第12話 王族の依頼
金髪の少女に「誰?」と言うと、横にいたエミルからゲンコツをもらった。
「いたっ! お前、急に何をして______」
「誰? じゃあないわよ! エゼキエル様に何て口聞くの!」
エミルは怒りというよりも、焦りの感情の方が前面に出ており、大汗を額に掻きながら終始ワタワタしていた。
この国に来て、5日ほど経つがこんなに慌てるエミルの姿は初めてで目の前の美女がそれなりの位の高い階級というのはうかがえた。
「エミル。良い。今回、私は彼に依頼をしに来た立場なのだ」
「は、はぁ。エゼキエル様がそう仰るのであれば......」
まるで犬のように飼い主の一声でおとなしくなるエミル。
階級がどうとか別世界から来た俺には正直、どうでも良い。
ただ、エゼキエルの意味深な発言と曇った表情が気になり、俺はエゼキエルの為に椅子を用意した。
◇ ◇ ◇
「どうぞ」
「あぁ。ありがとう」
しっかし、間近で見ると本当に綺麗な人だな。
と舐め回すようにエゼキエルを見てしまった。
飴細工のような細い手足。整った顔立ち。ふくよかな胸。
エミルも相当な美少女ではあるが、エゼキエルのような妖艶さや大人びた雰囲気はない。
磁石で例えると、エゼキエルはプラスだとすると世の中の男子は全てマイナスでエゼキエルに吸い寄せられてしまうような不思議な魅力があった。
「で、ご依頼とは?」
エゼキエルは一人で来た訳ではなく、屈強な体躯をした傭兵を二人連れていた。
ただ、見た目はリザードマンではなく、頭から角を生やした人間で、そいつらが俺に敵意丸出しの視線を向けるのでそいつらを気にしながら質問をした。
「あぁ。結論から言うに私の姉上を救って欲しい」
俺が煎れたコーヒーを飲む事なく、エゼキエルは神妙な面持ちで要件を言う。
「タケウチ様に何かあったのですか!?」
「ま、まさか、私の病気が!?」
うるさっ。
要件を伝えているというのに、横に居たエミルとベントラが鳥のようにさえずる。
「うむ。ベントラの病気と同じものに姉上は掛かっている」
「う、うおおおおお! 私のせいでタケウチ様が! 死を! 死を持って償わせていただきます!!!」
自分の首を絞め出すベントラ。
ベントラのこういう所も嫌いなので、俺もエミルもベントラの行為を止める事はしなかった。
「いや、ベントラが原因なのではない。むしろ、姉上が原因なのだ」
「姉上が原因? それはどういう意味ですか?」
姉上が原因という言葉を耳にし、首を絞める事を止めるベントラ。
自分が原因ではない事を知ったからか、はたまた別の要因なのか、首絞めを解いた直後の表情は明るかった。
「うむ。姉上は魔術を得意とする魔術師でな。王宮の一室で日夜研究ばかりしているのだ。その研究の一端で色々なクスリや魔法具を生む出し、人々の生活を豊かにしているのだが負の副産物も生まれる」
「なるへそ。つまり、その研究の途中で変なウイルスを作ってしまい、それが原因で今、病床にいると?」
まるで、テンプレのような分かりやすい展開だな。
俺がそう思っていると、エゼキエルは「いや、それは違う」と訂正をしてきた。
「姉上は優秀な魔術師だ。そのような負の副産物を作り、自身や民を苦しめるようなミスは絶対におかさない」
姉への絶対的な信頼があるのだろうか。
普通にしてても強い眼力だが、エゼキエルの眼力はさらに強くなり、俺もたじろいでしまう程だ。
「へ、へぇ。じゃあ、何が問題なんですかね?」
体から吹き出したオーラを鎮めるように、強張った身体の緊張を解くエゼキエル。
「あぁ。姉上の新薬は問題がない。クスリ自体には問題はないのだが、姉上の考え方に問題があるのだ」
「考え方に問題? 漠然とし過ぎていまいち掴めないですね」
「その。そうだな。サトル君と言ったかね? 百聞は一見に如かずという言葉がこの国にはある。その、一度姉上を見てもらえると助かるのだが都合はどうかな?」
うーん。
こういうイベントはこなして行った方が物語を進展させるには良い気がしなくもない。
ただ、火中の栗を拾うように危なっかしさも感じてしまう。
エゼキエルはこの国の相当な権力者である事は間違いないし、そのエゼキエルに恩を売っておくのは悪くはないか。
「分かりました。お姉さんに会いましょう。明後日でどうでしょうか?」
「いや! 明後日って! 今すぐ行けばいいじゃない!」
横からツッコミを入れるエミル。
本当に国で有名な魔女なのか不安になる程にツッコミのキレが良い。
「いや、ちょっと眠いから今日は午後休にして、明日も何となく休むつもりだったからよ」
「はいはい。そんなの良いから。今すぐ行くわよ」
えー、まじかよ。
まぁ、別にいいか。
いちいち口論するのも面倒だったので俺は、「じゃあ、今から行きますよ」と先程発した予定をすぐに修正した。
その様子を見て、エゼキエルは「こいつら本当に大丈夫か?」と疑った顔を浮かべていたが、細かい事は気にしない性格の俺にはノーダメージだった。
「で、どこに行くんですか?」
「あぁ。それならここから見える。あそこだ」
とエゼキエルが指を指した先。
窓の向こうに見えるのは丘の上に見える城。
アンティナクルス城である。
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