第17話 「プロミネンス」
ウィルスの脅威はいつ終わりますか?
「リュツィ、アリスもだけど、お前ら外出る時マスクしてないだろ?」
心配になって尋ねてみた。
だぼだぼパーカー――だぼパにホットパンツのリュツィは朝のゴールデンタイム? ――アニメ……女の子が変身して悪者を成敗するアレを見ながら、
「いけー! プリ――……え? なにトオル?」
よく聞こえなかったらしい。テレビに向かって声出してたら無理もないが。
「外出る時マスクしてないだろ? って言ったんだよ。だろ?」
「いけー! プリ――……え? なになにトオル聞こえなかったんだけど?」
このゴールデン(金髪)オタク……。
「だから――」
「あははは! ごめんごめん! 聞こえてるぞトオル。ちょっと辛かっただけだ辛かっただけ」
好きなものを見てるせいだろうすこぶる上機嫌だ。
「はいはい。でもそれ、『からかっただけ』な。『辛かった』だと食べ物の味の話になっちゃうだろうが」
教えてやると、くるっと向き直って「ふふん」と鼻を鳴らし、
「間違ってないぞトオル。わたしは、トオルのわたしたちへの甘さのことを言ったんだからな。つまりどういうことかと言うと……」
「今よりさらに甘やかせと」
「そう! 意思疎通は合格点だな! でも……」
胡坐のような体勢で、顔の横でOKを作りながら無邪気に笑う。……どちゃかわいいな悔しいけど。でもそのポーズする人、何年も前か、ドラマの中とかでしか見たことないぞ。
「……トオル、最近私たちのことおざなりにしてない? ちょっと慣れてきたからってちょっとぞんざいに扱ってない? 倦怠期前のふーふみたいに。例えば…………ごはんのレパートリーが減ってたり……。気を使って労わることさえ七面倒くさくなってたり……。ライク・シャークな時に家にいるのを避けるようになったり…………とか! どう? トオル……?」
お前どこでそんな小難しい日本語覚え……。
「どう……って……。……まあ、人間、慣れてきたらそんなもんじゃないか……?」
どう考えても人間じゃないリュツィにそんなこと言ってる俺おざなり。はいはい俺の負けですよー。
「そんなもん……? トオルにとってわたしたちってそんなもんなの……?」
突然、泣き出しそうな声で瞳をうるうるさせだす。
「い、いや、そういう意味じゃなくてだな……ってなんで泣きそうになってるんだよ……」
いつも元気なお前がそんなだと……。
でもまあ、確かに最近……、
「そんなわけ――」
「お戯れはそこまでにした方がいいかと。トオル様が困っています、リュツィ様」
今まで気配を消したかのごとく粛々と洗濯物を畳んでいたシルバー(銀髪)メイド――アリスが口を開いた。
「……」
戯れ……? と疑問に思いながらリュツィを見ると……、
「……にひひ」
にやけ笑いをしていて俺は、
「――おま」
「あ! トオルー! さっき何言ってたんだー? ムスクが何とかって言ってたような気がするけどー! よく聞こえなかったんだけどー!!」
「マスクだよ! お前たち外出る時、マスクしてないから、ちゃんとして出ろよって言いかけたんだよ!」
そう言った瞬間、アリスの無表情が――醸し出す空気がどこか和らいだ気がして、
「だと思ったー! トオルってそういうとこホント分かりやすいなー! はは! …………。たっくるしていい?」
本気の構えを見せ始める。
「いいわけねえだろ! お前が全力でタックルしてきたら家に穴が開く勢いで吹き飛んじまうわ!」
メイドは思う。答えはわかっているけれど……人間とは、みなこうなのだろうか? と。
ロリとメイドとちょっと変わった日常 kapuri @clazybones
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