第13話 タケウチ王女殿下①
______アンティナクルス城内______
煌びやかなシャンデリアと近代西洋風のデザインの城内。
千葉県幕張にある城をモデルにしたのではないかと思う程に豪勢な造りで圧倒されてしまった。
街並みはRC造の建物があり、少し現代日本的な景観にも関わらず、この城だけはどこかの世界からそのままワープしてきたかのように不自然だった。
俺とエミルとベントラは50人ほどが食事が出来るダイニングテーブルのある部屋に通された。
「ちょっと、ここで待っててくれ。姉上を呼んでくる」
エゼキエルは立上り、自ら姉上であるタケウチを呼んでくるそうだ。
因みに、エゼキエルはこの城の主の娘であり、アンティナクルス国の王位継承を持つお姫様。
エミルやベントラが畏まっている理由もそういう事らしい。
ただ、その辺は立ち振る舞い、言葉遣い、衣服や装飾品で察しはあらかたついていたので驚く事はなかった。
一つ、疑問なのは姉上の”タケウチ”という名。
エミルやベントラやエゼキエルは外人のような名前なのにタケウチだけは日本感がすごい。
「タケウチって何か変な名前じゃね?」
とエゼキエルのいない所でエミルに言うと。
「あんた常識知らずにも程があるわよ! 和名や漢字は由緒ある家系の一部の者しか名乗れないものなのよ!」
と強めの言葉で教えてもらった。
「俺、”副島サトル”って言うんだけど、良い名前なの?」と尋ねると。
「噓つけ!」
と聞く耳を全く持ってもらえなかったのが悲しかった。
「スンスン。お兄さん、変な匂いがするね」
あ? 何だ?
机の下からひょこっと現れた少女。
火の粉のような明るい髪色、月のように鮮明な金色の瞳。
年齢は10歳ほどだろうか、獣のように飛び出た八重歯が特徴的だった。
「......風呂入ってないからな」
「いやいや。体臭も勿論くっさいけど、別の臭いの方が濃いんだよねー」
「別の臭い?」
下を向いて、何かと話しているのが奇妙な光景に映ったのか、エミルが俺を侮蔑するような表情でみてくる。
これは、弁明しなければいけない。
「違うぞ。下に幼女がいるんだ」
「幼女?」
「そう。これを見ろ」
テーブルの下にいる幼女の脇をガシッと掴み、子猫を抱き抱えるようにエミルとベントラに見せた。
「どうもー」
右手を挙げ、飲み屋で友人に会ったかのように気さくに挨拶する幼女。
発育が良いのか、胸の周りに肉が集まっている気がする。
「あら可愛いわね。エゼキエル様の妹かしら?」
「ん? ちょっと待て。エゼキエル様に妹はいなかったはずだ」
ベントラはフラグを立てたのだろう。
少女の名を聞く前に、エゼキエルが戻り、少女の名を叫んだ。
「おいコラァ! 何、姉様に触れているんだぁぁぁ!!!」
地鳴りのような声に咄嗟に身体を強張らせる。
次の瞬間、真っ赤に燃えた矢のようなものがこちらに飛んできた。
予想もしない出来事で避ける事が出来ない。
このまま行けば俺の脳天は串刺しだ。
「dgh jel(更迭する光の壁)」
腕の中で幼女がゴニョゴニョと詠唱を始め、空に円盤のようなものが出現。
火の矢は光の障壁にぶつかり、弾けて無くなった。
エゼキエルと幼女が放ったもの。
それは、紛れも無い魔法だ。
確か、魔女と呼ばれる存在は絶対数が少なかったはずだがこんなにホイホイいるものなのか?
「姉様! 何故、邪魔をするの!? というか、あなた、その汚らわしい手を離しなさい!」
先程の落ち着いたお姉さんの雰囲気はそこにはなく、エゼキエルは頭から湯気が出そうなほどに怒り心頭のようだ。
「エゼキエルー。私を想ってくれての行動は嬉しいけど、ちょっと、度が過ぎるぞー」
「姉様はもっと自分を大切にしてください! そいつの手は汚れているんです!」
俺が鼻くそほじり屋をやっていることの当て付けか?
まるで、人殺しのような言い方だな。
ってか、あんたに連れて来られたんだけどー?
「あ、あの、エゼキエル様。もしかして、サトルの腕に抱えているのは...?」
エミルは恐る恐るエゼキエルに尋ねる。
「あぁ。そうだ! そいつが抱き抱えているのがこの国の第一王女であり、王位継承権第一位、アンティナクルス・タケウチである!」
とエゼキエルは眉間にシワを寄せ、声高々に宣言した。
まぁ、何となく分かってたけどね。
うん。
俺は、恐る恐る持っていた王女を椅子の上にソッと置いた。
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