第14話

 強い光を放つ真っ白な電車のライトが見えるが、俺はまだレールから離れられないでいる。駆けて行った女子高生は戻ってこない。もうきっと誰も助けには来ないのだろう。覚悟はしていたが、どこかで女子高生に期待をしていた分、絶望感は増した。どうしようもない状況で、恐怖と寂しさに弄ばれている気分になった。


 音とライトの光は強くなる。


 俺は死ぬのだろうか。惨めなまま一人で死んでいくのかと思うと気が狂いそうだった。いや、いっそのこと狂って前後不覚になってしまえたら幸せだろうとさえ思った。


 恐怖が絶頂に達した時、俺は涙を流しながら叫んでいた。


 「やめてくれぇ!他のヤツらにしてくれぇぇぇぇ!」


 叫んだ後にキーンと耳鳴りがした。すると耳がおかしくなってしまったのか、とうとう精神が壊れてしまったからなのかはわからないが、まわりの音はもう聞こえなくなっていた。ただ前からのライトの明かりだけが煌々としていて、その光が俺の目を潰した。


 その時、ハッと頭に浮かんだものがあった。それは猫のクロだった。クロしか浮かばなかった。今までの人生で、多くはないが、ある程度の人間と関わりがあったはずなのに、最期の時には親の顔すら浮かんではこなかった。その代わりに柔らかな毛と黄色い目を持つ猫の姿が浮かんだ。何十年も生きたのに、猫しか俺の心には残らなかったのだ。悲しいことだが、これが俺の生きてきた人生であり、結果なのだと死ぬ間際に悟った。


 白い大きな光の玉を携えた化け物が迫って来る。俺は這うことをやめた。


 行くのだ、クロと。誰も俺を疎まず、許してくれる自由な世界へ。



 涙の筋に前から吹き付ける風が当たって顔が冷たかった。冷たさとは俺の人生そのものだった。人に冷たくして冷たくされて生きてきた。最期も冷たい風と真っ白な冷たい光に包まれて死んでいくんだ。数少なくても、少しは知っている温もりを思い出すこともなく・・・・。


 泣きながら笑うしかなかった。


 数秒後、衝撃と共に目の前が真っ暗になった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

孤島の狂人に明日は来ない 千秋静 @chiaki-s

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ