係を知ってるのは一部でしょうけどね。今警官と話している子が権力を行使する人間に見える?」
雨宮は、汗をかきながら警官と話している生徒を指さした。
どうみても見えない。つうか一年だよなあれ?
上から言われてここに来ているだけの下っ端なのだろう。生徒会に入ってるヤツ全員が全員悪というわけでもなさそうだ。
「とにかく箱を開ける鍵はこちらにあるんだし、しばらく様子を見て次の手を考ればいいわ。こっちも今日明日で島に騒ぎを起こしちゃったし少し反省する期間を設けないとね」
彼女はそう言うとふふっと小さく笑った。
その笑顔は、こちらがつられて笑いそうになるほど無邪気で魅力的で、部屋を出る間際、俺に物騒な発言をした人間が浮かべたモノとは思えなかった。
――『革命を起こしてこの島を消しとばすことよ』
あの真意は、まだ、聞けていない。
少なくとも、あの穏やかでない言葉が、雨宮るりかという少女を突き動かしている動機だというのは確かだと感じた。
いったいこいつは、大伯父の遺産たる雨露木メモを見つけて、なにをしようとしているのだろうか?
雨宮と阿賀山先輩は二人でなにか話していたが、どうやら生徒会長バッジを誰が保管しておくかということだった。
「私が預かるわ」という雨宮の発言に、阿賀山先輩は一瞬
もしかしたら誰かに見られているのではないかと、警戒しながら帰路についたが、とくになにも起こらず家に着いた。
ワンルームのベッドに倒れ込む。
服にこびりついた潮の匂いが気になる。でも面倒だから起き上がりたくない。なによりとてつもなく眠い。
もう何日も寝ていないような気がしたが、雨宮と出会ったのは入学式の放課後だったから、まだ十日ほどしか経ってない。
たったの十日! たった十日で! 自分が望んでいた非日常が起こり得るとは思ってもみなかった。
そこに隠された秘密の箱。
施錠は最強のアマロギセキュリティ。
生体情報を埋め込んだ鍵は生徒会長バッジ。
中に入っているであろう雨露木メモの正体とはなにか。
そして雨露木メモによって現生徒会に集まる巨額の金。
雨宮るりかの言葉の真意。
ああ、一度に多くのことが起こりすぎて、もうなにがなんだかわかんねぇ。
とりあえず鍵は手に入れた。あとはタイミングも見計らって箱を開ける。
雨宮の目的はあとで聞けばいい。
それで終わるはず……だ……。
仰向けになり目を閉じる。溜まっていた疲労が一斉に挨拶し始め、意識が内宇宙へと吸い込まれていった。
しかし次の日。眠りから覚めた俺は、億単位で動く財宝が様々な思惑によって動かされていることを思い知らされることになる。
混沌と混乱への一手を最初に動かしてきたのは、やはり桜ヶ峰学園生徒会「桜会」だった。
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