第29話定家その2

かきやりし

     その黒髪のすぢごとに

               うち臥すほどは

                      面影ぞたつ



                      藤原定家 新古今1390


これも現代語というか、そもそも口語文にはできない


あえて 言葉にするならば


艶々しい黒髪


それを かきやると


黒髪の筋ごとに


情事の後の 美しく艶な 女の顔


独り寝になるたびに その面影が 鮮やかに浮かんで来る



※ゾクッとするほど、艶

 様々、解釈はわかれるけれど、「情事」を読み込むかで、艶の質も異なる。

 現代の男女の恋愛倫理では、およそ考えられないけれど、歌として読み込まないと深みも全然異なって来る。


  艶も独り寝の侘しさもある。

 一度は愛を交わした相手を思い続ける

 ここまで考えて、吉田兼好氏の「徒然草」を思い出した。

 


 徒然草137段の中から

 男女の情も、ひとへに逢ひ見るをば言ふものかは。

 逢はで止みにし憂さを思ひ、あだなる契りをかこち、

 長き夜を独り明し、遠き雲井を思ひやり、浅茅が宿に昔を偲ぶこそ、

 色好むとは言はめ

 

 男女の恋愛というものは、ただ単に逢い愛し合うことのみ、言うものだろうか。

 逢えなくなったことを憂い、儚い約束を嘆き、長い夜を独り寝で明かし、

 遥かな雲の中にいる相手を想い、粗末な宿に昔の情事を偲ぶことが、本当の色好み

 の姿だと思う。


 「幽玄」「余情」「わびさび」につながる日本古来の美意識が、定家の歌には込められている。

 さすが、定家、艶歌としては、最高ランクだと思う。



  

 



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