第42話 響也はチート

 響也がモンスターと戦いたいと言った時は何言ってんだこいつと思ったが、あいつは何なんだ一体! 入れ替わってから半日も経ってないんだぞ。

 あれだけ動きながら、目に入ってない箒の僅か手前を正確に剣が通る。俺とセンスが違い過ぎる......あいつは空間把握能力がずば抜けているんだ。見えてない目標も恐らくあいつの頭の中では認識されている。

 自分と目標の距離をどんだけ体勢が崩れても把握してしまう。ま、まあ、頼もしいじゃないか......モンスターと練習したいというなら練習してもらおう。

 そんなわけで、響也としゅてるんはデイノニクスに跨って、「翅刃の黒豹」を狩りに旅立った。


 俺は俺で「アビスデーモン」と「暴帝」を狩る為の武器の作成依頼をしようと思っていたら、ジャッカルとリュウが引き受けてくれた。「アビスデーモン」はともかく「暴帝」は皮膚が硬いから武器の品質を上げないと傷をつけるのは難しい。

 幸い「大海龍」の角とタテガミがあるから、響也用の大盾と片手剣は作成できるだろう。まだ素材が余るようであれば、俺用の両手斧も作ってくれるように頼んだ。

 ジャッカルが言うには四日あれば完成させるようにすると言ってくれたが、余裕を見て五日。


 討伐は七日目にジルコニアを出発し、「天空王」を先日の場所で呼び出すことにする。 残り三日で奴らの元へ行くという計画だ。和田さんが奴らの位置を把握しているのでひょっとしたら和田さんの転移魔法で瞬間移動できるかもしれないけど、日程は余裕をみていたほうがいい。


 夕飯を食べた後、部屋に戻った俺とゴルキチは、入れ替われるかを試すべくベッドに腰かけていた。

 結局、和田さんにテルで聞いてしまったのだが、俺のキャラクターチェンジは突貫工事だったそうだ。俺の精神を呼び寄せたつもりが、俺の本体が来て三人が入れ替わってしまった。

 これの原因調査をする前に、急きょキャラクターシステムを和田さんは作り上げたそうだ。キャラクターの入れ替えと精神の入れ替えができるこのシステムは、和田さんが自分に会うために仕込んだキーワードを使うことにした。


 ただ、万が一俺が元の体に戻った場合、ゲームシステムが組み込まれていないリュウで怪我すると取り返しがつかないことになるので、リベールの項目はロック状態にしたそうだ。

 今和田さんがロックを解いてくれたので、元の体に戻ることは可能だ。しかし、今は戻るつもりはない。和田さんも俺の決意を見て危険性があるリュウの体に戻ることはないと判断し、ロックを解除してくれたのだと思う。


 リュウに戻るのは、「アビスデーモン」を倒した後だ。ゴルキチにも申し訳ないが、リベールの体でないと戦闘用AIは使えないから、もうしばらく我慢して欲しい。


「ゴルキチ、一応試したんだけど、元に戻ることは今からでもできる」


「おお。そうか。ならリュウを呼ぶか?」


 自分はすぐ元に戻れるのに、俺のことを優先してくれるゴルキチに心が温かくなる。


「ごめん、ゴルキチ。もう少し我慢して欲しいんだ。リュウの体は怪我したら終わりだし......」


「そういえばそう言ってたな。リュウは私たちと違って生身の体だったか」


「そう。それに......リベールが俺には必要なんだ」


「え、えええ」


 真っ赤になるゴルキチはきっと勘違いしている。リベールが欲しいんじゃなく、戦闘用AIが使えるリベールの体が必要なんだぞ。


「そ、その私なんかでよければ、でも、できればその、お互い元の体に戻ってからだな......」


 ほっといたら暴走するゴルキチにチョップを入れて落ち着かせる。ハゲが真っ赤になってモジモジしてる姿を見ても、かなり微妙だ......


「ゴルキチ、いやリベール。戦闘が無い街では元の体に戻るか?」


 俺としても、ハゲを見るよりはリベールが視界に入ったほうが楽しいし。リベールは割に可愛らしい。おっぱいは無いけど。


「え、でも、君がゴルキチになるわけだよな」


「そらもちろん、そうだけど」


「そ、それはダメだ! 私は君が元に戻ってからのほうがいい!」


 また何か勘違いしているようだけど、もう突っ込まないぞ!


「そ、そうか。風呂の時くらい変わってくれてもいいんだけど」


「べ、別に今更、お風呂くらいで何とも思わないさ」


 よくわからないゴルキチの勘違いの結果、討伐するまではそのままということになった......

 風呂で体を眺めてもいいというお墨付きをゴルキチからもらったわけではあるが、自分の体に自分がもし興奮したり、いや興奮するならまだいいんだけど何とも思わなかった時が恐怖だ。


 実のところ、イチゴに背中から張り付かれたり、しゅてるんの体を見たりしても興奮を覚えなかった。彼女たちのおっぱいが小さいから興奮しなかったなんて言い訳はしない......確実にこの体のせいだと思う......

 リベールの体を見ないのは、自身が体に引っ張られているということを認めたくないからかもしれない。男に戻ったとき俺は正常でいられるだろうか......ものすごく不安なんだよなあ。

 幸い、男に対してときめいたりはしていないけど、今後どうなるか分からないところが怖い。ノーマルだよ! 俺は。 しかし、たまにこのハゲが可愛いと思ってしまうことがあるのが少し怖い......


 そんなことを考えつつも、今日もゴルキチの頭に張り付いて寝てしまった......



◇◇◇◇◇



――しゅてるん

 響也くんが動かす私が見た視界は、本当に私なのか何度も疑ってしまったのの。あれほどの大きな盾を持ちながら、剣を振り回し、正確に箒の目前に剣を振るうの。二回目からは箒の位置さえ確認してないのよ。

 響也くんは謙遜してるけど、彼は天才という言葉では生ぬるいほどの才能をもった人なの。


 今私たちは、村から少し進んだ森の中で「翅刃の黒豹」というモンスターを捜索しているのの。村の人から聞いたところ、このあたりにきっと「翅刃の黒豹」はいる。

 「翅刃の黒豹」は、黒豹を大きくして鋭い羽をつけたモンスターだと聞いているけど正直人の手に負えるモンスターじゃないと兵士さんから聞いたのの。もし討伐するなら、百人以上の兵隊さんを集めて遠くから矢を射るしかないって。

 でもでも、動きが速すぎて矢が当たらないと思うんだけどなあ。


「いた、翅刃の黒豹だ」


 響也くんが頭の中で私に教えてくれたんだけど、私にはどこに翅刃の黒豹がいるのか分からなかったのの。目を凝らして森の木々を見ても変わったところは無いように見えるんだけどなあ。

 私は翅刃の黒豹を発見したという響也くんに、体の支配権を譲り後は響也くんに任せることにするる。


 響也くんは私と交代すると、駆けだして木の根元を蹴り上げると、大盾を上に構える。


 その直後、何か大きなものが当たる衝撃が大盾に伝わったのの! いつの間にか響也くんは剣を大盾の隙間から突き出していて、肉を割く感覚が手に伝わってくる。

 響也くんが数歩後退して大盾を薙ぐと、とびかかって来た者が何だったかわかったの!


 黒くて大きな豹。背中からは蝉のような羽が生えていたのの。ただ蝉と違って刃が羽を覆うようについていて、あれに当たるとただではすまなさそう。

 あれが「翅刃の黒豹」なのね。


 私が「翅刃の黒豹」を確認している間にも、大盾は振り下ろされ、駆けだそうとしていた「翅刃の黒豹」の鼻先を痛打する。思わず身を引く「翅刃の黒豹」に響也くんは低い姿勢で追撃をかけたの。

 頭の上を何かが風をきった後、大盾を再度前に突き出した響也くん。盾で黒豹の前足を塞いで、顔に剣を突き立てたの。


 「翅刃の黒豹」はものすごいスピードで木々を渡り、滑空しながら攻撃してくると聞いていたんだけど、すでに何度も響也くんが斬りつけているけど一度もその場を動けてないのの。

 全て、大盾で出鼻をくじかれた「翅刃の黒豹」は動くことが出来ないでいたの。モンスターの筋肉の動きを察知してるのか、響也くんの盾さばきは神がかっていて「翅刃の黒豹」がまるで相手にならなかったわわ。


 やっぱり響也くん、ものすごーく強い。


 十分たたないうちに「翅刃の黒豹」は動かなくなって、響也くんは私と交代したのの。


「だいぶ勉強になったよ。これなら本番もなんとかなりそうだ」


 響也くんはそう言うけど、この人にかなうひとなんているのかなあ。


「ねね、響也くんさ、彼女いるのの?」


「いつもながら唐突だなあ。彼女はいないよ」


 からかうと可愛い響也くん。ときどきからかって遊ぼっと。私も楽しまないとねね。

 白い空間で見る限りは、私と同じくらいの大人しそうな男の子。でも剣を持つとすごいんだ彼は。 お兄さんが好きすぎるところがなければなあ。

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