第44話 それぞれの戦い

 いよいよ決戦当日となった。敵は「アビスデーモン」と「暴帝」の二体。それぞれ和田さんの転移魔法で移動し叩く、電撃作戦だ。

 この作戦で重要なポイントは、二体のモンスターをなるべく時間差少なく倒すことだ。和田さんが言うには倒した後、しばらくすると別の同名個体が出現する――リポップするということだ。

 せっかく倒してもまた出てきては意味がなくなる。そこで、和田さんが法則を書き換えることができるエリアなるところに移動して、リポップ出来なくする必要がある。


 となると、和田さんはどこかの時点で奥に引っ込む必要があるわけだ。

 その辺は相手モンスターの弱り具合で分かるだろう。響也と俺と和田さんは、互いに離れていても連絡を取り合えるから、ここは問題ないだろう。



「行ってくるねね」


 しゅてるんが和田さんの転移魔法で移動していった。「暴帝」のほうが「アビスデーモン」よりかなりタフなので、しゅてるんと響也のほうが時間がかかるだろう。


「ゴルキチ、準備はいいか?」


「ああ」


 移動魔法で「アビスデーモン」の目前まで移動したら、ゴルキチは「天空王」の背に乗って戦場を見てもらう。

 もし「アビスデーモン」以外のモンスターがいた場合、「天空王」と共にモンスターの誘引を行ってもらうのだ。

 和田さんが「天空王」の中にいる間は、和田さんが判断できるが「天空王」だけになった場合、ゴルキチと共に判断を行ってもらう。

 「天空王」ではどのモンスターが危険性が高いか判断つかないみたいだから。



◇◇◇◇◇



 着いた先は、溶岩性の玄武岩でできた大地が広がる植物一つない荒野だった。生命の息吹が感じられない死の大地。ゲームと同じ風景が広がるここは「アビスデーモン」の住処。


 歩くこと数分。あっさりと俺は「アビスデーモン」を発見することができた。

 奴は全身が赤色の短い体毛の生えた悪魔で、頭から生えた二本のヤギのような角、黒い細長い尻尾、背中から生えたコウモリに似た赤い翼。体格も雄大で筋肉質、背の高さは五メートルほどの人型だ。


 「アビスデーモン」は鋭いかぎ爪、尻尾での攻撃も強力だが、なんといっても極大魔法こそが奴の持ち味だろう。

 奴を中心に数メートルに及ぶ爆発が生じる全体魔法に、遠距離用の火炎魔法、自身を守るシールド魔法など多岐に渡る。

 しかし、そんなもの俺の、いや戦闘用AIの敵では無い。


 俺は戦闘用AI自動操作モードを起動する。


 戦闘用AI自動操作モード起動。対アビスデーモン 両手斧モード。


 戦闘用AIが起動すると、自動でメッセージが俺に流れる。地形を読み取り、「アビスデーモン」の全身を読み取り、自身の全身を読み取る。全ての挙動が戦闘用AIに取り込まれていく。


<全てのデータを取り終えました。戦闘用AI起動します>


 いかなる相手であれ、戦闘用AIの前には無力だ! 「アビスデーモン」自体に恐れることは一つも無い。問題は奴以外のモンスターが現れた時が注意。


 リベールは背中に携えた銀色の両手斧を構えると、「アビスデーモン」のほうへゆっくりと歩いていく。対する「アビスデーモン」は悠然と構えたままだ。


「人間よ。地獄の大悪魔たる我に挑戦しようという気概だけは認めよう」


 リベールを嘲笑するように「アビスデーモン」は高慢な高笑いをあげる。セリフまでゲームそっくりだ。


「どちらが愚かかすぐ分かる」


 リベールは感情のこもらない声で「アビスデーモン」へ向け静かに呟くのだった。


 笑い声が終わるか構えるのが速かったのか、「アビスデーモン」は無防備にも両手を高く天へ突きあげる万歳のポーズを取る。

 リベールは左へ一歩歩き、斧を構えると次の瞬間、大地が空気が振動しはじめ、猛烈な衝撃破が「アビスデーモン」中心に巻き起こる。

 これこそ、「アビスデーモン」の全体攻撃魔法。近寄るもの全てに全方位的に攻撃を行う必殺の一撃。


 しかしリベールは嘲笑う。全方位攻撃? そんなものは幻だ。


 彼女は僅か半歩前進、「バーサーク」を発動。体を仰け反らせ緑の光に包まれる。衝撃魔法は実のところ抜け穴があるのだ。

 その抜け穴は刻一刻と変わり、かつキャラクター一人分の隙間しかない。

 隙間に正確に移動すれば衝撃魔法なぞ大きな隙がある攻撃でしかないのだ。


 緑の光に包まれたリベールは、斜め右へ一歩移動しつつ腰を落とす。これで衝撃破はすり抜けた! 無防備な奴の腹へ彼女は斧を切り上げ、叩き込む。


 一回転しさらに、全く同じ場所へもう一撃。「アビスデーモン」のかぎ爪が襲い掛かってくるが、ちょうどリベールがしゃがみ込み回避する。このしゃがみ込みは次への攻撃モーションだ。

 突き上げるように斧を振るうリベールの一撃がまたしても同じ場所を切り裂く!


 この精密な動きは全て戦闘用AIが複雑な計算をして行っている。機械のような精密さではなく、言葉どおり機械が行う動作なのだ。そこには一ミリたりともズレは生じない。

 故にまな板に乗ったモンスターは何もできず、攻撃が自らの隙になり、防御行動でさえリベールの攻撃を助けることになる。

 戦闘用AIはモンスターにとってみれば悪夢以外何者でもない。


 同じ個所を何度も斬りつけられた「アビスデーモン」は腹から多量の血を流しつつも、ニヤーっといやらしい笑みを浮かべると、大きな叫び声をあげる。


 この叫び声は仲間を呼んだか? そう思ったリベールは遠くへ目を凝らす。


 遠目でなんとかモンスターの影らしきものが確認できたリベールだが、数が多い! おそらく三体以上。

 新手を観察しつつも、リベールの手は止まらない。時間が経つごとに「アビスデーモン」はその傷を深めていく。

 必ずゴルキチと「天空王」が奴らを仕留めてくれる。

 俺はそう信じ、リベールは斧を振るうのだ。



――ゴルキチ

「天空王、悪魔型のモンスターは四匹。天空から急降下で倒せないだろうか?」


 「天空王」の背に乗る私は、「天空王」に急降下の勢いを持って一匹づつ踏みつぶせないかと問う。しかし「天空王」の答えは否。


「見ておれ、儂が何故天空「王」と言われているのか見せてやろう」


 「天空王」は自信ありげに、自らこそ空の王だと、王には王たる力があるのだと主張する。


 「天空王」は悪魔型モンスターが並ぶ地点上空まで来ると目を瞑り大きく息を吸い込む。ブレスだろうか。


 答えは否。


「シューティングスター」


 「天空王」の呟きと共に、天から一メートルほどの隕石がいくつも地に降り注ぐ。

 「隕石落とし」こそ、天の王たる「天空王」の空を操る力。

 至近距離からこの攻撃を受けた悪魔型モンスターは一たまりもない。彼らが低級悪魔だったこともあるが、この一撃だけで悪魔たちは沈黙する。


 悪魔たちを消滅させたと思ったが、さらに悪魔が沸いてくる。しかし「天空王」ならば問題ないだろう。よくこんな超級モンスターとリベールは親しくなったものだ。「天空王」の力は人間と隔絶している。



――しゅてるん

 響也くんの力は底が知れないのの。この前倒した「翅刃の黒豹」も、今まで見たモンスターの中では格段に強かったのの。

 「暴帝」は「翅刃の黒豹」と比べてもはるかに強いことが感じ取れたのの。でも、響也くんにはそんなこと関係なかったた。

 私では何をしているのかもう分からないの。とにかく、響也くんの大盾は「暴帝」の初動を全て潰す。

 たぶんミリ単位での動作が要求されると思うんだけど彼は、研ぎ澄まされた感覚と天性の勘だけでこれをこなしていく。


 あれだけ凶暴かつ最狂といえる「暴帝」も、傷つき少しづつ動作が鈍くなってきてるのの。

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