9)到着した列車

 列車の到着を待っていた青白い顔の駅長は、懐中時計を取り出して時間を見る。

 時刻は、午前一時をまわるところだった。

 駅長は無表情で時計を見つめ続けた。

 その時、汽笛が鳴り、駅長は顔を上げた。

 列車が近づいてきたのだ。

 駅長は懐中時計を懐にしまい込むと、手に持ったランプをかざして揺らした。

 列車は駅の手前で速度を落とし、ゆっくりとホームに停車した。

 ウィンディ・ジェンキスとその一家を乗せてた列車は、真夜中の駅に到着したのだった。

 ここがカミノ・レアルの町。

 線路の建設も途中で打ち切られたはずの駅に、真夜中、停まるはずのない列車が到着したのだった。


 貨物車の扉が開かれ、駅で待っていた男たちが、数人がかりで荷持を降ろし始める。その周囲ではライフルを持った兵士たちがまわりを警戒をしていた。

 兵士たちは皆、南北戦争のころの南軍の制服を着ていた。

 戦争が終結して二十年近くが経ちは、すでに消滅したはずの軍隊だった。

 駅のホームプラットに、一個分隊が勢ぞろいして列車から降りてくる乗客を待っていた。

 特等列車から黒い服に身をまとった紳士と淑女が次々と降りてくる。

 彼らは、兵士たちに案内され駅の外で待ち構えていた4頭立ての馬車に分乗していった。

 最後に、燕尾服を着た執事らしき男が降りてきた。

「お待ちしておりました」

 兵士の中から将校らしい男が前に出てそう言った。

「出迎えご苦労である。モーティマ大佐」

 チェスター・モーティマ大佐が頭を下げながらそう言った。

「予定の時刻を過ぎていたので案じておりました」

「少々、貴族の方々が食事に手間取っただけである」

 そう言った執事の口にも僅かな血がついている。どうやら主人たちの食事に便乗したらしい。

「列車に食べ残しがある。処分を任せてもよいか?」

「お任せを」

 大佐と呼ばれた男が目配せすると、副官の将校がライフルで武装した部下従えて列車に乗り込んでいった。すぐに列車の中から、銃声と叫び声が聞こえてきたが、大佐も、執事も、なんの平然と会話を続けた。彼らには、人が恐怖と絶望で上げる悲痛な叫び声も、風の音か何かのようなものらしかった。


「ところ皇女陛下のお姿が見えないのですが?」

 モーティマ大佐は、執事に尋ねた。

「陛下は、長旅のせいか、お身体の様子が思わしくあらせられない。念のため、少し休んでからお降りになる」

「それは、それは……では、我らは、それまでここでお待ちしております」

 大佐はうやうやしく、そう言った。

「ところで滞在する屋敷の準備はどうか?」

「つつがなく」

「陛下はこのたびのそちたち働きにいたく感心しておられる。直接、礼を言いたいと申しておられた」

「はっ、光栄であります」

「それと、乗り換えの為の列車の状況はどうなっておる?」

「若干、予定より遅れておりますが、完成いたしました。問題はありません」

「人間の列車は、何かと不便でいかん。これで皇女閣下にも不自由なく列車での旅をお楽しみいただけよう」



 駅の外には待機していた4頭立ての馬車がまた一台、出発しようとしていた。

 馬車の周囲を守るように数騎の騎兵が並んだ。

「馬車を出せ!」

 馭者の鞭で、黒い馬たちが嘶きを上げる。

 先頭と後ろに南軍の騎兵を配した、隊列が走り出すと闇の中へ走り去っていった。



 その様子を列車から密かに逃げ出したウィンディ・ジェンキンスが物陰からじっと見つめていた。

 駅に停まった列車では恐ろしい惨劇がまだ続いていた。

 半死半生の者は皆、ことごとくその生命を絶たていた。

 無事なものは、南軍の兵士から、おかしな薬を無理やり注射され、深い眠りに落ちていた。

 ウィンディは耳を塞ぎ、恐ろしい悲鳴が終わるのをじっと待った。

 それは夜明けまで続いた……


 ミッシェルとコールが町に着く一日前の出来事であった。


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