2・探偵たちは新しい依頼を受ける
ピンカートン探偵社のミッシェル・ナイトとコール・ソントンの二人に捕らえられたファーゴ一味は、護送列車へ押し込められた。
扉が閉められると頑丈そうな鍵が取り付けられる。
捕らえられたヒューゴは、恨めしそうな顔で窓の鉄格子を握っていた。
「引き渡し書にサインをくれ。保安官」
コールは、懐から書類を取り出すと、連絡を受けてファーゴ一味を引き取りに来た連邦保安官に渡した。
「書くものがない」
「これを貸してやる」
渡されたイーグル・ペンシルの鉛筆で連邦保安官は書類にサインを書き入れた。
「いい仕事だったな。州をまたがって強盗を繰り返していたヒューゴ一味もこれでお終いだ」
連邦保安官は書類を渡しながらコールに言った。
「いや、連中を一度見失った。そのせいで銀行を襲われた」
「でも、こうして捕まえる事ができたんだ。十分さ。なにも自分の結果にケチをつけなくてもいいと思うがね」
「まあ、それが俺の悪いクセなんだ」
「ところで、アンタの相棒だが……」
連邦保安官は、貨物列車のそばで吐いてるミッシェルを見た。
「身体の具合が悪いのか?」
「ああ、いや、あれは実はその……」
コールは気まずに経緯を話した。
ミッシェルがようやく胃の中にあったものを出し切ったころでコールが声をかけた。
「大丈夫か?」
コールはミッシェルの顔を覗き込んで言った。
「ああ、たぶん……」
「ほら、こいつを飲むといい。連邦保安官がソーダ水の入った瓶をくれた。二日酔いに効くとさ」
ミッシェルは受け取ったソーダ水を一気に飲んだ。
「うへ……二日酔いはもうこりごりだ」
「まったく……酒なんてまともに呑めないくせして、無理してウィスキーなんて飲むからだ」
「ああしたからこそ相手が油断したんでしょ?」
「そうだが、お前の三文芝居にはハラハラさせられたぜ。何が、"本物の男の銃が見てみたい"だ。聞いてるこっちが恥ずかしくなってきたぞ」
「な、なにを……!」
確かに今、思い出すと流れでとはいえ、恥ずかしいセリフだ。
「あ、あいつ、私の魅力にすっかり騙されてたじゃない!」
ミッシェルは顔を赤くしながら抗議した。
「あいつは酔っ払ってたんだよ。それに女なら誰でもよかったのさ」
「な、なんてことを!」
ミッシェルは相棒の言葉に顔を真っ赤にして怒った。
「おいおい、あんたら何、揉めているんだ?」
言い合いをしている二人のところライフルを担いだ男が声をかけてきた。
「コール・ソントンにミッシェル・ナイトかい?」
「ああ、そうだが……」
コールが男に言った。
「今回は、お手柄だったな。俺たちは、あんた達が掴まえたヒューゴ一味と取り戻した金を護送するためにピンカートン探偵社からやってきたんだ」
男がライフルの銃口で差す方向には、盗まれた金を貨物室に積み込む銀行の人間たちがいた。周囲では、ミッシェルたちの同僚である同じピンカートン探偵社の人間がライフルを持って周囲を警戒している。
「金が戻って一安心って感じだろ。あの金は真面目に働いて銀行に預金していた人達の手元に戻るわけだ。あんた達たちのお陰でな」
積み込まれている特別貨物車両のそばでは、銀行関係者らしき男達がにこやかに握手を交わしている。
「ところで、あんたら二人宛に本社から手紙を預かってきたんだが」
そう言って男は封筒を取り出して渡した。
「手紙?」
「次の仕事の事らしいぜ。でも詳しいことは聞かされてないんでね。じゃあ、手紙は、確かに渡したからな」
男は、コールに手紙を手渡すと貨物車両へ戻って行った。
コールは受け取った手紙の封を開ける。
「なんて書いてあるの?」
ミッシェルが手紙を覗き込む。
「ロスアラモスの田舎町で事件だと」
「ここからじゃ、ちょっと遠いよね」
「ウチの調査員が何人か行方不明になった場所らしい」
「行方不明? そりゃ、穏やかな話じゃないわね」
「依頼主は鉄道会社で、会社の路線に勝手に乗り入れてる列車のことでピンカートンに調査を依頼してきた。調査を進めて行き着いた先がこの手紙の場所。で、もっと詳しく調べようと調査員を送り込んだが皆、帰ってこなかったわけだ」
「誰を送ったのかな?」
「ジェームズ・ライリーとヘンリー・アダムズ」
「ライリーとアダムズ? ドジるような連中じゃない」
「ああ、そのとおり……なにか、ひっかかるな」
「それで、私達がするのは、行方不明になった調査者の捜索? それとも勝手に路線に入り込んでる厚かましい列車の調査?」
「両方だ」
ミッシェルは、ため息をついた。
「私、護衛とか、護送とかの仕事の方がいい」
「わがまま言うな。ほんとに、いつも、いつもオマエは……」
「だって、地味な仕事苦手だし。それに……」
ミッシェルは、何かを言いかけた。
「な、なんだよ?」
ミッシェルの態度が気になったコールが尋ねた。
「今回は、何か嫌な予感がするんだよね……」
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