13、夜の襲撃

 暗闇の中、音も立てずに廊下を進む二人の男。

 男たちの手には銃が握られ、ミッシェルたちの部屋の前で立ち止まった。

 ドアを静かに開けると中の様子を伺う。

 ベッドでは、二人がすっかり眠りについている。

 部屋に入ってきた男たちは、銃口をベッドに向けた。

「ノックもなしに入ってくるなんて無作法ね」

 ゆっくりと撃鉄の引く音が鳴らせて、コルトの銃口が男の頭に突きつけられた。

 ミッシェルの後ろにはウィンディがしがみついている。

 部屋の壁の方が明るくなった。

 そこにはランタンを持ったコールが同じくコルトを侵入してきた男たちに向けていた、

「残念だったな」

 そう言ってコールは、コルトの撃鉄を上げる。

「銃を捨てて、そっちに行け」

 コールは、男たちに銃を捨てさせると窓の方に歩かせた。

 男たちは、無表情のまま従った。

「さて、お前ら、誰の差し金だ?」

「まったく……こんな真夜中に迷惑なんだよ。お陰で寝不足だよ」

 ミッシェルは、あくびをしながらそう言った。

 後ろにいたウィンディが何かの気配を感じて上を見た。

「きゃああ!」

 見上げたウィンディは、叫び声を上げた。そこには牙を剥き出しにした男が張り付いている。

「うわッ! 天井に何かいる!」

 コールが気を取られた隙に二人の男たちは、捨てた銃を拾い上げた。だが、男たちが引き金を引く寸前にコールが先に撃ち、二人を倒した。

 次に天井にいる化物に銃を向けようとした時だった。倒した筈の男たちが起き上がってきた。

「おいおい、嘘だろ?」

 コールは残った弾丸を男たちに撃ち続けた。


 ミッシェルも反射的に天井の化物に向かって引き金を引いた。

 化物は、素早く天井を這い、銃弾を避けてしまう。

 なんだ! こいつ

 ミッシェルは、天井を這い回る怪物にコルトを撃ち続けた。そのうちの一発が怪物に当たった。天井から落ちた怪物は、床に転げ回った後、起き上がって再び牙を向いた。その姿は、人間の姿をした獣だ。赤くなった眼が暗闇の中、光っている。

「バケモンめ!」

 ミッシェルは、コルトの引き金を引いたが弾切れだった。

 怪物は、それに気がついたのか、ミッシェルに飛びかかる。ミッシェルは、もう一丁のコルトを左ホルスターから引き抜くと赤い目の怪物に向けた。

「くたばれ!」

 弾丸が怪物の額を撃ち抜いた。

 怪物の動きが止まり目の前に仰向けに倒れる。

「大丈夫か!」

 コールがミッシェルたちに駆け寄った。

「うん、コール。一体、なんなんだ? こいつら」

「わからん。こっちの奴らも弾をありったけぶち込んでようやく始末できた」

「これが、吸血鬼って奴なのかな?」

「どうかな? ここの連中が何か仕掛けてくるとは思ったが、まさか、バケモンを使ってくるとは……」

「まったく、気味の悪い町だよ」

 ミッシェルは、怪物の死体を蹴飛ばした。すると、死体に異変がおきた。その様子にミッシェルは思わず声を上げてしまう。

「うわっ!」

 怪物の死体は、灰になって消え去ってしまった。後に残ったのは銃弾で撃ち抜かれた服だけだった。

「なんなんだよ! もう!」

 ミッシェルは、後ずさりしながら文句を言った。

 後ろからウィンディがミッシェルにしがみつく。

「こいつらよ。こいつらが列車を襲ったの」

 ウィンディが怯えながら言った。

「大丈夫だよ、大丈夫。ウィンディ。吸血鬼は、もう、やっつけた」

 ミッシェルは、怯えるウィンディを優しく抱きしめた。

「おい、ミッシェル」

 窓から外の様子を窺っていたコールがミッシェルを呼んだ。

「何?」

「あれ、見ろ」

 窓の外を見ると馬に乗った男たちが集まっていた。

「うわっ……なんか嫌な予感がしてきた……」

 ミッシェルは、コルトのシリンダーから空薬莢を捨てながらそう呟いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る