父と行く最後のお祭り
ペーンネームはまだ無い
第1話:父と行く最後のお祭り
東京都
私は眩しさに目を細めながら辺りを見渡す。
幼少期を過ごしたこの町に戻ってきた。その気持ちが私を
江戸
さっそくたこ焼きを購入すると口へひとつ放り込む。うん、美味しい。他には何を食べようか? そう思いながら屋台を眺めつつぶらぶらと歩く。
屋台を眺めながら、ふと父の事を思う。私の父はお祭りが好きな人で、近所でお祭りがある度に幼少の私を連れて出かけた。父に連れられる度に、私は立ち並ぶ屋台を見比べながら何を買ってもらおうか頭を悩ませたのだ。
しかし、そんな日々はある日を
父は治療のため入院を
「そうかい。まぁ、しょうがねぇな」
余命宣告を
父は1日で数箱のタバコを消費するヘビースモーカーだったが、「家族との時間を少しでも長く作れるように酒とタバコは止めること」という医者からの忠告に従って、次の日からぴたりとタバコを止めた。
酒についてはまるで
父が余命宣告された日から、母と私は参拝を日課とした。
幼稚園が終わる時刻になると自転車に乗った母が私を迎えに来るのだが、家へと帰る途中、富岡八幡宮と深川不動尊へ寄って参拝するのだ。真剣な表情で手を合わせる母を横目に、私も真似するように手を合わせて目を
参拝は曜日も天気も関係なく毎日欠かさずに続けた。たとえ幼稚園の降園後に私が友達の家へ遊びに行くとしても、必ず母と参拝してから友達の家へと向かった。
いつも必ず何処かへ寄り道してから現れる私を不思議に思った友達に「いつも何処に寄っているの?」と問われた。
「お父さんの病気が治りますようにって神様にお願いしにいってるの」
私が答えると友達は何を思ったのか「だったら一緒に行く」と言い出し、実際に翌日から友達とその母親が参拝に加わった。
「辛い時や大変な時はお互い様でしょ」と言いながら参拝後にも色々と世話を焼いてくれる友達の母親にはどれだけ助けられたか判らない。
その後も、また1人、また2人と同行する友達が増えていき、最終的には20人を超える人数で参拝する日々になった。そして、そんな人数で病院へお見舞いに行くものだから、父は「
神様が私達の願いを
一時退院した父は、さっそく私を連れてお祭りへと出かけた。
「俺はこの祭りが見たかったのよ。なんてったってぇ今年は
そう言う父が私を連れて行ったのは、江戸三大祭のひとつにも数えられる「深川祭り」。
3年に1度おこなわれる本祭りでは、大小100
とても人気があるお祭りで、
「やっぱりこういうのは
父は私を担ぎ上げると、人ごみを
そして私は、神輿の
幼少期の思い出にふけていると、ふと手を引っ張られた。
「ねぇ、あれ食べたい」
そう言って屋台のわたあめを指さしたのは私の息子だ。購入したわたあめを手渡すと、息子は幸せそうに頬張った。
思わず我が子の姿に昔の自分を重ねる。
今のこの子は、あの頃の私のような気持ちなのだろうか?
今の私は、あの頃の父のような気持ちなのだろうか?
……だったら良いな。
いまや祭りよりも孫に夢中な父の姿を思い浮かべる。もうすぐ父は70歳になる。
「それじゃ、そろそろ行こうか。やっぱりお祭りは特等席じゃないとね」
私は息子を抱え上げると人ごみを掻き分けた。
さて、この子にはこの町がどういう思い出として残るのだろうか?
父と行く最後のお祭り ペーンネームはまだ無い @rice-steamer
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