第14話 タケウチ王女殿下②
姉に諭される形で、エゼキエルの怒りは収まった。
「すまんな客人! 妹は、私の事となると我を忘れてしまうのだ!」
「も、申し訳ない」
謝っては貰ったが、俺は殺される寸前だったのだ。
謝罪程度では許すことが出来ない。
それに、こいつの目は反逆者と同じだ。
俺に非礼の念などない。
ただ、それを今言っても仕方がないので大人の対応でその場をおさめた。
「まぁ、俺にも非があるからな。俺のいた国では幼女の繁栄を願い______」
「嘘付け!」
え?
いや、エミルさん?
話合わせてくれても良くない?
折角、巧妙な嘘を思いついたのに身内に敵がいたのは思わなんだ。
「こほん。まぁ、良い。俺は姉上が病気とかなんとかかんとかでここに連れて来られたんだよな?」
横にいる金髪の幼女はどこをどう見ても健康体で治療の必要なんてない。
今も飯をパクパクと食べている。
っうか、俺も腹減ったんだけど。
王族って客に水も出さないの?
「そうだ! そうだ! 私は健康だぞ!」
「幼女様もそう言ってるぞ」
俺は、エゼキエルに目配せをする。
「はぁ......」
エゼキエルは話してもラチが明かないと思ったのか、暖炉の上にある絵画を指差す。
絵画には腰高ほどの長さの金色の髪の17歳ほどの美女が椅子に腰掛けた姿が描かれていた。
絵画についてよく分からんが、モナリザのような美女と形容すれば通っぽいでしょ?
「あれは、一年前の姉様の姿だ」
「嘘つけ!」
ユミルに言われた事を言ってやった。
天丼っていうお笑いの手法なんだけど、異世界だと斬新過ぎたのかな?
周りの視線が痛く、ベントラの鼻の穴でも良いから入りたかった。
「エゼキエル様。私達に学がなく、お教えいただきたいのですが、それは一体どういう事でしょうか?」
エミルの畏まった言い方は実に新鮮で、バカが頭良さそうに話しているのは滑稽に思えた。
「混乱するのは無理もない。私とて初めてこの姿の姉様を見た時は信じられなかった。子供の姿に戻る魔法なんて聞いた事がない。これは、新種の病なのだろうかと疑った」
新種の病ねぇ。
見たところ、病気っぽくはないんだけどな......。
「だから言っているだろ! 私は病気にはなっていない!」
口にミートソースを沢山付け、タケウチは病である事を否定。
「いや、姉様。私は知っています。姉様の鼻水に緑色の分泌物が混ざっている事を」
「緑色? 確か、ベントラの鼻水も緑っぽかった」
「えぇ。姉様だけでなく、この城に勤める従者や傭兵にも同じような症状が見られる」
「ベントラには幼児退行は見られんぞ」
発症したのが今日だとしたら、幼児化現象は時間経過と共に訪れる症例なのか?
「あぁ。他の従者や傭兵にも幼児退行は見られない。発症してから最大1ヶ月を経過していてもだ」
長期潜伏型か?
だとすると厄介だな。
通常、人の身体は自己治癒能力が備わっている。
風邪などの病気であれば一週間も寝ていれば治ってしまう。
まして、ここは異世界。
住人の殆どが魔力を持ち、人より病気に対しての耐性は強いはずなのだが。
「まぁ、何でもいい」
「貴様! 今、何と言った!」
机をバンと叩き、怒りを露にするエゼキエル。
本当、姉様の事となると我を忘れちまうんだな。
まぁ、いつも無表情なクールビューティが感情的になっているのは可愛らしい光景だけど。
俺は、人差し指を熟れたトマトのように顔を真っ赤にするシスコン姫様に向け。
「俺は鼻ほじり屋だ。大抵の事は鼻に指を入れれば解決する」
「くっ......。噂には聞いていたが本当に指を鼻に入れるのだな」
エゼキエルは自身の鼻に指を入れられる事を想像したのか、顔を引きつらせ、手で鼻を覆った。
「え? 鼻に指? え? ちょっと! 私、絶対に嫌だぞ!」
鼻に指を入れられる事が相当嫌なのだろうか、今まで飄々としていたタケウチの表情が曇り、後退りを始めた。
「大丈夫だ。痛いのは最初だけだ。じきに慣れる」
じりじりと詰め寄る俺。
「い、嫌だ! というか、貴様は一体なんなのだ!? 鼻ほじり屋って! ふざけてるのか!」
「ふざけていない。俺は、これで生計を立てているんだ。馬鹿にするな」
「そんなんで金を稼いでいるのか!? 驚きだぞ!」
俺が近付くと、タケウチは後ずさりし、一向に距離が詰まらない。
早く、家に帰りたいし、俺はエミルとベントラにタケウチを捕らえるように目で合図する。
「な、お前ら離せ!」
左右を自身の身の丈よりも大きな二人にガッチリと拘束され、後ろにも前にも行けなくなったタケウチ。
これもタケウチの為。
タケウチの病気を治すという理由がなければエゼキエルは発狂しながら、俺に死の鉄槌をお見舞いしていただろう。
「すみません。タケウチ様。これもタケウチ様の為なんです」
「ぐっ! エミル! お前、魔法を使えなくしたな! 許さない! 許さないぞ!」
前蹴りを繰り返し、俺を近付けないように牽制するタケウチ。
魔法が使えなければ、10歳前後のただの幼女と同じ。
まぁ、トラウマになるかもしれないがこれも皆んなのためだ。
「ベントラ! タケウチの頭を動かないようにホールド! 鼻を上に向けろ!」
「お、おう!」
「いやっ! いやっ! いやー!」
泣き叫ぶ幼女。
顔を覆う妹。
それを横目に俺の人差し指は小さな穴へと入っていった。
鼻ほじりしか取り柄のない俺が異世界に行ったけど何とかなった おっぱな @ottupana
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