第43話 決戦前夜
いよいよ「天空王」の元へ向かう日となった。この場にはリュウ、ジャッカル、ゴルキチ、しゅてるん(響也)に俺の五人。響也を入れると六人だ。
リュウとジャッカルがかなり頑張ってくれたらしく、響也用の大盾と片手剣、俺の両手斧ともに「大海龍」素材で揃えることができた。
響也も俺も防具は必要ない。響也も防具は要らないと言ったのは意外だったが、動きにズレがでると困るから今のままでいいと、俺に伝えて来たのだ。
なので、準備したのは武器のみというわけだ。
リュウとジャッカルは怪我すると取り返しがつかないので、今回はジルコニアでお留守番してもらうことにした。モヒカンズもいるから後方で動いてもらうときも都合がいいだろう。
ゴルキチには後方と前線を繋ぐ役になってもらうことにした。何度も「近衛騎士」が出てきて大変だったが「魔法使い」になってもらい、移動用の拠点登録をいつもの宿屋に登録したのだ。
ファンタジー世界で想像されるような魔法と思ったが、この世界の魔法もゲームの設定に近く、まともな魔法は移動魔法のみ。
とはいえ移動魔法は最大十か所の拠点登録ができて、登録した地点には一瞬で移動することができる。
他に使える魔法は、矢のように飛ばす四種類の攻撃魔法のみだ。よくある回復魔法はゲームと同じく存在しない。正直、弓を使うのと魔法を使うのは射程距離が違うだけでほとんど変わらないのだ。
このへんはさすがアクション性重視のゲームである。
「いよいよ天空王への元へ出発する。リュウ、ジャッカル何かあれば後方支援を頼む」
「おう」「まかせとけ」
「しゅてるん、響也、暴帝を頼んだ。俺とゴルキチはアビスデーモンへ向かう。詳しくは天空王のところで」
「わかったた」「了解。兄さん」
それぞれに声をかけた俺たちは、デイノニクス二頭が引っ張る大き目の馬車に乗り込み、ここでリュウとジャッカルとは別れることになった。
「何かあればすぐ連絡をくれよ」
ジャッカルが激励してくれる。リュウも手を振って送り出してくれた。
◇◇◇◇◇
予定通り「天空王」を呼び出せる広場まで到着した俺たち。さっそく角笛を吹き、待つこと暫く......
「リベールたん、準備は整ったかな?」
「ええ、準備はできましたけど二点質問があります」
「時間は余裕あるから、疑問点は潰せるだけ潰しておこう」
時間に余裕があるってことは、もうモンスターの位置を把握しているのかな。
「すいません三つにしてください。まず、和田さんはアビスデーモンと暴帝の位置を把握してますか?」
「ああ、君たちに依頼した時からずっと位置は追いかけている。近くまで転移魔法で送ることも問題ない」
さすが和田さん、準備は万端だ。
「次の質問は戦いとあまり関係ないんですが、響也はゲームで使っていたキャラクターと違ってしゅてるんさんに入ってますよね?」
「ああ。君を呼び寄せたことでデータが取れたんだよ。だから、任意の精神を任意の人間の中に呼ぶことができるようになった」
なるほど。元はできなかったのか。俺を呼び寄せた時に起こったバグも、改善の役に立ったのだろうか。俺にとってはゴルキチがいてくれて助かったから、結果的に和田さんはいい仕事をしたと思う。
「最後に俺の戦闘方法の問題を、みんなに言っておこうと思います」
「ほう。君ほど素晴らしい使い手は居ないと思うんだけどな」
これには和田さんだけでなく、全員が同意してくれる。みんな俺のことを買いかぶり過ぎだよ。
「一対一の戦闘なら問題ないんですが、複数となると対応できないかもしれないです」
「ふむ。ゲームでは一対一だったものな。君はみたところ、しゅてるん君と違って徹底的に相手を研究するタイプに見える」
「そうなんです。なので想定外のことに弱いというか」
「任せたたまえ。もし不測の事態が発生したときのために、天空王とゴルキチ君がいるじゃないか」
ゴルキチの名前も入れてくれるところに和田さんの気遣いを感じる。「アビスデーモン」戦、何事も起こらなければいいが、奴は召喚能力を持つと言う。複数のモンスターがいることも予想される。
そこを和田さんとゴルキチが補ってくれるというわけだ。
「しゅてるんと響也は大丈夫なのか?」
俺の問には和田さんが答えてくれた。
「リベールたん。暴帝が機転を利かせて召喚をすることはないだろう。奴の欲望は空腹のみだ。それを満たすための召喚なら行うだろうが。目の前に餌が居て召喚はしないだろう」
「なるほど。暴帝はそんな性質を持ってるんですね」
これなら、しゅてるんという餌が居る限り、暴帝は他を呼ぶことはないだろう。下手したら自分の餌が横取りされるかもしれないんだ。響也に一人で行ってもらうことは申し訳ないけど、「天空王」とゴルキチには俺のサポートに回ってもらおう。
「ありがとうございます。和田さん」
「もう聞きたいことはないかな? では私から一つ、君たちに」
和田さんは一呼吸してから、俺たち全員に向けて、
「すまなかった。そしてありがとう。君たちなら必ず目標を討伐できるはずだ」
和田さんの言葉に全員が深く頷き、明日朝食後に決戦に向かうことを確認しあったのだった。
◇◇◇◇◇
馬車の中にしゅてるんを残し、俺とゴルキチは二人揃って星を見ていた。この澄んだ星空もあとどれくらい見ることになるのか。少なくとも明日の夜には俺がリベールで、リベールがゴルキチではなくなっていると思う。
「いよいよだな。ゴルキチ」
「ああ、ようやくだ」
俺たちはどちらからともなく、お互いの手を握りしめていた。ギュッと強く。明日が終われば恐らく元に戻れるというのに、この胸が締め付けられるような郷愁はなんだろう。
やっとゴルキチに体を返せるんだ。喜ばしいことじゃないか。
「アビスデーモンを倒したら君はどうするつもりなんだ」
「そうだなあ。まずは入れ替わりを元に戻すよ」
「リュウに戻ってしまうんだな。嬉しい反面、少し寂しいよ」
「俺も少し寂しく感じている。元に戻るのはいいことなんだけどなあ」
「君がリベールのうちはいいんだが、リュウになると......」
「ゴルキチ、元に戻っても暫く一緒にいてくれないか?」
和田さんがもうこの世界は大丈夫と判断するまでは、乗りかかった船だ。協力はしたいと思う。その為にはリベールの体が必要だ。
一緒にというところを聞いたゴルキチの顔がぱあっと明るくなるが、すぐに少し暗い表情になる。忙しい奴だな......
「いや、君がリュウに戻るとだな......その、男前だし、私なんかが隣にいていいのか......」
しかしゴルキチはリベールの見た目をどうしてこうも過小評価するのだろうか。リュウとリベールが歩いていたら、リュウのほうこそ釣り合わないと誰もが思うよ。日本基準ならな。
不思議とゴルキチはリュウをカッコいい部類と思っているが、この世界の基準なのかゴルキチの感性なのか、イマイチ分からないなあ。
「それを言うなら俺のほうだよ。麗しいお嬢さん」
って今は俺がリベールだよ。自分で言ってて赤くなってしまった! 今のは俺の中二ノートに深く刻まれることだろう。
「いつも思うが本気で言ってるのか君は......」
真っ赤になりながらもそう返してくるゴルキチの頭をペチペチと叩いて、俺は微笑んだ。
「ああ、いつも本気だよ」
こうしてこの日の夜は暮れていった。
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