6)追跡隊の結成

 強盗団ヤンガー一味に銀行を襲われた街は大騒ぎだった。

 街の住人たちが預けていた金が根こそぎ奪われたのだ。当然のことだった。

 破壊された銀行のまわりには、人々が集まり、銀行の人間を質問攻めにしていた。怒鳴り散らす住人を保安官がなだめるが自体は一向におさる気配がない。

 そこへたくさんの蹄の音が聞こえてきた。

 やってきたのは、大牧場主のトーマス・マクガイアとその部下たちだ。

「やあ、保安官」

 マクガイアは、馬上から保安官のオコナーに声をかけた。

「どうも、マクガイアさん」

「俺の金が盗まれたって話を聞いたんでこうして駆けつけたわけなんだが、本当じゃないよな」

「言いにくい事ですが、本当です。銀行の金は全て」

「ふざけるな! くそっ! くそっ!」

 マクガイアは、怒りまくった。その怒りの様子は、オコナーも口を挟めないほどだった。散々、酷い言葉を吐き出した後、マクガイアは、ようやく落ちついた。

「保安官、追跡隊は組織したのか?」

「今、助手が声をかけて回ってる」

「うちの若い者を出す。必ず金を取り戻すんだ」

 威圧的な物言いで保安官にそう言うと牧童頭を横に呼び寄せた。

「銃の扱いの上手いのを5、6人選んで追跡隊に入れろ」

「今の時期、そんなに人手を取られたら……」

「金を取り戻せなければ給料も払えんぞ」

「わ、わかりました」


 

 保安官のドナルド・オコナーが街の有志たちを募った結果、予想していたより人が集まった。

 その中の多くを占めていたのは馬での旅と銃の扱いに慣れたカウボーイたちだった。これは頼りになる戦力だ。

 このカウボーイたちは、銀行に金を預けていた大牧場主のトーマス・マクガイアがよこした者だ。マクガイアは、自分の所有物に手を出した者は決して許さない男だ。あの怒り方からすると、カウボーイたちにもヤンガー一味を殺すことも命じているかもしれない。

 保安官のオコナーにしてみれば、そんな無法な行為は許したくはない事だったが、馬での旅にも慣れ、銃もそれなりに扱える男たちとなれば断る事はできなかった。

 このカウボーイたちには、できるだけ目を光らせておくこう。

 オコナーはそう思った。

「ヤンガー一味は東に向かったのはわかっている。できるだけ早く出発して追いつこう」

 追跡隊一行は、ライフルや食料の準備を進めた。

 そんな追跡隊の中に一人の見慣れない男が入ってきいた。

「銀行から頼まれた」

 出発直前に追跡隊に割り込んできた男は、そう言った。

「ビショップだ。宜しく頼む」

 男はそう言って帽子のつばを上げた。

 ガンベルトには、柄模様が彫り込まれ、銃の腕は良さそうだった。

 街の人間ではない。それにどうにも不審な人物に思えたが、追う相手であるヤンガー一味は、7、8人はいたはずだ。

 それなりの人数は揃えないと返り討ちになってしまうだろう。

 ここは手勢が欲しいところだ。この際、仕方がない。

 準備が整った追跡隊は、総勢十数人程になり、陽の暮れる前に街から出発した。

 


 ヤンガー一味は一路、東に向かっていた。

 慌てて詰め込んだ金はまだ数えてもいないが二千か三千ドルくらいだろうか。

 焦げた札もあるからもっと少ないかもしれないが、悪くない稼ぎだ。

 一味は、追跡を交わす為に、わざと川の浅瀬を選びゆっくりと進んだ。

 これなら馬の足跡がわからなくなるはずだった。

 数キロほど川を遡った後、ようやく川の向こう岸に渡りきった。

「ボス、これからどうするんだ?」

 部下のスミスが聞いた。

「メキシコに行ってしばらく身を隠す。金はある。たっぷり楽しもうぜ」

 一味の歓声が上がった。

「その前にどこかで馬を休ませなくっちゃな」

「どこかで野宿でもしますかい?」

「そうだな……」

「それなら、ボス。ここからそう遠くない場所に小さな街があるぜ」

「街?」

「追っ手も来ていないようだし、一日くらいベッドの上で寝てえや」

 ヤンガーは考えた。

 確かにそうだな。このところ野宿が続いていた。それも別に悪くはないが、メキシコに入る前にひと祝もしたい。

「よし、その街へ寄ろう。ただし長くはいねえぞ」

「そうこなくっちゃ! ボス」

「で、その街はどっちだ?」

「あの山へ向かって走ればある筈ですよ。確か、カミノ・レアルとかいう街です。引かれる予定だった鉄道の停車場が取りやめになってから廃れてますが、酒場はまだあるはずですぜ」

「よーし、お前ら! 今からその街に向かうぞ! そこで仕事の祝杯だ!」

 一味に今日、二度目の歓声が上がった。

 だが、彼らは知らなかった。

 街には邪悪なものが潜んでいる事を……。


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