8、強盗団の痕跡

 保安官ドナルド・オコナー率いる追跡隊がヤンガー一味を追って1日が過ぎていた。

 追跡隊は、適当な場所を見つけると野宿の準備をした。

 馬から毛布を下ろしているビショップにオコナーは声をかけた。

「用意がいいな」

「当然だろ」

「俺の言いたいのはそういう事じゃない。あんた、本当に銀行に雇われたのか?」

 オコナーは、ビショップにそう切り出した。

「そうだ。金を貰って頼まれてる」

「だが街の者じゃないだろう?」

「ああ……」

 ビショップは、自分からは何も話さない。彼が口を開くのは何かを聞かれた時だけだ。

「何の用で街に来ていた?」

「大した用じゃない」

「もしかしてあんたは、元々、ヤンガー一味を追っていたんじゃないのか?」

 ビショップは、何も答えずに馬から荷物を下ろし続けた。

「強盗をやらかす事も知っていのか?」

「だったらどうなんだ」

 ビショップは荷物を地面に落とすとオコナーの方を向き、ホルスターにおさまったコルトのグリップに手を置いた。

「連中の仲間ってわけではなさそうだ」

 オコナーはそう言ってニヤリと笑う。

「あんたの目当てはシモン・ヤンガーか」

 ビショップは答えなかったが、答えなかったことが答えだった。

「俺たちは銀行の金を取り返したい。あれは街の人達が働いて稼いだ金なんだ」

 ビショップは黙ってオコナーの言葉を聞いていた。

「だから、俺たちを嵌めるような真似だけはしてくれるなよ」

 オコナーは、そう言うと自分の馬の方へ戻っていった。

 オコナーが背を向けた時、ビショップは、ようやくコルトのグリップから手を離した。



 その夜、荒野に汽笛が鳴り響いた。

 野営地からオコナーたちは、暗闇の中、敷かれた線路を突き進む列車を目撃した。

 この辺の線路は、途中で放棄されたと聞いていたが……

 オコナー保安官は、南に向かって走る列車を見送った。



 次の日、追跡隊は、川に阻まれヤンガー一味の進んだ方向を見失った。

 渡りきった場所には馬の蹄の跡は残されていない。

 恐らく、川の浅瀬を行き、通った痕跡を消したのだろう。

 どこかで川を渡りきったはずだが、上流に向かったのか、下流に向かったのかもわからなかった。

「くそっ、強盗どもめ」

 オコナーは吐き捨てるようにそう言った。

「どうする? 保安官。ふた手に別れるか?」

 追跡隊に加わっていたカウボーイの一人が言った。

「そうだな……」

 オコナーが思案していた時だった。

 馬から降りて周囲の川辺を調べていたビショップが、ヤンガーたちの痕跡を見つけ出した。

「一味は、上流に向かった」

 ビショップは、川辺から立ち上がるとそう言った。

「なんで分かる?」

 一行の誰かが聞いた。

「こっちに苔を上に向けた石が転がっている。馬が歩いた証拠だ。小砂利にもそれらしいへこみがある」

 ビショップは、根拠を答えた。

 多くは語らない男だが、どうやら追跡には慣れているようだ。

「あんた、追跡に慣れているようだな」

 オコナーは、ビショップに尋ねたが、彼は聞こえないふりをして誤魔化した。

 あまり過去は聞かれたくないようだ。

 怪しいとは思いながらも、オコナーは深く追求しなかった。

「よーし! 一旦、川を渡ったら上流へ向かって進むんだ」

 川を渡り、先行を進んでいたビショップは、馬の足を止めた。

「どうした?」

 追いついたオコナーが尋ねた。

「連中は、メキシコを目指しているはずだと思っていたんだが、ここを上流へ向かうと少し大回りになる」

 ビショップは、川の先を指差してそう言った。

「あんたが言ったことだろう?」

「ああ、だが気になる」

「追跡されているの分かっていて撒こうとしているってところだろう。それか……」

 オコナーは、何かを思い出したように言った。

「確か、カミノ・レアルという寂れた街があったはずだ。もしかしたら、連中、金を手に入れた祝杯でもするつもりなのかもな」

 保安官はそう言った。

「街に立ち寄ると思うか?」

「勘だが、そう思う。だがそうはさせないぞ。あいつら、全員捕まえてやる」

 保安官はそう言って手綱を強く握りしめた。


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