サウダージ
解析佑太
第1話 神様が降りて来た
休日にも関わらず、街の学校のグラウンドには大きな声が響き渡っている。
地元のサッカー少年団に通っている子供達と、その父兄達が発したものだ。
ここは長岡京市。
京都市と大阪府の間に挟まれた人口約8万人の街だ。
この街からは誰もがその名を耳にしたことのある有名人が生まれ育っている。
中でもサッカー選手、日本代表にも選ばれて、ブルーのユニフォームに袖を通した選手や、なでしこジャパンのレギュラーとして女子ワールドカップ優勝を成し遂げた選手もいる。
今現在、グラウンドでサッカーボールを必死に追いかけている子供達も、その選手たちの様に世界を舞台に活躍することを夢見ている事だろう。
少し昔話を。
時は奈良時代の末期、なんやかんやと問題が生じており、桓武天皇は頭を悩ませていた。このままでは僧侶たちに実権を握られてしまい、天皇としての威厳をたもてなくなる。それどころか最悪の場合、自身の命を落とすことも考えられる。
そこで新たな地に遷都することを思い立つ。
ある夜の事、桓武天皇は夢を見ていた。
遠くには緩やかな西山の稜線が広がってはいるが、その他には田畑しか視界には入ってこない、ありふれた田舎の風景だった。
少しのちに天空より光の柱が見えた、あまりの眩しさに思わず目を覆うほどだ。
段々と目が慣れてきたころに、光の柱の方向を見て見ると巨大な足が見えた。
神だ、神様に違いない。
なんと恐れ多い、桓武天皇は思わず平伏した。
これは神様からのお告げに違いない、この地に都を移しなさいと。
夢から覚めた天皇は従者である藤原種継に早速その地を調べるように命じた。
その地区の名は長岡の田村。
その地に神様が降り立ったのだ。村には大きな川が流れており、そのまま大阪湾へと続いているので、河川を利用しての物資の運搬が可能。
西山からは豊富な天然の湧き水も有る為、生活に必要な飲料水には事欠かない。
当然、下水にも使用できる。
種継は長岡への遷都を改めて桓武天皇に上奏した。
長岡は種継の地元でもあり、支持者も多数住んでいる。
この地を都にする事が出来たならば朝廷内での自身の地位も安泰である。
報告を受けた桓武天皇は夢の実現を確信して、長岡への遷都を決意する。
そして784年に新しい都が誕生した。これが長岡京である。
そして神様が降り立った場所の田村の地名を「神足ーこうたりー」と改めた。
しかし夢の中で、いくら神様が降りて来たとしても、見えたのは足だけではご利益に欠けるのではなかろうか。
その神様がどの様な姿を姿をしていたのかすら分からないのでは、本当にお告げだと信じて良いのかどうか。
恐らくは天津神の誰かとは思うが、都を移す口実に仕立て上げた感も否めない。
都を移した後も長岡では疫病が発生したり、河川が氾濫して水害に悩まされたり。
結局、10年後に長岡より少し北東の方角へと都を移してしまった。
皆が良く知る平安京の事だ。
都で無くなった長岡は、また元の静かな村に戻り、人々の記憶からも消えて行ったのだ。
たったの10年の間だけだが、ここに都が存在していたことは事実だ。
しかし市民はその事にあまり関心が無い様にも思える。
タラレバは良いたとえでは無い事は百も承知である。
もしも疫病などが起こらずに長岡に都が有り続けていれば、この地が今の京都の中心地として栄えていてもおかしくは無かったはずである。
ところが今はすっかり田舎者扱いされる場所になってしまった。
京都市内の人々からは少し見下されるように扱われる始末だ。
きっと桓武天皇が見た神様の足は片足だけで、もう片方の足は今の京都市内に降りて来たのだろう。
まぁ有名なスポーツ選手が出現した事で、少しは街の名も知られたとは思う。
そして、足を使う競技でプロレベルの選手が複数出た事は神足のご利益なのかもしれない。
しかし残念なことに、街に有るJRの駅名が2005年に神足から長岡京に変わってしまっい、神様のご利益は益々薄くなってしまった。
駅名変更の理由は、昔、この地に都が有ったから。
何もこんな所でアピールしなくてもいいだろうに。
神足の地名は今もJR駅周辺に残っており、神足小学校も存在する。
ー市内にある10の小学校の中で最初に出来た小学校ー
駅で使われていたプレートも自治会館前に誇らしげに設置してある。
この名を大切にしている人々は確実に存在しているのだ。
願わくは今後もサッカー選手に限らずに、神の足を持った凄いスポーツ選手が長岡京市から現れる事を期待したい。
そして彼らが世界中で長く活躍する姿を見てみたいものだ。
完
サウダージ 解析佑太 @jyuutenki
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