17、教会にて

 ウィンディは、息を切らせてミッシェルの後をついていった。

 手を握るミッシェルは、ウィンディの足に合わせてくれているようだが、それでも身体の小さなウィンディにはきつい。でも、ここで頑張らないと、あの無法者たちや、吸血鬼が追いついてくるかもしれない。

 ウィンディは、力を振り絞って走った。

「あの教会に隠れよう」

 先頭を走るコールが言った。

 教会の扉を慎重に開けると三人は、音を立てずに中に入った。

 中には誰もいないようだ。

 牧師などはとっくに、この街から逃げ出しているのかもしれなかった。なにしろ血を吸う化物がいる町だ。

 中の安全を確認するとコールは、コルトをホルスターに収めた。

「誰もいないようだ」

 コールは、月明かりの照らす窓の傍に行くと壁に身を寄せながら外の様子を見た。

「追いかけてくる奴もいない。まずは一安心だ」

 コールは外の様子を伺いながらそう言った。

「くそっ! なんなんだよ! あの化物は!」

「お前が吸血鬼って言ったんだろ?」

「言ったよ! 言ったけどもさ……しんじられねえよ! 灰になって消えたし!」

「そういうのが、きっと吸血鬼ってやつなんじゃないか?」

「吸血鬼なんてありえねーって!」

「だから、お前が吸血鬼って言ったんだろ」

「しらねーって! 吸血鬼なんて」

 コールは無視して再び、窓から外の様子を窺った。

「それになんだよ! あの連中!」

「撃ってきたやつらか?」

「そうそう! ざけやがってよ!」

「街の連中ではないだろうな。きっとタチの悪いアウトローだ」

「たまたま立ち寄ったって事?」

「だろうよ。化物とやり合っていたし、俺たちに深追いしてこなかった」

「ウィンディの話だと列車は車庫に隠されているってさ。探ってみるか」

「その前に弾薬が欲しいな」

「なら、保安官事務所から頂こうか」

「そうだな」

「ウィンディ行こうか……あれ? ウィンディ?」

 ウィンディの姿は消えていた。



 暗闇の中、ウィンディは、教会の奥へ迷い込んでいた。

 引き良寄せられるようにさらに奥に進むと誰かがいた。

 その姿は不思議なことに灯りもないのにはっきりと見えた。

「やあ、ウィンディ。また会ったわね」

 暗闇の中、見覚えのある姿があった。

「レイミア?」

 それはウィンディがワシントンへ向かう列車で出会った少女レイミアだ。暗闇の中からウィンディに微笑みかけている。

 ウィンディは、レイミアに駆け寄った。

「無事だったの? よかった」

 嬉しそうに抱きつくウィンディにレイミアは少し驚いた表情になった。

「あなた、私を心配してくれていたの?」

「うん、レイミアも無事でいて欲しいって神様にお祈りもしたんだよ」

「神? ふふふ……神ねえ」

「私、おかしな事言った?」

「いいえ、違うの。気にしないで……ありがとう。ウィンディ」

「あの後、列車の中、酷いことになったの」

「知ってる」

「私、すごく怖くって……」

「あなた、なぜ怯えているの?」

「だって、死んじゃうかもしれないのに」

「死ぬって、あなた、今すぐ、死んでしまうってわけ?」

「うーん、違うけど……でも、そのうち、あの吸血鬼たちに殺されてしまうかもって思っちゃうの」

「ならそのときに嘆けばいいじゃない?」

 ウィンディは、レイミアの顔を不思議そうに見た。

「今、あなたが恐れて、嘆いても、まわりの状況は何も変わってないわ。何よりも私とこうして無事に話している。起きてもいないことを恐れて、嘆いても何も変わらないのよ。私の言ってることはわかる? ウィンディ」

「う、うん……何となく」

「そして一番、大事なことはね、ウィンディ。今、あなたが無事に生きているって事なのよ。そして私もそれがうれしいわ」

 そう言ってレイミアは、ウィンディに笑いかけた。

 それは、暗闇の中で出会った時の微笑みとは違ったものだった。

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