33、ふたりの追跡者

 集積場は静かになっていた。

 銃声も叫び声も聞こえてこない。

 静寂の中、機関車の音が近づいていた。

 貨物車の中に隠れていたヤンガー兄弟は、それに気づき、身構える。

 外の様子をうかがうと、機関車がいつの間にか集積場の線路に乗り入れているのが見えた。その機関車は見たこともない奇妙な形をしていた。

 見ていると一味が襲われた車庫から列車が馬を使って引っ張り出され出され、連結されていった。

 その作業をしているのは皆、南軍の制服を着た兵隊たちだった。

 なぜ南軍の兵士がいるのかという事よりも彼らが吸血鬼に襲われずに連結作業を続けている事の方のがシモン・ヤンガーには不思議に思えた。

 あれだけいた吸血鬼たちはどこかへ行ってしまったのだろうか?

 それとも俺たち殺し尽くしたのか?

 やがて数人の兵隊がヤンガーたちの隠れている貨物車に向かってきた。

 貨車の中ではシモンは、身動きのとれない弟を荷物の陰まで引きずっていくと、身を低くしてコルトを握りしめた。

 貨物車に振動があった。

 どうやらシモンたちのいる貨車には興味を示さず作業を続けているようだ。この貨車も連結されているらしい。

 ヤンガー兄弟の二人は気づかれぬように貨車の奥で息をひそめた。



 ビショップと保安官は動き出す列車を物陰から見ていた。

 追跡隊の仲間は散り散りで、もはや生きているのか無事に逃げたのかもわからない。

 吸血鬼が人を襲う。

 さきほど出会ったピンカートン探偵社の調査員だと名乗った二人の言った事は本当だった。

 隣にいるビショップはシリンダーに入った空薬莢だけを取り出して補充を装填している。

 この男は、吸血鬼というバケモノが現れても関係ないようだった。ビショップはヤンガー兄弟を追うことだけに執念を燃やしここにいるだけなのだ。

「血の跡を見つけた」

 無言だったビショップが口を開いた。

「それがどうした?」

「血の跡は、貨物車の方に続いていた」

「ヤンガーが貨物車に隠れたと思うのか?」

 保安官の問いにビショップは頷いた。

「だが、どうする。列車の周りにいるあの兵隊たちは多分、吸血鬼の仲間だ。事情を説明しても俺たちに協力するとは思えない」

「とにかく、列車に乗り込む。そっからだ」

「おいおい、中はきっと吸血鬼だらけだぞ。奴らがいたとしてもきっと吸血鬼に襲われているさ」

「関係ない。邪魔するやつらは撃ち殺すだけだ。ヤンガーたちが死んでいたら死体に鉛の弾を撃ち込んでやる」

 そう言うとビショップは列車に向かって走りだした。

「お、おい! 待て!」

 呼び止める間もなくビショップは、闇に紛れて列車に近づいた。

「ええい、くそっ!」

 保安官は、周囲を目を配った後、ビショップの後を追った。



 

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