第13話 大迷宮
大鉄柱から南の地区は工業地帯となって栄えており、大小様々な建物が立ち並んでいる。そしてこの地区の地下には、現在知られている中で最大規模の
全長3㎞、深さ80メートルにも及ぶ巨大な空間。
島の浮力を得るためだと言われているが、実際はなんのために作られたかはっきりしておらず、初期に発見され何千人という人間が調査してなお未踏の場所があるといわれている「現代のダンジョン」だ。
中は何千という鉄柱が複雑に絡み合っており、この設計だけでも雨露木征爾の天才――あるいは奇才――の一端が垣間見えると評価されている。
いくつも発見されている出入口は、もちろん全て厳しい監視の目がおかれているのだが、新たな入り口が発見されるのも、また珍しくなかった。
「ちょっと八坂。いくら薄暗い地下だからといって、可愛い私のお尻を堂々と触るというのは如何なモノかしら。それともモノを膨張させているのかしら」
「くっそ誤解を招くような言い方はやめろ? いいから早く上に登れ。右上にある鉄棒に手をかけて、違うそっちじゃねーっつのこの運動音痴。いてっ! 顔を踏むな!」
そんな巨大空間に、なぜ俺たちが来ているか説明するには、昨日の夕方まで
*******
鍵の正体が判明してから一週間。
倉庫に集まった俺たちは、どうやって生徒会長バッジを手に入れるかを模索していた。
「鍵のありかは分ったけれど、次に起こすアクションを考える必要があるわね」
「なんだよアクションって。革命でも起こして生徒会に反乱でもする気か? 普通に会長に借りればいいだけだろ」
生徒会長と言えば、たしか入学式で壇上に立って挨拶していた気がする。しかしどんな奴か思い浮かべられなかった俺に、阿賀山先輩がフォローを入れてくる。
「入学式で挨拶をしていた大野って男だねー。もっとも生徒会長は体調不良で出席してなかったから、会長代理だったけど」
「ああ、思い出した。やたらガタイがイイ奴だったような」
「ええ。醜い男だったわね」
「いや俺は顔についてはなにも言ってないんですが雨宮さん……。つか容姿は普通だった気がするぞ?」
「私が新入生代表で隣にいたからよ。美女の隣にいたら比較されて評価が減少するのは当然でしょう」
お前はカオスナイトか何かなの? 周囲三マスの相手キャラのパラメータとか下げちゃうの? まあ隣にいたら否応なしに比較されるっつー部分はあながち間違いじゃないけどさ。
「生徒会は雨露木メモを使った献金で成り立ってるっても過言じゃないわ。貸してくださいって頼んでバカ正直に貸してくれるとは思えないわね」
「まあそりゃそうか」
「あーそれなら大丈夫よーん。生徒会長バッジはもう随分前に行方不明だしー」
「え?」
先輩はいつものにこにこ笑顔だったが、発した言葉はそれなりに結構衝撃な内容だった。
「行方不明ってどういうことですか」
「そのまんまの意味だよ。会長就任の際に使われてるのはオリジナルのレプリカだもん」
「え、なら生徒会長バッジはどこにあるか誰も知らないってこと? ちょ、ちょい! 聞いてないっすよ⁉」
「言ってないから当然ジャン」
いやそんなさらりと流されても?
「じゃあ先に見つけられたらアウトってことでは」
「ざっつらーい。けど、あれが箱を開ける鍵だと知ってるのは今のところあたしたちだけだし、まあ大丈夫かな。そしてこの天才ハッカー美少女のあたしは、オリジナルバッジが今どこにあるか、だいたいの推測を終えているわ」
「まじすか天才美少女ハカーさん」
「ふふーん。あたしを誰だと思っていたの」
「清純系エロビッチとしか」
「真面目に殺すけどいい?」
「すみません。冗談でももう二度と言わないッス」
睨むでも笑顔でもなく、淡々と吐かれた言葉は心底怖かったッス。
「で、どこにあるんですか」
「生徒会データベースと学園データベースをハッキングして得た情報から、オリジナルバッジをロストしたのは九年前の生徒会長だと分ったわ。さて少年、九年前、このサクライでは大きな発見があったんだけど、知ってる?」
「九年前ですか。確か南地区の地下に大規模な
そう言いつつ考えを巡らせていると、あることに思い至った。
「ああ、なるほどそういうことですか」
「ちょっとなにがそういうことなのよ。どういうことなのよ。私を置いてけぼりにしないでさっさと言いなさいよ」
蚊帳の外に置かれていた雨宮がムッとした口調で耳を引っ張った。痛い。
「えっとな。桜会は各地にある
「うん」
「そしてオリジナルバッジは九年前の生徒会長が無くした。どこで?」
「どこでって、無くすってことは、どこかで落としたんじゃないかしら」
「落としたのなら探せばすぐ見つかる。けど今まで見つかってない。答えは見つけられない場所で無くしたからだ」
「見つけられない場所…………あ、
「そういうことだ。多分、九年前の生徒会長は
もちろん、なにを探していたかは言うまでもないだろう。
雨露木メモだ。
「ま、外部に助けを求めなきゃならない状況になったのはお間抜けだけどな。……優秀な生徒会長でもそんなミスするもんなんだなぁ」
「さあさあバッジの場所は分かった。後は探すだけだよ」
「つってもあそこは広すぎますよ、先輩。そもそも立ち入り禁止されてますし」
「なーに真面目なこと言ってんの。抜け道を探して造って入り込んで探すまでが道具のお仕事でしょ? 今回もご褒美あげるからがんばんなよ」
「前回のご褒美とらはまだ頂いてないんですけど」
「え、あげたジャン」
「え、貰いました?」
「ほーらー。スカートの中に手をいれさせてあげたジャン? そのあと何にもしなかったケド。変態童貞は純情でよろしいねまったく」
彼女はそう言って、顔を逸らした俺に顔を近づけくくくと忍び笑いを漏らした。
「ち、ちょっと八坂! わ、私の許可もなくそんなことをしてたの⁉」
「い、いいいいいいや無理やりだっての! いきなりぐいっときてこうなんかちょっとあったかくて!」
「……詳しい状況説明を誰がしろといったのこのばか!」
耳を引っ張られ、近かった阿賀山先輩の顔から遠ざけられる。おおう痛い。
「もう! みのりもこれを調子に乗らせないでよね。これは私が契約した道具なんだから」
「欲しがんないから安心してよ」
ふふっと忍び笑いを漏らした先輩の視線と、雨宮の視線が一瞬交差した。
仲のいい友人、という枠からほんの少しだけ外れた、ような気がした視線だった。
「さてさて。というわけでこれからの目的地は決まったね。少年とあめみーは南地区に行ってちょうだいな」
「先輩は来ないんですか?」
「あたしは運動は向いてないからねー。行っても足手纏いになっちゃうから」
そういう意味では雨宮も似たようなものだが……口にしたら面倒なので止めておこう。
「みのりは来なくても大丈夫よ。人手は用意してるから」
「あれ。あめみー友達いたの?」
「もちろんいないわ」
聞く方も聞く方だが、堂々と答える方もどうなのか。
「ちょっといろいろ調べて手を打っておいたのよ。そういう方面に強い人材をね。そこの道具一人だけだと単純な人手が足りないかもしれないと思って」
うん。確かに広大な場所を調べるとなると、俺だけでは絶対に手が足りない。
「八坂よりもきっと役に立つわ。もちろん、今回の調査が極秘だということも含めて信頼できる筋から集めたから安心して」
信頼できる筋ねぇ? 一体どこなんだか。
つうか無駄な行動力と発想だけはあるよな、こいつ。
ふと見ると、阿賀山先輩の視線は雨宮にじっと固定されていた。
おちゃらけた雰囲気でも清楚な雰囲気でも友人を気遣うような雰囲気でもなく、そう、それはなんとなく異質なものを見るような瞳で――――
ガタン。
と、そのとき、倉庫にある窓の一つからなにかが倒れるような音がした。
「……あれ、今の音」
「ん? どうかしたの?」
「音? あたしにはなにも聞こえなかったけど」
どうやら俺にしか聞こえなかったらしい。
外に出て確認してみると立てかけてあった竹の棒が倒れていた。海上は時折強い風が吹くので別に不思議なことではないか。
このときはそう思ったのだった。
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