喪失

青谷因

喪失

言い訳の多い人生を歩んできました。

就職で困らないようにと、高校へ進学しました。

勉強はそれほど嫌いではありませんでしたが。

毎日決められた時間に起きて、ご飯を食べて、満員の電車に閉じ込められて、学校へ行くのが苦痛でした。でも。

「ほら、ちゃんとママの言うとおりにしたでしょう」

就職よりも、言い訳に困らないよう、確実に受かるところへ受験しました。

そもそも、学校なんか行きたくないので、何処でもよかったのです。

父の会社が倒産したのは、家族にとって災難なことでしたが。

僕にとっては、幸運でした。何故なら。

もう、大学へ行かなくていいからです。

「ママ、大学どころじゃないよ。僕、とりあえずバイトするから、みんなで力合わせて助け合って行こうよ」

正社員になって、会社に縛られるのは、まっぴらごめんでした。

それは、長年下請けで虐げられてきた父を見ていて、強く思っていましたから。


どん底から這い上がろう、なんて、これっぽっちも、思いません。


ただただ、この、怠惰な人生が、誰かの手で早く終止符を打ってくれないかな、と。

そんな夢ばかり見ていました。


そうして僕は、これからも、言い訳を続けていくのでしょう。

誰かに薦められて始めたけれど、本当はやりたくなくって、いやでいやでたまらなくなってしまったことを、やらなくてもいいように。

いっそ、都合よくやめられるように。

誰も傷つけない方法の、言い訳を。

明日人に会う予定を、無かったことに出来る、魔法の様な言葉を。


さいごに。

ひとつだけ言い訳をして、この人生を締めくくれたら。


これ以上、僕は、生きて居なくてもいいよね?


本当は。


初めから、この世界に、存在したくなかったのです。


そうすれば。


こんなにたくさんの言い訳を、考えなくて良かったのに・・・。

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喪失 青谷因 @chinamu-aotani

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