3)「ジェンキンス家の災難」①
ウィンディ・ジェンキンスがカミノ・レアルの酒場で自分の身長より長いライフルをぶっ放す二日前の話だ。
彼女とその家族は、ワシントンへ向かう列車に乗っていた。
弁護士である父親の新しい仕事の為に一家は、ペンシルバニアからワシントンに引越しをする途中だった。大きな荷物はすでにワシントンの新しい家へ送ってある。受取りや運び込みは、父親が新たに所属する弁護士事務所が肩代わりしてくれていた。
あとは、ジェンキンス家が到着するのを待つだけになっていた。
「お母様、もう着いたのですか?」
急停車した列車の大きな揺れに目を覚ましたウィンディは、眠気眼で母親にそう言った。
「いえ、ウィンディ。まだ着いていないわよ」
窓から外を見ると母親の言うとおり、駅にも到着していない。列車は、荒野のど真ん中で列車止まっていた。
「あなた……」
その不自然な状況に不安になったジェンキンス婦人が夫に尋ねた。
「大丈夫だよ。きっと、列車の時刻調整かなにかだろうさ」
そんな処置は聞いたことはなかったが、夫は、妻の不安を打ち消そうとそう説明した。
その時、車両におかしな振動がした。
「なんでしょう?」
「わからないな。でも大丈夫さ」
だが、すぐに列車が動き始めた。
「ほらね」
夫は、そう言って婦人に微笑む。ジェンキンス婦人は安堵のため息をもらした。
だが、窓の外を見ると何かおかしい。どうやら今まで向かっていた方向とは逆に進んでいるようだ。
路線の切り替えをしているだけかもと、最初はそう思っていたが列車の速度はどんどん上がっていく。
気になったジェンキンスは、車掌に問いただそうと席を立った。
「あなた……」
婦人がジェンキンスを引き止める。
「大したことはない。ちょっと車掌と話してすぐ戻るからね」
ジェンキンスは、車掌を探しに通路を歩いていった。
乗客たちの中には列車が到着の予定時刻を過ぎている事に気がつきはじめた者だ出始めていた。
騒ぎ出した乗客を横目で見ながらジェンキンスは、車掌を探して通路を歩いた。
扉を開けた時、通路の先に帽子と制服を着た男を見つけた。
「やっと見つけた」
ジェンキンスは、その男を車掌だと思い声をかけた。
「なあ、君、ちょっと尋ねたいのだが、到着時間が過ぎているのでは……」
男が振り向いた。
その男に、なんとも言えぬ違和感を感じた。よく見ると制服は駅員のものではなかった。なによりも男の顔は、白く不気味だった。それにおかしな臭いもする。
「す、すみません。車掌だと勘違いして……」
ジェンキンスがそう詫た。だが、男はホルスターからコルトM1851を引き抜くと、ジェンキンスの額に突きつけた。
「うっ!」
撃鉄が引かれ、引き金に指がかけられた。
「列車はちゃんと目的地に到着する。それまで大人しく席に戻ってろ」
男は異様に伸びた犬歯をむき出しにしてそう言った。
「わ、わかった。席に戻るよ」
ジェンキンスは、慌てて自分のいた車両に逃げ帰った。
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