第08話 その手がかりを

 大鉄柱前を通るメインストリートから外れ、脇にある小道に入る。

 十数メートルも進むと何本もの鉄の柱がオブジェクトのように立っており、木々がその間を縫うかのように植林されている。この少し変わった雰囲気を持つ場所は公園として利用されているが、この時間では人気ひとけもない。


「座標が示していたのはこの辺り、か?」


 街灯に照らされていない草むらの一角。一番近くに合った鉄の柱を調べると膝上程度の高さに10センチ四方の小さな手扉が見つかった。探そうと思わなければ目につくことすらない場所にあったそれに鍵はなく、引くと簡単に開くことができた。

 中にあったのはA四サイズのメモ。

 雨露木メモかもしれないと期待してしまったが、書かれていたのはなにか紋章のような絵だけだった。


「……さてと。これはなんだ?」

「生体情報が入った鍵じゃないのは確かね」

「ああ。問題はこれがなにを意味しているかってことだが」


 一瞬悪戯いたずらに踊らされたのかと思ったが、それにしては手が込みすぎてる。あんな大がかりな仕掛けは雨露木征爾でもなければできるものじゃないだろう。だとすれば、これにもなにか意味が込められているはずである。


「そういえばこの紋章……。桜ヶ峰さくらがみね学園の校章に似てる気がするわね」

「言われて見ればそうだな」

「学園とつながりがあるということ?」


 雨宮は顎に手を当てふむと思案していたが、


「学園の初代理事長は、大伯父おおおじさんと親友だったと聞いたことがあるわ。もしかしたら学園に何かの手掛かりを残したのかもしれない」

「じゃあその理事長に聞けばなにか分かるかもしれない?」

「そうしたいところだけど、無理ね。初代理事長は数年前に亡くなってるわ。でも聞くべき人間に心当たりはある」


 誰だと尋ねると、雨宮は少し複雑な表情を浮かべた。

 あまり紹介したくない人物なのだろうか?


「今回ので、私に人物でもあるわ。ついでに言うなら協力者を捕獲するための作戦を練った人物ね」


 ほう。つまりあれか。例の倉庫で雨宮を裸同然の恰好にさせて待機させた張本人ってことか。

 ……うーん。そりゃ確かにあまり紹介したくない為人ひととなりだ。


「まあいいわ。初日にしては十分すぎるほど収穫があったし、とりあえず今日はこれで解散にしましょう」

「ん、了解だ」

「それじゃ明日の放課後、またあの倉庫で」


 そう言って、雨宮は背を向け、俺の返答も聞かずに歩きはじめた。

 もし行かないといったら彼女はどうするつもりだったんだろうか。

 脅されているとはいえ行かないっていう選択肢もあるんだぞ?


 一瞬考え、ふっと自嘲した。

 それはありえない選択肢だ。

 雨露木メモ。

 冒険。

 それだけでも十分な理由。それを率いるのは、強引だが魅力的な少女。

 なんというか、滅茶苦茶で支離滅裂なのに、その無駄に高い行動力と言動は不思議と説得されてしまう力がある。

 あの奇人変人代表の雨露木征爾の孫だというのにも納得がいく。

 彼女という存在を成す成分に色々欠けているのは間違いないが、それでも引き寄せられてしまうのは、きっと一種のカリスマを備えているからなのだろう。


「おい、帰り道はそっちじゃないぞ」


 道を間違えて進み始めたカリスマの背中に声をかけつつ、駆け寄る。

 とりあえず、不思議な少女を学校までエスコートする必要がありそうだった。

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