第28話たまには定家

雲さえて

    峯の初雪

        ふりぬれば

             有明のほかに

                   月ぞ残れる         


                         藤原定家



 式子内親王様の晩年、その家司をつとめた希代の歌人、定家の和歌。



 この歌は、下手に現代語訳はできないし、一言たりとも崩せない。

 「雲さえて」「峯の初雪」「有明」「月」「残れる」まで含めて、本当に繊細にして緊張感のある、冬の朝を蒼白のイメージだけを重ねあわせ、歌を構成している。


 その言葉遣いの技術の見事さ、山水画的でもあり、息ひとつ吐けないくらいの緊張感、月が残ったまま明けゆく夜空の動きも表現しつくす。

 これほどまでの、文字芸術は、なかなかお目にかかれない。


 ただ、これほどの素晴らしい歌にして・・・技巧はともかくとして・・・

 幽玄は幽玄なのだけれど・・・

 内親王様と比べるのも意味もないけれど・・・

 

 「技術を超えた何か想いのようなもの」

 それが、少しだけ、引っかかる。

 


 ※家司(けいし、いえのつかさ)

 親王・内親王家及び三位以上の公卿・将軍家などの家に設置され、家政を掌る職務

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