ぼく-2による記述
①
〈〈
五人のぼくがこの部屋にいる。数にはぼく自身も含まれているから、つまりぼくを除いてほかに四人、余計なぼくがいるということになる。
※
ぼくは十八から
今朝も労働が始まる。
すべてまったくいつも通りに。
それはまず
目覚めたぼくはいつもの日課をこなす。つまり
『おはようございます。社員のみなさま、昨日はよく眠れましたか。本日は紀元三○○年七月七日、
七夕か。
ぼくの脳裏によぎるひとりの女性の姿。ほかの「ぼく」たちもいま、同じ人のことを想ったのだろうか?
声を出さずに苦笑する。
なにを想うっていうんだ? たかが
ぼくと「ぼく」たちは揃ってぎくしゃくと立ち上がり、冷たい床に足を下ろす。起床時間は午前六時すこし前、始業は七時四十五分だからのんびりしてる暇はない。
そして七時。ぼくと「ぼく」たちは完全装備で部屋を出た。
すべてまったくいつも通りに。
※
七時十六分、工場の入り口に到着。
七時三十分、「ξ―2」作業区にて朝礼。社訓を絶叫したぼくの喉はがらがらになる。構いやしない、残り一日どうせ声を出すことなんてほとんどないのだ。
七時四十五分、作業開始。
十二時、午前の作業終了。工場の食堂にて昼食。
十二時三十分、瞑想訓練。
十二時五十分。
そして十三時――
作業は変わらずそこにある。
きょうの作業区分である「ξ―2」、それは具体的に言えば人形部品の被覆工程で、四年間繰り返した十数種の仕事のうちのひとつ、つまり四年で平均百四十回は繰り返した作業だから、もはや意識せずとも
余計なことは考えないほうがよいのだ。
ぼくは再び過去のなかへと逃避する――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます