第45話 また会う日まで
同じ個所を二十回斬りつけられた「アビスデーモン」は地に沈む。
自動操作モード終了します。
自動操作モード終了のメッセージとともに、俺は体を動かせるようになる。響也はゴルキチはどうだ?
<響也、暴帝はどうだ?>
響也にテルを送ってみるとすぐに返事が来る。
<もう倒れると思う。兄さんは?>
<今倒したところだよ。あとは和田さんに任せよう>
さすが響也だ。ゲームが実物になったとしても彼の感性は変わらないってことか。呆れるくらい優秀な弟だよほんと。
響也と会話をしていると、「天空王」がこちらに飛んでくる姿が見える。
「天空王」が地に着くと、突風が巻き起こりまたしても俺のスカートが捲れ上がり、パンツが丸出しになるがゴルキチだけだし気にする必要もないだろう。
「ゴルキチ、モンスターはどうなった?」
「天空王」から降りてきたゴルキチに「アビスデーモン」が呼んだだろうモンスターについて尋ねる。
「ああ、全て殲滅したよ。天空王はすごかったぞ。何匹も沸いてきたが突然沸きが止まったんだ。君がアビスデーモンを倒したんだとそれで気が付いた」
「なるほど。響也のほうも、間もなく暴帝を倒せるそうだ」
「おお、君たち兄弟は凄まじいな!」
いや、俺は戦闘用AIのお陰で戦えてるだけだよ。と言っても戦闘用AIのことはゴルキチには分からないだろうから、俺はあいまいに頷いておいた。
<倒したよ。兄さん>
そこへ響也からテルが入る。
<了解。ありがとう。響也>
<兄さんの役に立ててよかったよ>
全く殊勝な奴だよあいつは。よし、あとは和田さんの結果を待つだけだな。ああ、俺たちはゴルキチの移動魔法でジルコニアまで移動できるが響也たちは戻れないじゃないか。
和田さんが戻ってくれば場所が分かるけど。どこにいるか分からないけど響也たちは旅の荷物なんて何も持ってないぞ。
「天空王、和田さんはまだ戻ってこないのか?」
「戻って来たぞ。リベールたん。ククク......」
おお。クククは間違いなく和田さんだ。
「どうなったか聞きたいところだけど、しゅてるんと響也を連れ戻さないと」
「ああ、任せろ。天空王に乗りたまえ。そこで話もしよう」
俺とゴルキチは目くばせして、お互いの手を握り「天空王」へ乗り込んだ。
◇◇◇◇◇
和田さんに響也たちがいる場所まで運んでもらい、出発した広場まで戻る。ここまで二時間もかかっていないから、「天空王」がどんだけすごいスピードで飛翔できるのかが分かる。
これでも俺たちを落とさないようにゆっくり飛んでいるそうだから驚きだ。
道中、和田さんに聞いたところ、想定どおり上手く異界の根源モンスターの出現は止めることができたらしい。この世界にまだ残存している異界のモンスターは消えないが、いずれこの世界の食物連鎖の枠に入っていくことだろうと和田さんの言葉だ。
一応作戦は大成功に終わり、俺と響也の役目も終わったのかと思うと、これが微妙だった。
今回の根源モンスターの件でシステムを大幅にいじってしまったため、俺たちがこの世界から首尾よくログアウトできるかどうかを綿密に調査する必要があり、俺を呼んだ時のようなバグを起こさないようにしたいとのことだ。
また、本当に根源モンスターの脅威が無くなったのか経過観察する必要があるので、これら含めてできれば一か月ほどはここに残留して欲しいということだ。
俺はまだ体があるからいいけど、響也は体がないんだが......と聞くと響也だけは実体がないからもっと早く戻せると言うことだ。俺の場合本体がここにあるので対応を慎重に行いたいとのこと。
地球に俺の体があるのかどうか、今の俺は地球の俺のコピーかどうかなど調べることはたくさんありそうだよ。
「和田さん、調べがついたら連絡ください」
「ああ、なるべく迅速に調査する。響也君に関しては二日か三日ほどで調査がつく。リベールたんは一か月ほど待って欲しい」
「了解しました。俺たちはジルコニアに戻りますね」
「キャラクター化はいつでも解除できるから言ってくれ。あとリュウ君にも一部システムを付与できるよう先に調整してみる」
「リュウで和田さんと会話できると助かりますので、そちらもお願いしますね」
「ああ、了解した。任せてくれたまえ」
◇◇◇◇◇
ゴルキチの移動魔法で戻った俺たちは、いつもの宿屋の部屋に集合する。
俺はさっそくゴルキチとリュウの精神を入れ替えることにした。これでゴルキチは元通りだ。キャラクター化もすぐ和田さんに解除してもらえるから今まで通りの生活を行えるだろう。
「世話になったな」
ゴルキチとジャッカルは俺たちに礼を言って、いつでも何かあれば言ってくれと言葉を残し部屋を去っていく。ジルコニアにしばらくいるそうだから、彼らと連絡をつけようと思えば連絡は取れるだろう。
「ありがとう。しゅてるん、響也」
「ううんー。けっこう楽しかったよよ。響也くん行っちゃうんだー」
「響也に連絡が行くと思うから、よろしく頼むよ」
少し寂しそうな顔をしたしゅてるんだったが、一旦自宅に戻り汗を流したいとのことだったので、部屋から出ていく。
残されたのはリュウに入ったリベールとリベールの体に入った俺だ。先に元に戻ろう。
俺とリュウは手を繋ぐとキャラクターチェンジと念じる。
<キャラクターチェンジしますか?>
脳内ディスプレイが表示され、リベールを選択すると竜二とリベールの名前が表示されたので、リベールを選びクリックする。
これでようやく元通りだ。しかし、何かモンスターを倒す必要があった場合はリベールの体を借りるかもしれないけど......
俺は元に戻った体を確かめるように、部屋の隅にある鏡の前に立つ。目つきが悪い黒髪の男が鏡に写り、ほっと安堵のため息をつく。ピアスと刺青どうしようか......。
「リュウ」
いつも聞こえていた凛とした声に、後ろから呼びかけられる俺。
「リベール」
俺の声だ。俺はやっと自分の声でリベールの名を呼ぶことができた。
俺が振り返ろうとすると、リベールが後ろから俺を抱きしめてくる。ワンピース姿なのに俺の背中にはリベールの胸の感触が一切無かった。これでこそリベールか。俺は思わずクスっと笑ってしまう。
「何だ君は。感動の場面じゃないのか」
「いや、やっと戻れたんだなあと思ってさ」
「そうだな。ゴルキチの時は分からなかったが、君は華奢だが案外頼もしいんだな」
どういう意味か分からないが、男らしいってことか? んー。それは疑問だけど。筋肉無いし......
「まだ完全に終わったわけじゃないけど、ひとまずお疲れ様だな。お互い」
「ああ、そうだな」
リベールは俺から離れると今度は俺の前に回り、鏡に自分の体を写していた。後ろからのぞき込むように俺も鏡を見つめる。
「戻ったんだなー」
「ああ、君がずっとリベールだったものな」
二人で感慨深く鏡を眺めていると、リベールが俺の胸に飛び込んできたと思ったら、唇を重ねてきた。突然のことに驚いたが、俺は彼女の背に腕を回しギュッと抱きしめる。
柔らかい感触がとても心地いい。
「やっと私たちは会えたんだな」
唇を離したリベールは、俺の頬に手をやり涙目でそう俺に囁いた。
「ああ、やっと」
俺からも唇を寄せると、リベールも寄せてきた。再び口づけをかわす俺たち。一か月待てばこの世界からログアウトし、元の生活に戻れることだろう。こっちと地球を行き来できるなら最高だけど、どちかを選べと言われると迷うなあ。
今は深く考えず和田さんからの言葉を待とうじゃないか。
「ああ、リベール一つだけいいか?」
「なんだ?」
潤んだ瞳で俺を見つめてくるリベール。
「ミルク飲んでもおっぱいは大きくならないぞ」
「何を言ってるんだ君はー!」
思いっきり平手で殴られた。教えてあげただけじゃないか!
おしまい
ここまでお読みいただきありがとうございました!
いつかまたこのシリーズを再開するかもしれません。
よろしければ新作をご覧ください。
・タイトル
豚好き元将軍に旧友と間違われて大変なことになった
・あらすじ
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鉄壁!絶壁!生贄少女(TS物) うみ @Umi12345
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