36

 銃弾は床を貫き、穴を開けた。

 不思議そうに床に開いた穴を見つめるレイミア。

「それ以上、近寄るな!」

 ミッシェルは、撃鉄を下ろし45口径の弾丸が装填されたシリンダーを回した。

「あら? もしかして撃つ気がないの? でもそれはとてもあなたにとって危険なことかもしれないわよ。なぜかというと私はもう少しであなたに触れるところまで近寄れる。そうしたら、私は、あなたを引き裂いてしまうかもよ」

 そう言ってレイミアは、薄気味悪い笑いを浮かべた。

 撃つしかないのか……

 引き金に触れる指に力が入った時だった。ミッシェルはレイミアの瞳を見た。

 赤い……? 赤い瞳?

 ミッシェルは、レイミアの瞳から視線を外せなかった。何度も銃口の狙いを定めようとしたが、指も手首も腕も体さえも動かせない。まるで見えない紐でがんじがらめに縛られたようだった。

 レイミアが一歩踏み出した。

「残念ね」

 次の瞬間、レイミアは、ミッシェルの首筋に噛みついた!

 血しぶきが白いシャツを赤く染める。

 ミッシェルはそのまま床に倒れた。その上をレイミアが覆いかぶさり、血を吸い続ける。

「やめて!」

 ウィンディが必死でレイミアをミッシェルから引き剥がそうとしたが、びくともしない。

「レイミア、やめてよ!」

 ウィンディがレイミアの腕を掴んだ。レイミアの腕はウィンディと同じくらいだったがその力は大人を遥かにしのいでいた。レイミアは、乱暴にそれを振りほどくとウィンディの方を見た。

 赤い瞳と口からしたたる真っ赤な血。

 その姿は、もはやウィンディの知っていレイミアではない。

 ウィンディは、恐怖で後づさりした。

 その時、レイミアは、われに帰った。

 いけない……この子の前ではいけない。

 ウィンディは怯えきっていた。

 その表情を見ていると、後悔と何ともいない切なさがレイミアの心に満ちていった。

 その時、客車の扉が乱暴に開かれた。

「ミッシェル!」

 車両に入ってきたのはコールとカッシング教授だった。

 コールは、躊躇なくライフルでレイミアを撃った。

 衝撃でレイミアの小さな体は吹き飛ばされたが、彼女にとってはどうということはない。すぐに起き上がるとコールに向かって身構えた。

「化け物め!」

 ライフルをレイミアに向けたまま、倒れたミッシェルに近寄るコール。

 ミッシェルにはウィンディが駆け寄っていた。

「ミッシェル! ミッシェル! しっかりして」

 ウィンディがミッシェルに必死に呼びかける。

 その様子を見ていたレイミアは、戦う気が失せたのか、そのまま奥の車両に逃げていった。


 コールはスカーフをミッシェルの首に当てて血を止めようと試みたがスカーフは、すぐに血で真っ赤に染まってしまう。

「しっかりしろ、相棒」

 コールの呼びかけにミッシェルがうっすらと目を開ける。

「へへ……ドジっちゃったよ」

 無理をして笑ってみせようとするミッシェルをコールが悲痛な面持ちで見つめた。

 カッシング教授がコールの肩に手をかけた。

「教授、なんとかならないのか」

「吸血鬼に血を吸われた者は、吸血鬼になる。残念だが……」

 教授は、首を横に振った。

「何か方法はあるだろう!」

 コールは、声を荒らげて教授に詰め寄った。

「吸血鬼になりきる前にミッシェル君と血を吸ったあの少女との繋がりを断てば望みはあるかも……」

「どういう意味だ?」

「吸血鬼化では、血を吸った者と吸われた者とでは主従関係が結ばれる。その因果関係が吸血鬼化には大きく関わっていると思う。だから、吸った者を殺す事で因果関係を断てばあるいは……」

「要するにさっきの化け物を殺せばいいんだな」

「まあ、そういうことだが、あれは手ごわいぞ。他の吸血鬼よりずっと長く生きている大物だ。力は強いぞ」

 コールは、ウィンディを呼んだ。

「ウィンディ。俺は今からさっきの吸血鬼を退治しにいく。戻ってくるまでミッシェルを見ていてくれないか」

「うん……コールさん。ウィンディを殺すの?」

 コールは答えず、ライフルを持って立ち上がった。

「あんたはどうする? 教授」

 カッシング教授は、”吸血鬼殺しの剣”を抜いた。

「聞くまでもない。私は、あいつを追ってこの国までやって来だんだから」

 そう言ってニヤリと笑う。

「吸血鬼退治だ」

 コールはそう言うと奥の車両の方に身体を向けた。

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