18、不死者

 カッシング教授は、草むらに潜み、屋敷の様子を窺っていた。

 暗闇の中、蹄の音が聞こえてくる。

 馬車だ。

 黒い馬に引かれた四頭立ての馬車が走ってきた。

 馬車が屋敷の前に止まった。

「着きました」

 南軍服を着た将校が、馬車の客席の窓に向かってそう声をかけた。中からは冷たい空気と邪悪な何かが洩れていた。人間にとっては避けるべきものでしかない異様な気配。教授の眉間が険しくなっていく。

 馬車の扉が開き、黒い紳士が降りてきた。

 その後は、黒い貴婦人が続く。

 黒い紳士は、屋敷を見上げた。

「ヨーロッパとは感じが違うものだな」

「なにぶん、建国より大して年数の経っていない国ですので」

 将校が言った。

「まあ、よい。案内せよ」

 屋敷の大きな扉を開けると執事長を筆頭に執事とメイドがうやうやしく待ち構えていた。

 皆、顔を伏せたままでいる。

 黒い紳士は屋敷の中へ入っていった。

 

「見つけたぞ……不死者め」

 草むらから様子を窺っていたカッシング教授は、そう呟いた。

 教授が剣を握りしめ草むらから出ようとした時だった。町の方から爆発音が聞こえた。

 町での爆発に気がついた南軍兵士たちも騒ぎ出した。

 屋敷の警備が、瞬く間に厳重になっていく。どこにいたのだというくらい兵士の数が増えた。これでは忍び込むのは難しそうだ。

 教授は、町の方を見て考えた。

 二人の探偵社の人間を思い出していた。

 ふたりとも銃の腕は立ちそうだった。荒事にも慣れていそうだ。

 彼らなら助けになるかも……

 教授は思った。

 あえて不死者との戦いに巻き込まないようにと考えていた教授だったが、この屋敷へ乗り込むには吸血鬼相手が慣れている教授でも難しい。だが、あの二人の協力を得られる事ができればなんとかなるかもしれない。

 教授は、屋敷に忍び込むのを止めて町へ向かった。


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