第9話 1章「新たな未来人」
そして私の他にも八人のケモノ巫女がいて、私はその中で一番才能の無い序列最下位のケモノ巫女だった。
そんな私だったがある日突然現れた、自身を未来から来た新人類と嘯く少女アエルスは、彼女と同じ新人類であるディマイエンスたちが、私が住む竜ヶ峰市に住む人間を抽選で引き、その引いた人間を強くし戦わせると言ったゲームを始めたらしい。
私はそのゲームにおいてアエルスが引いたゲームのキャラみたいな物になってしまったらしく、最初当然ながらケモノ巫女や私生活などもあるから勝手な話でゲームに付き合う暇など無かったし、それにゲームで他の人間と争ったりなど出来ないと思い断ろうと思ったが、しかしゲームに勝てば未来の超技術で願いを何でも叶えてくれる事と、そして死ぬような大怪我をしても治ると言う事で、私は一旦はアエルスの頼みを聞いてしまった。
私はケモノ巫女の才能無さから、早々に引退して後継者を作るため、中学生と言う若さで子供を作れと言われていた。
私はそれが当然ながら嫌だった。
でも
断れば着の身着のままに出ていけと言われたから。
だからアエルスの何でも願いを叶えてくれると言う話。
私がケモノ巫女を辞めても、普通に生きていける世界をくれると言う話はとても魅力的だった。
だから私はアエルスのゲームの駒になった。
それに戦っても互いは死ぬことは無い安全なゲームと聞いてたから、私は引き受けたのだ。
まあ死ぬ事は無いと言っても、だからと言って殺すのは良く無いと言う事は途中で気づいたが………。
でもそれでも私がゲームをやろうと思ったのは、誰も死ぬ事は無いからと聞いてたからだ。
しかし今アエルスは、もしもゲームの敗北条件であるフラッグの破壊、つまりアエルスが殺されたら私も死ぬと言った。
それは一体どう言う事なのか?
私が考える間も無く、ゲームの対戦相手になったらしい、同じクラスメイトで委員長の
私の敗北条件であるアエルスの破壊を、超能力の一つ、物体を自在に動かす事が出来る力【念頭力】の力を使い、アエルスがいたその場を潰した。
超能力にはありがちな設定の能力で、そんなシンプルでイージーな能力を使ってアエルスを潰したのだ。
ペしゃんと言う感じに潰れ、ズドンと言う感じにその場が大きく陥没した。
四つん這いのまま超能力で動きを封じらられた私には、その陥没した穴の奥まで伺う事は出来ないが、ゲームの条件により、未来の超技術が一切使えなくなり、普通の人間と変わらなくなっているアエルスを殺すには十分過ぎる破壊力だろう。
アエルスは死んだ。
つまりゲームの敗北条件は満たされたのだ。
その光景を見て瞬時に感じた事は、ゲームに負けたら私も死ぬと言う、アエルスが言った今際の際の言葉だ。
最後の最後で言われたからその言葉の真意は分からない。
しかしまだ心も成熟しきっていない未熟な中学生の私が、例え半魔と言う異形の存在と戦い、たぶん死ぬ事は普通の中学生の女の子よりは少しは覚悟していても。
しかしいきなり死ぬと言われれば冷静でいられる訳が無かった。
訳が分からなかった。
頭が真っ白になった。
本当に死ぬかどうかは分からない半信半疑レベルだ、しかしそれでも、もしかして死ぬかも知れないと言う恐怖はじわりと胸を頭を侵蝕してくる。
恐い───。
そのもしかしたら死んでしまうかも知れない恐怖が、頭を鷲掴みにされているような緊張感を感じさせる。
歯を自然とガチガチと小刻みに打ち鳴らしてしまう。
私は、私は───本当に死んでしまうのか?
「あれ───残念時間切れか………」
「え…?」
私がその死ぬかも知れない恐怖に、歯をガチガチと打ち鳴らすほど怯えていた時だった。
不意に村田さんはそう言ったのだ。
その瞬間だった。
アエルスが潰したと思われる陥没した穴から、突然眩い光が小石を跳ね飛ばしながら勢い良く放たれる。
その光はキラキラとした粒子を纏うと流線を描くように噴き出し、それが幾重にも重なって一本の大きな光の柱となった。そしてその中心からぼんやりとした黒い影が上に登ってくるのが見えた。
黒い影、それは人の形をした黒い影。
子供くらいの小さい人影で、サラサラとした長い髪が靡く。
そしてその長い髪は、目も眩むような光で失われていた色、それが徐々に取り戻されていくと【蒼色】だと分かる。
そうそれはアエルスの碧髪だった。
村田さんの念動力で潰されたと思っていたアエルスが、何かしらの力を使って陥没した穴から浮かび上がってきたのだ。
「どう…して?」
私はそれが不思議だった。
ゲームが始まっている時はアエルスが持つ、何も無い所から物を作ったりさらには世界を作ったりなど、そう言った驚くべき未来の超技術は一切使えない、普通の人間になるのでは無かったのか?
だからあんな地面を陥没させる程の超能力を受ければ死ぬ筈、そう思っていたのだが………。
しかしアエルスは生きていた───これは一体どう言う事なのか?
「持ち時間が無くなったのよ」
「持ち時間? それって…きゃっ!」
そう村田さんが言うと、ガクッと言う感じに突然体の硬直が解けるので、焦って力を入れ直し体勢が崩れるのを堪える。
「そんな事も聞いてないんだ。バトルを仕掛けるにもポイントを使って時間設定しなきゃいけない…その時間が来ちゃって………名前知らないけどその未来人? 殺される前に力を取り戻して助かったって訳」
「時間設定…ポイント…?」
「様子見程度の時間設定しかしてなかったけど、
やれやれのジェスチャーをしながら戯けるように言う村田さん。
人が本当に死んでしまうかも知れないと言うのに、どことなく遊び半分にやっているような彼女に、ぞくりとする恐怖を覚える。
「はあ…はあ…はあ…はあ……」
そんな村田さんにアエルスは息を荒げ、険しい表情を向けていた。
「こっわ〜いw結構頭に来ちゃった感じ? 感じなのぉ〜?」
「く……この原始人がぁ……!」
煽るように言う村田さんに頭に来たのか、アエルスは怒りの色を露わにすると、突如途轍もない突風が巻き起こり、先程の騒ぎで砕けた石片がアエルスの周りをくるくると舞って竜巻と化した。
その今にも吹き飛ばされそうな凄まじい風のせいか、時折スパークするかのような放電現象を起こり、その度に舞っていた石片は粉々になる。
そしてアエルスがその風を纏ったまま移動するだけで、その端から地面や触れる全ての物が粉々の散り散りになった。
圧倒的な破壊力。
それだけであの風に巻き込まれたら、よくスーパーの精肉コーナーで売られている細かく刻まれた肉片、いわゆるミンチになってしまいそうな事は容易に想像できた。
いやミンチどころかチリになってしまうかも。
それだけの破壊力がありそうな事が想像できた。
しかしそれだけ圧倒的な攻撃と、そして殺すと言う敵意を向けられても村田さんの顔は依然として涼しい顔のままだった。
「あれ〜? 怒ってるんだ…ディマイエンスってそんな感情的になれるんだ、まあ別に私の事を力を使って殺しても良いけど、そうなるとゲームは貴女の負けになると思うけどそれでもいいのかな?」
「ぐ………」
風が止まった。
よくは分からないが村田さんが「ゲームに負ける」と言った瞬間、アエルスは悔しそうな顔をしつつも先程まで出していた破壊的な風をピタリと止めたのだ。
「あれ…止めちゃうんだ、って別に死んでも構わなかったから…何も言わないで殺されてた方がゲーム的に良かったかも…んー…」
村田さんは人差し指を下唇に押し当て、ぷにぷにと弄びながら何やらそんな事を呟いていた。
そして───。
「ま、いっか! ディマイエンスたちがやっているゲームの勝敗なんか…あんまり関係ないしね~あはは!」
と悩んでいたのが馬鹿らしいみたいな感じに、弾けるような笑顔でそう言うのだった。
もうその全ての流れが私には分からない───理解不能だ。
一体アエルスは…ディマイエンスたちがやっているこのゲームは一体何なのか? 彼らは一体何をやっているのか?
何も想像する事は出来ず、その分からない不安、見通せない恐怖が私の体を強張らせた。
だから───。
「じゃあね鈴鳴さん、また機会があったら戦いましょう、ばいば〜い」
「ひっ」
村田さんが一層恐ろしく見えた、怖く見えた。
自分が死ぬ事も人が死ぬ事も楽しそうににする、底を伺わせない恐ろしさに。
私は、私は───こう思うしか無かった。
私は何に巻き込まれたのだ?
私は去りゆく村田さんの背中が消えるまで、頭の中でその言葉が鳴り響き続けた。
****
「一体どう言う事なの……?」
「………」
村田さんの襲撃を受けた後、少し放心状態になりながらも、それでも灰影(はいえい)の世界、現実を模倣する世界から元の世界に戻り、私は自分が住んでいるアパートの部屋に帰ってアエルスを問い詰めた。
しかし───。
「安全なゲームって言ったよね?」
「………」
「なのにゲームに負けたら死ぬってどう言う事?」
「………」
「…何か……言ってくれない?」
「………」
この通りだんまりを続け何も話そうとしない。
まるで卵の殻に閉じ籠っているかのように体育座りして、私の言葉をシャットアウトしていた。
私はそんなアエルスにはあ、と嘆息を一つ漏らし項垂れる。
「訳も分からないまま負けたら死ぬなんてゲーム何か出来ないよ…」
「…!」
「ん?」
私がそう呟くとそこで初めてアエルスは反応を示した。
はっとしたような顔を私に向けて来たのだ。
「な、何…?」
「理由が分かれば私のために命をかけるゲー厶に真剣に取り組めるか?」
「……そ、それは内容次第だと思うけど」
「誓え! 話を聞いたら私のために命をかけると!」
「誓えって…そんな無茶な…」
あまりに一方的な要求に私は当然の難色の顔を示す。
だけど───。
「そ、そうか駄目か………」
彼女はそんな私の態度にあからさまに気落ちする。
「で、でも絶対じゃなきゃ………分からない…どうすればいいのかな…分からないっ!」
そして金色の目尻に涙の玉雫が溢れ、つーっと言う感じに流れた。
蒼の髪の少女は泣いていたのだ。
そのアエルスの姿はとても困っている感じだった。
そんな少女の姿を見せられては、例え納得がいかない訳の分からない話でも譲歩せざるを得なかった。
序列最下位のケモノ巫女で才能が無かったから逃げだしたとは言え、それでも世界の平和を守るために戦っていたのだから………。
だからこんな私でも困っている人は見過ごせない気概くらいはある! ………と思う。
そう思って私は半泣きになっている碧髪金眼(へきはつきんがん)の少女に言葉をかけた。
最大限気を使って。
「私もそりゃ…半魔と戦うケモノ巫女だし、それなりに人のために命をかける戦いは…まあそれなりに…それなりにだけど…覚悟してるけど…やっぱり意味も分からないままじゃ…戦えないよ、まずは理由を話して、そこからだよ」
私的には精一杯譲歩した言葉だった。
しかし───。
「もういい…話してもゲームに負ければ死ぬ事は変わらない…もう何をしても変わらない、だから言っても意味は無い」
「え…」
アエルスから出た言葉は拒絶のそれだった。
「もうこうなったらお前はバトルに勝つしか生き残る道は無い…だからお前は何も考えず戦って勝てばいいんだ…!」
「そ、そんなのって…」
今までだんまりを決めていたアエルスが急に堰を切ったかのように喋りだす。
「じゃあお前は理由を話せば知り合いの…あの村田とか言うホモサピエンスを殺す事は出来るのか?」
「そ、それは…出来ないけど」
「だろうな…お前は一万年かけて強くしようとしたのに、結局…弱いままだったからな…」
「なっ…そりゃ360秒で太陽系が破壊出来るくらいの強さを求めている、あんたには物足りない強さかも知れないけど、ビルを吹っ飛ばせる霊力なんて、元ご町内クラスの退魔巫女からしたらとんでもなく強くなってると思うんですけど!?」
前のレベルからしたら、やはり凄い強くなっていると感じていたので、はっきり弱いと言われると、とても存外な気分になる………。
では無く───今はそう言う話では無く、何故ゲームのバトルで負けたら死ななくてはいけないのか、と言う話だったと思ったが。
何故私が弱いからと言う話になっているのだろう。
私は痛烈に疑問を感じたが、それでもアエルスは語り続ける。
私の問など答える気はないかのように、身勝手に思うがままに。
「直ぐに壁が必要だったとは言え、やはりNクラス…この程度しか強くならないとは…ポイント損したか…いや一応強くしたから時間切れに持ち込めたとポジティブに考えるべきか…」
アエルスは顎を擦りながら難しい顔してブツブツと長考する。
「あ、あのーもしもし、私の質問にも答えて欲しいんですけど?」
「ええいうるさいっ! だからお前は余計な事を気にせず、ただ私を狙う敵が現れたら戦えば良いのだ! 私が言える事は戦え! ただそれだけ!」
「お、横暴すぎる! だ、だからそんな話だけじゃ本当に死ぬゲームで戦う事なんて出来ないよっ!」
「出来なければお前が死ぬのだぞ!? それだけで戦う理由は十分、だから何も考えずに戦え! 私を守れ! 私をゲームに勝たせろっ! あああーっ!!」
「そんな無茶苦茶な…」
会話が進むうちに、アエルスはまるで癇癪を起こした子供のように駄々こね始める。
両手両足を振ってジタバタと。
背も小さいので本当に子供が駄々をこねているのと変わらなく見えるので、子供対応スキルゼロの私はどうしたら良いのか分からずオロオロしてしまう。
その時だった───。
「エインフェリアの問に答えるのは、ゲームのルールでプレイヤーの義務デスよ忘れマシたかアエルス?」
不意に天井から声が聞こえてくる。
私は咄嗟にその声の方へと、天井の方へと顔を向けると、そこは昨日アエルスが初めて現れた時のような発光現象が起き、その中心から一人の少女が現れる。
その少女は光に反射してキラキラと光る美しいショートの銀色の毛、そしてアエルスと同じ金眼を携えた、そんな目を奪われる程の美しさを持った少女だった。だったが、何故か白いスクール水着…略称白スク見たいな物を着ているのが凄い気になる。
ともあれこれって───。
「もしかして貴女…」
「毎度どーもアエルスさん、それにアエルスさんのエインフェリアさん。そーデス貴女の考えている通り私もディマイエンスデスよ」
「やっぱり…髪の毛の色は違うけど何となくアエルスと似てると思った…でも私をエインフェリアって?」
「ディマイエンスが使うゲームのキャラをそう呼んでマス。語源は古代地球の………えーと」
「…もしかして北欧神話の事ですか? ヴァルキュリアに選ばれて神の戦士になるって人の事ですか…?」
エインフェリアとは北欧神話に登場する、戦場で死んだ勇者の魂がヴァルキュリアにヴァルハラと言う神の国に導かれ、そこで主神オーディンのために戦う戦士になった者の事をそう呼ぶと言う話がある。
……異能力系の小説を書いていただけあって、北欧神話は好きだったのでそんな豆な話も覚えていたりした。
「あーそれそれ、そのエインフェリアデス。正解!」
「本当にそうなんだ…でもなんでエインフェリア…」
「いやまあ…ゲームのキャラで…まあ駒見たいな物だから、シンプルにチェスのポーンって感じでも良かったんデスが…やっぱりカッコいい方が良いじゃ無いデスか、だからエインフェリアって事にした感じデス」
「な、なるほど…それは確かに」
カッコいいのには同意する。私も北欧神話の名称には熱い物を感じるからだ。
名前は知らないけどこのディマイエンスとは良いお酒が飲めそうだ。
まあ中学生だからお酒はジュースに変わるけど…では無く。
このディマイエンスは一体誰だ?
もしもディマイエンスなら、よくは実情は分からないけど、この竜ヶ峰市で命をかけたゲームをしているらしいディマイエンスが、こんなあっさりと姿を現す物なのだろうか?
やりはしないけど、もしも今私がこのディマイエンスを殺そうとしたら彼女はゲームに負けるのでは無いだろうか?
それなのに何故目の前に現れたのか───彼女は一体。
「と、ところで貴女はその………誰ですか?」
「私ですか? 私はこのゲームのゲームマスターで、ファニウルと言いマス…気軽にファニーとお呼びクダさい」
「ゲーム───マスター……?」
「そうです、このゲーム───」
私が聞くと銀髪の少女は思わせぶりに言葉を溜めて、そして───。
「ディマイエンス・ネクスト・ディメンション………DND、私たちの終わらない戦争を終わらせる為のゲームのデス」
「終わらない…貴方たちの戦争?」
そう言うと自身をファニウルと言うディマイエンスの少女はニヤリと不敵に笑うのだった。
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