第10話 一章(終)「ゲームは戦争」

「終わらない戦争を終わらせる…ゲーム…?」

「そうデス、戦争を終わらせるゲームデス」

突如目の前に現れた、白銀はくぎん思わかわせる美しい銀髪に金のまなこ、そして白いスクール水着のような物を着た、自身をアエルスと同じく遠い未来の世界で、私たちホモ・サピエンスを起源に進化した究極の新人類種【ディマイエンス】であるらしい少女はそう言った。

アエルスに言われて始めたこのゲームは、私たちの終わらない戦争を終わらせるゲームだと。

私たち───つまりディマイエンスたちの戦争を終わらせる物だと言ったのだ。

ディマイエンスは戦争をしてるのか?

いやそれよりも───何故ゲームが戦争を終わらせる事になるのか?

そのワードだけではどうも要領を得ない。

「ゲームで戦争の決着をつけるって…どう言う事? わ、私は何をやらされているの?」

「全く何も聞いて無いのデスか?」

「え、ええ…」

「うーむアエルスさん? エインフェリアには事情をキチンと説明して、戦うように心を誘導するのもゲームのルールだと言った筈でしたが?」

心を誘導する?

そう言えばアエルスも心を動かすのが難しいとか何とか言っていたような───。

自分の事をファニウル、略してファニーと名乗る銀髪のディマイエンスは、私の話を聞くと少し困った顔をしてアエルスに会話を振った。

「聞かれなかったから、それだったらこちらから別に言う必要は無いんでしょう?」

ファニーの言葉に憮然とした顔で答えるアエルス。

「なるほどそう言う解釈できマスか…まあいいデスか、ではえーと…アエルスのエインフェリアさん?」

今度はこちらに会話を振るファニー。

「え? あ、はい…何ですか? それと私は鈴鳴知子すずなりちこって言います」

「これはご丁寧に自己紹介ありがとうございマス。親愛を込めてチコとお呼びしても?」

「え、ええ…ど、どうぞ?」

何だか洋画とか欧州なんかでありそうな、フレンドリーなやり取りだ。

常にほんのり優しい笑顔も浮かべているし…。

何か人付き合いが上手い印象を感じる。

少し取っ付きにくいアエルスとは正反対のディマイエンスだ。

「では早速デスがチコ?」

「は、はい?」

「貴女は私達がやっているこのゲームに関して詳しく知りたいのデスね?」

「え? え、ええまあ…出来たら」

「では話マス」

そうファニーは言い語りだした───と思ったのだが…。

「待てチコは私のエインフェリアだぞ、変な知識を付けて今後の私を守るバトルゲームに支障が出たらどうするんだ? そこは私が調整していきたいからあまり勝手な事を教えないで」

とアエルスがファニーが喋ろうとするのを止めようとする。

しかし──。

「ゲームのルールでは原則聞かれた事は答える義務がありマス。チコはゲームをやっている意味を知りたいと私にはっきり言いました。だから答えるデス。何か問題でも?」

「そ、それは、くっ…」

痛いところ突かれたのか、悔しそうな顔をするもぐうの音も出ない感じに押し黙る。

それにしても何故アエルスは、そこまで私がゲームをやっている意味を知られたくないのか?

私はどこか何かを隠そうとしているアエルスに、ほんのりと不信感が募りむっとする。

だがその時───。

「怒らないであげてくだサイ。彼女も分からないのです」

横から突然声をかけられる。ファニーだった───。

怒らないで、彼女───アエルスは分からない、分かっていないとそんな感じに言う。

分からないとは何が分からないか?

よく分からないが、未来人で人類がこれ以上ない進化を遂げた存在であるディマイエンスは、きっと私より頭も良いだろうし、それが分からない事なんてあるのだろうか?

私にはそれが分からないので首を傾げる。

「まあそれはおいおい気づいていくと良いデス。では私たちディマイエンスがゲームをやっている意味を話したいと思いますがよろしいデスか?」

「え? あ、は、はい」

何か悩んでいるうちに上手いようにファニーに話を流された感じになったが、まあ気弱な私が不信に感じる事があっても、そんな強い文句を言える訳でもないし、まあいいか。

それよりも今は何故ディマイエンスたちは、この竜ヶ峰市の人間を巻き込んで、本当の命をやり取りするゲームしてるのか?

ちゃんと話さないアエルスよりも気になる話題はそれだった。

そう思った私はファニーの言葉に耳を傾ける事にした。

「それでは少し長い話になりマス…」

するとファニーは長くなる事を前置きに語り始める。

「まず私たちディマイエンスがいた未来の話になりマス。私達地球産人類種は、それ以外の知的生命体を滅ぼし、全宇宙を征服しました。

「どんな過程を経て征服したかと言うと、簡単に言えば私達ディマイエンス、最終進化人類種が誕生した事により可能になりました。私達ディマイエンスは、宇宙に起こるあらゆる事象を人工的に自由に起こす事が出来たので楽勝でした。まあと言う感じに人類が全宇宙を支配したと言う事だけ理解して話について来てくだサイ。

「そして全宇宙を支配し他種族に敵が居なくなった人類は、次に人類同士で争いを始めました。また戦争です。

「まあと言う感じに今度はディマイエンス同士で戦争が起きたのでしたが、全宇宙を支配するに至らせた、その事象を自由に操る力が強力過ぎて、その宇宙にいたディマイエンス同士がぶつかった瞬間途方も無い破壊が起き、ほぼ一瞬で宇宙は崩壊しました。私達はその事をビックバントライと呼んでいマス。

「…と言う感じに、私達ディマイエンスが住んでいた未来宇宙は破壊されて無くなってしまいましたが、私達ディマイエンスはそれでも死にませんでした。

「自分たちの宇宙が無くなった後、それでも戦争を続けていた私達は、今度は可能世界上の別の宇宙を戦いの場にして戦争を続けたのデス。

「可能世界とは、未来や過去がもしもそうであったらと言う、たられば的に生まれる、可能性の数だけ別に存在する宇宙の事デス。私達ディマイエンスがいた全宇宙を支配した宇宙も、そう言った可能性から生まれた未来的なの可能世界の一つデスね。まあ今度はそこを戦場の場とした訳ですが。

「当然そこでも戦争の決着がつく前に多くの別宇宙を破壊してしまいました。

「そして1兆個ほど宇宙を破壊したところである事に気づきました。可能性の分と言う、無限で無いにしろそれに近い数がある宇宙でも、あまり破壊し続けると可能性宇宙上でも致命的で取り返しの付かない事が起きるのが分かりました。それは連鎖可能宇宙崩壊デス。

「連鎖可能宇宙崩壊とは、ある種の似たような可能性から生まれた宇宙を破壊し過ぎると、その似た可能性宇宙が手を出してなくても連鎖的に崩壊する現象の事を言いマス。

「この連鎖崩壊を考慮してこのままのスタイルで戦争を続けてしまうと、難しい話は抜きにして可能世界上に存在する多くの宇宙はあっという間に消滅してしまい、つまりこのまま戦争を続けると戦いの場が無くなり、可能世界上の多次元的な宇宙が滅んでしまう事になりマスので良くないデスよね? 私たちも戦争の決着がつけられなくなってしまいますし…。

「そこで私達ディマイエンスはこれ以上宇宙を破壊しないために、他の方法を考えました。

「それがこのゲーム、竜ヶ峰市にいる全ての生命体を対象に、私達ディマイエンスの代わって戦って貰う【ディマイエンス・ネクスト・ディメンション】DNDなのデス。

「つまり私達が戦うと、決着がつく前に多次元的な全部の宇宙が全部消滅してしまいそうだから、宇宙を壊さない適度な強さを持った者に代わって戦って貰う───いわゆる代理戦争と言うやつデスね。

「私たちはそんな感じに、ゲームに負けたディマイエンスを消滅させるシステムを作って、戦争を終わらせる事を考えたのデス。

「何でもありで戦争を続けたら、基本宇宙で何でも出来るディマイエンス同士の戦いは終わりませんからね。だからそう言う形で戦争の決着をつける事にしたのです」

「これが私達がゲームをやっている理由デス。納得出来ましたか?」

ファニーは長くも淡々と、ディマイエンスたちがゲームをやっている意味を教えてくれた。

それを聞いた私は、正直、なるほど分からないと言う感じだったが。

ギリギリ意味が分かった事をまとめるとつまり───アエルスやファニーなどのディマイエンスたちが強すぎて勝敗がつかないから私達に代わりに戦って欲しいと、そう言う訳である事は何となく分かった。

その連鎖的に崩壊する何とかはよく分からないけど、ゲームをやる理由は分かった。

でもまだ納得がいかない事がある、それは───。

「は、話は何と無く分かったけど………何でそこまで戦争を? や、止めればいいじゃない」

何でディマイエンスたちはそこまでして戦争を続けているのかと言う疑問だった。

戦争なんてネットやテレビでしか見た事が無いので良くは分からないが、ある程度戦ったら講和か何かして止める物では無いのだろうか?

私は拙い知識からそう思って言ったのだが、しかし───。

「戦争を止める事は出来まセン」

ファニーはあっさりとそれを否定する。

「え? 何で…」

「何でもデス」

「い、いや…理由とかあるでしょう」

「理由もありまセン」

「理由も無く戦争してるって意味が分からないんだけど…」

「でも戦争は止める事は出来ないのです…私たちはそう言う存在なので」

「何それ…」

戦争を止める事が出来ないのはそう言う存在だからと言うファニー。

ますます言っている意味が分からない───自分の意思で止めれば良いだけの話なのに。

それでも出来ないと言い張るファニーにほんのりとした苛立ちを覚える。

だってそんな説明じゃ命をかけなきゃいけないこちらとしては納得が行かない。

まあ命がかかっているなら説明されても納得は出来る物ではないが…。

だから私はそんなファニーにこう言葉を続けたのだった。

「…で、でもだったら、何で貴方たちの戦争に私が竜ヶ峰市の人たちが命をかけないといけないの? お、おかしいでしょ…それって」

それは何故無関係な私たち竜ヶ峰市の人間を、ディマイエンスたちの戦争に巻き込むかと言う事だ。

いまだ真意は分からないが、アエルスはゲームに負けると、代わりに戦う私も死ぬと言った。

私が始めた戦争だったら死ぬのはしょうがないけど、これは彼女たちディマイエンスがやっている戦争だ。

勝手に抽選で引かれて負けたら本当に死ぬ何て冗談では無い。

だからディマイエンスたちの戦争で命をかけるなんて出来ない、いやそもそもこちらが命を懸けるゲームやる理由などないのだ。

至極まっとうな意見、しかし───。

「申し訳ありませんが…ゲーム的ルールで、ディマイエンスのエインフェリアになった生命体は、そのディマイエンスがゲームに負けた時、共に死ぬ…消滅して貰う事になってマス」

ファニーの答えは全くズレた物───違うそうじゃない。

「え? い、いや、だから何で一緒に死ななきゃいけないんですか…」

「すみまセン、ゲームデスが一応これは戦争なので、基本的にエインフェリアは主になったディマイエンスの為に戦って貰うよう動いてもらわないといけないので、そうなるようデフォルトで命を賭けさせてもらいました」

言葉は丁寧なのにあくまで自分勝手な理屈───。

「いやいや…そ、そうでは無くて殺し合いのゲームになるなら、私はやりたくないと言う感じなのですが…」

本当に殺し合いのゲームになるならやりたくはない。

ゲームに勝てば、どんな願いも叶えると言う魅力的な報酬の前では、命のやりとりですら軽くなってしまう人もいるかも知れない。だけど私は違う。

人を殺してまで叶えたい願いなど無い。

そこまでして欲しい願いでは無かった。

だから辞退する事にしたのだ。

このゲームから。

もうクラスメイトと殺し合いをするなんて無理だ───そう思い断ろうとしたのだが………。

しかしファニーは思わぬ答えを返してきた。

「ああ…申し訳ありませんが、そこら辺を議論しても意味はありませんデス、何故なら抽選でエインフェリアに選ばれた者はゲーム参加を拒否する事は出来ませんから…」

「なっ…」

あまりに予想してなかった回答に耳を疑う。

だって勝手にゲームに参加させられ、アエルスは誰も死なない安全なゲームと嘘をついたのに、ゲームに参加を拒否する権利は無いなんて、そんな横暴なゲームがあって良いのか?

いい訳が無い、そんなあまりに理不尽なファニーの回答に激しい戸惑いを覚える。

先程までファニーがとても人が良さそうに見えた分だけ動揺した。

こんなおかしい話があって良いのか───。

「え…? な、何ですかそれ…お、おかしいですよ」

だから私は動揺した事をそのまま口にした。

しかし───。

「何が?」

ファニーは首を傾げて言う。

まるで私の方がおかしいかのように。

「お、おかしいじゃ無いですかっ! …そ、そんな私の意志とかそう言う物が無いのに…」

「申し訳ありませんがホモ・サピエンスさんに対してそんな感情はありません」

「…!」

「そんなにおかしいデスか?」

絶句する私にキョトンとするファニー。

「あ、当たり前ですよ! 死ぬんですよ!? そんな事誰だって勝手に決められたく無いに決まってるじゃ無いですかっ!」

「ふーむ…でも貴女たちホモ・サピエンスも、例えば競馬などで競走馬に走りたいかと確認してから走られせマスか? しませんよね? それと一緒デス」

「そんな…! 私は馬じゃ無いんですよ! その感情があるんですから…馬と一緒にされるなんて…」

「一緒だよ、私達に取っては」

今度は横からアエルスが言う。

「言ったでしょ、原始人を同じ人間とは思ってないって」

「デス」

何を言ってるのか分からない。

理解できない。

あくまで私を同じ人間では無いから、例え生死が関わる事でも、了承などいらないと言う彼女たちは、とても無機質なやり取りをしているみたいでぞっとした。

それはまるで、どこかの研究所で死ぬ事が分かっている動物実験を無感情に行える研究員のような、そんな人の温かみも一切感じられない恐ろしさに感じられた。

やはり彼女たちはどこか違う。

私がそんな感じに彼女たちの態度に唖然としていると───。

「とまあこちら貴女の感情は一切考慮する気はありませんが、ですが選ばれた後は戦う戦わない貴女の自由デスのでお好きにどうぞ」

そうファニーは言葉を続けた。

そのファニーの言葉に一縷の希望を感じ顔を上げる。

「戦わなくても───いいんですか?」

「ええ…戦うように貴方の心を動かすのもゲームのルールの一つなので、まあ───負ければ死ぬので戦った方が良いかと思いマスが」

やはりファニーの言葉はどこまでも冷たい物でしかなかった。

「…! それじゃ結局絶対に殺し合いになるじゃ無いですかっ!」

「絶対ではありません。それも貴女が決める事です」

「え?」

「相手を殺して自分の命を守るか、理想を貫き座して死を待つかは貴方次第と言う事デス」

あくまで自分が助かりたければ、殺し合いをするしか無いと言うファニー。

結局トーンダウンとなる結果と答えに、私はより気落ちする。

「まあ後はどうするかはチコが決めて下さい。私はゲームマスターなのであまり深い助言は他のプレイヤーに悪いので出来ませんが、まあもしかしたら別の方法があるかも知れないのでよく考えるデス」

「別の方法?」

「デス」

私はファニーに別の方法を考えろと言われたが、今までの会話で結構な精神的ダメージを受けて、その時は深く考える事は出来なかった。

しかしそんな私など当然気にする事も無くファニーは会話を進めていった。

「ではこの話はここで終わりにしまして、本来の用事済ませようと思いマス」

「…本来の用事?」

「ええ」

そう言うとファニーは右手を肩より少し上くらいに上げる。

するとどこからともなくファニーの右手に光の粒子みたいな物が集まり、光は長方形でカードくらいの薄さの物に形作られていくと、最後に完成を意味するかのように光が弾け、ファニーの右手にはチケットのようなカードが握られていた。

「はいアエルスさん、先程の戦闘報酬のN以上確定のノーマルチケット一枚です」

「ああ」

とファニーはそのチケットのような物をアエルスに差し出すように渡し、アエルスもまた当たり前のようにそれを受け取っていた。

「N以上…? ノーマルチケット? 何ですかそれ…」

そのやり取りに私は疑問を感じる。

「エインフェリアを抽選で引く事が出来る権利のチケットデス。先程他のディマイエンスのエインフェリアと戦った戦闘報酬デス。チコさんはアエルスを守りきりましたので、ただ内容的には村田さんに負けていたので、本来は報酬は無いのですが、今はゲーム運営開始のサービス期間で、特別に負けても残念賞でN以上確定のチケットをプレゼントしていマス」

「何だかスマホのゲームみたい…」

最近のスマホのゲームで、そう言ったキャラをガチャガチャみたいな感じで引いて楽しむゲームが流行っているが、ディマイエンスたちのやっているやり取りが、どことなくそれに似ているように感じ妙な物を覚える。

そんな最近のスマホゲームの世界観を、目の前でリアルにやり取りするディマイエンス二人だったが、アエルスはそのN確定チケットだか何だかよく分からないが、それを受け取ってじっと見ると、あからさまに嫌な顔をした。

「やっぱりNカードか…サービス期間なら初回サービスでS確定でも良いじゃ無いか…」

どうやら受け取ったチケットがグレードが気に食わない感じだった。

Nは駄目なのか…。

自分がN判定されているので少し引っかかる物を感じる。

元々ケモノ巫女での話でも、最低ランクの序列最下位だったからN判定は仕方無いとは思うけど、けども、何かこう…! と腑に落ちない物を感じさせる。

「ともあれチケットをお渡ししたので、私は失礼させて頂きマス。今回のお話はお二人に取ってどちらも残念な結果になり大変恐縮デスがご理解頂ければ幸いです。ではでは二人がこのゲームでご活躍して勝ち残り、見事戦勝者になれる事をお祈り致します。それでは」

とファニーは、どこかの会社の面接に行って不採用だと送られてくると言う「お祈りメール」みたいな事を言いながら、再び天井に発光現象(ゲート?)を起こし、その光の中にふわりと柔らかく吸い込まれるように消えていった。

そして私とアエルスが取り残されると、先程までの賑やかさ嘘のようにシンと静まる。

まるで嵐が通り過ぎたみたいな感じ。

ファニーは口こそは丁寧で気を使っていても、結局はアエルスと同じ新人類で未来人らしいディマイエンスらしく、私を旧人類の原始人と言う目でしか見ていない彼女の物言いは、丁寧だけど乱暴。

こちらの言い分を全く聞かず死ぬゲームに強制参加させる、そんな感じに一方的に告げる彼女の会話はまさに嵐のようだった。

嵐のようにまたはハリケーンのように、私の中にあった常識を、風が攫うかの如く吹き飛ばし、私の心を雨ざらしにした。

そしてそれに抗える力が無い私は、文字通り嵐が通り過ぎるのを待つしか無かった。

私は会話の途中から二人のディマイエンスに何か言うのは諦めていた。

半分は流されていたが、もう半分は何を言っても無駄なように感じられたから。

それは彼女たちディマイエンスが、私を同じ人間では無く動物───ディマイエンスに取っては私はホモ・サピエンス。

旧人類で私を原始人として見ているからだ。

そう彼女たちに取って私は人間では無いのだ。

言葉をかわせても、私はどこまで行っても檻でキーキー騒いでいる猿と変わらない。

きっとそんな認識なのだろう。

そしてそんな風に見られている私が話の流れを制し、自分の意見を言うのは───無理。

それは仕方が無い事、元々序列最下位の役立たず巫女で、長年同僚の天狐(てんこ)ちゃんなどにイビられる生活を送って来た私が、そんな自己啓発的な会話など出来る訳が無いのだ。

私はそこまで自虐的に考えると、ほんのり感じた情けなさに、はあ…と嘆息を漏らす。

そしてぼんやりとファニーが消えていった天井を見つめ───。

「私…これからどうなっちゃうんだろ」

ボソっと独り言うのだった。

独り言だったけど、唯一部屋に残っていた同居人からの答えは帰ってこなかった。

と言うか寝ていた。

いつの間にか私の布団に潜り込んで寝ていたのだ。

私に背中を向けてスウスウと寝息を立てて。

私はそんな彼女───アエルスを見て。

言葉を交わせても人間を猿としか感じていない、人の最終進化系ディマイエンスが持つ素晴らしき民度に、私は賞賛を送るように一つ嘆息するのだった。

はあ…───と。

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鈴鳴智子は異能力生活を辞めたい。 てんたま @tentama1977

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