3)  探偵たちは新しい依頼を受ける②

「ま、待ってよ」

 宿へ戻ろうと前を歩いていくコールをミッシェルが追いかけていく。

「すぐにロスアラモスへ出発だ。乗ってきた馬と鞍は、ここで売るぞ。必要な物は下ろしとけよ」

「なんだよ。あの子たちにも愛着も湧いてきたっていうのに。いいじゃん、馬で行こうよ」

「時間がかかるんだよ。ロスアラモスへは列車で向かう。そこで新たに馬を調達して調査員が消息を断ったという街へ向かうんだ」

「列車かぁ」

「なんだよ。また文句か?」

「ほら、列車の席ってずっと座っているでしょ? なんか窮屈でねえ……」

「寝てろ」

 コールが素っ気なく言った。

「だから、そうゆうのが嫌なの!」

「だったら本でも読んでろよ」

「本?」

「お前が1冊読み終える頃にロスアラモには着いてるだろうさ」

「本かぁ……でも本ってもなぁ……ん?」

 その時、ミッシェルは、雑貨屋に目を留めた。雑貨店なら本も置いてあるかもしれない。

「ねえ、コール。先に宿に戻っててよ」

「なんだ?」

「わたし、ちょっと、買い物してくるから」

「買い物?」

「旅の支度だよ。すぐ追いつくからさ」

「お、おい、ちょっと……」

 ミッシェルは、コールの返事も聞かずにミッシェルは雑貨屋に駆け込んていった。

「やれやれ……まったく落ち着きのない奴だ」

 コールはため息をつくと、ひとりで宿に向かって歩き出した。


 ミッシェルは、雑貨屋に駆け込むと店内を見渡した。

 店主がミッシェルに気がついて声をかける。

「いらっしゃいませ。お客さん、何かお探しで?」

「本って置いてある?」

「ありますよ。棚には置いてませんがこちらに……」

 そう言うと店主は、カウンターの下から数冊の本を取り出した。

「どんな本をお探しで?」

「退屈しないのがいいんだけど」

「なら、この怪奇小説などはどうでしょう。アイルランド人の作家が書いた『カミーラ』です。面白いですよ」

 店主はそう言うと、置いてあった本を取るとミッシェルに渡した。

「これ、どんな話?」

「女の吸血鬼ヴァンパイアの話で……」

吸血鬼ヴァンパイアって?」

「人間の血を吸う怪物の事です」

「人の血を吸うだって? バカバカしい」

 ミッシェルは、手渡された本を返した。

「それでは、こちらのなんてどうです?」

 店主は、置かれた別の本をミッシェルに渡した。

「『氷の公爵と灼熱の淑女』という小説です」

 ミッシェルは本を手に取るとパラパラとめくった。

「恋愛ものですが都会では人気らしいですよ」

「ふーん、恋愛ものねえ……」

 ミッシェルは興味なさそうに呟いた。

「主人公の若い女が、年の離れた貴族に恋をしてしまうお話で……」

「え? の恋人……?」

「でも、お客さんはそんな感じのやつが好みじゃなさそうですよね。こっちの方なんてどうです? 『復讐の賛歌・地獄の逃避行』という人気の活劇物で、主人公のガンマンが……」

「買うよ、それ」

「毎度ありがとうございます」

「いや、それじゃない」

「えっ? 『復讐の賛歌・地獄の逃避行』じゃなくて?」

「ん、まあ……そっちじゃなくて、そっちがいいかなぁ……って」

「え? こっちですか?」

「いや、それじゃなくてこっち」

「えーと……」

「若い女が……と、貴族に恋するやつ……」

「ああ、『氷の公爵と灼熱の淑女』ですね。毎度有難うございます」

 店主は、ミッシェルに本を手渡した。

「あ、ありがと……」

 ミッシェルは、買った本を大事そうに抱えて店を出た。


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