34、皇女

 吸血鬼たちの烈車の中をミッシェルは、慎重に進んでいた。

 兵隊たちの乗り込んでいる車両ではないのか、まだ敵とは出くわさない。

 次の車両を慎重に扉を開けると乗客がいた。

 だが、顔は青白く、目は開けているものの瞬きさえしない。なによりも入ってきたミッシェルになんの反応も示さないのだ。まるで人形だ。

 吸血鬼じゃないのかな……

 ミッシェルは思った。

 後で知る事になるが、それは半吸血鬼。吸血鬼のなりかけだ。吸血鬼たちが血を吸うために生かしている人間たちだ。いわば保存食だ。意識はない。反応するのは日光だけだった。

 ミッシェルは、静まり返った車内をいつでも銃を撃てるように警戒しながら進んだ。

 次のドアを開けたときだった。

 狭い通路に並んだ銃列隊が銃口を向けていた。

「銃を捨ててもらおうか、お嬢さん」

 通路の反対側から声がした。見ると大佐がレミントン M1858の銃口を向けて立っていた。両脇には兵士がスナイドル銃を構えた兵士がいる。

「街でひと暴れしたな。一体、何者だ?」

「探偵社の者だよ。鉄道会社から依頼されて路線に勝手に乗り込む列車の正体を調べにきた」

「鉄道会社だと?」

「心当たりあるだろ? 線路は鉄道会社の所有物だ。勝手に使うのはまずいだろう」

「いかにも線路を無断で使用した事に心当たりがあるが、捜査だという割には随分と暴れてくれたな。多くの部下がやられた」

 大佐は、ミッシェルの鼻先に指を突きつけた。

「お前、ヨーロッパから我々の妨害を依頼されたんじゃないのか?」

「ヨーロッパ? なんだ、それ?」

「皇女の暗殺と計画の妨害だ」

「何を言ってるんだか、さっぱりだ。吸血鬼のお姫様がいるってのも初耳だし」

「そうか。なら、膝にでも一発ぶち込めば正直に話してくれるかな」

「やってみな!」

 ミッシェルはそう言葉を吐き捨てると大佐を睨みつけた。

 その時、背後に異様な寒気を感じた。

 見ると教会で見かけた謎の少女がいつの間にか立っていた。

「その方の言っている事は本当よ」

 少女は大佐にそう言った。兵隊たち歩みを進める少女に道を開けた。

「その方は、私の友人の知り合いなの。あなた方の手出しは無用よ」

「しかし……」

「私の命令は絶対だわ」

「かしこまりました」

 大佐は引き下がった。

「あなたがミッシェル?」

「なんで名前を」

「ウィンディから聞いたの」

「あの娘はどこだ。あの子に何かあったらただじゃ置かないからね」

 ミッシェルがコルトをレイミアに向けた。

 大佐たちが銃をミッシェルに構える。

「大佐。部下に銃を降ろすように言いなさい」

「この者は危険です」

「私を誰だと?」

「は、はい、妃殿下」

 レイミアがミッシェルに向き直る。

「「あなたいい腕ね。私に雇われる気はない? 何しろ私の命を狙う者が多いので参っているのよね。あなたのようなガンマン……ガンウーマン……いや、ガンレディね。あなたのようなガンレディがそばにいてくれたら安心して眠れるわ」

「吸血鬼に? ありえないね」

 ミッシェルは、肩をすくめた。

「ふふ、気に入ったわ。あなた好きよ」

「それはどうも」

「着いてきなさい。ウィンディに会わせてあげる」


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