第14話 入院十四日目「一リットルの涙。相談の大切さについて」

十三時~十五時まで二時間の院外外出をした。しっかり雨に降られてしまった。


実は私、雨女で運動会が連続六回延期になりとうとう中止になってしまったこともある。

スキーにいけば吹雪くので両親からは「雨乞い師になって砂漠地帯にいけば重宝がられる」と言われる始末である。


夕方、娯楽室で珍しくテレビを観る。

美香さんがテレビにくぎ付けになっているので気になってみてみたらドラマ「一リットルの涙」の再放送だったのだ。

闘病物で恋愛もの。ずるい、ずるいよ……。これは、ずるい。

泣かざるを得ない。

そして、このときのエリカ様(沢尻エリカのこと)は神がかって可愛いなーと再確認。

どうみても薄倖の美少女である。もう一度言おう。ずるいなあー。


あ、一リットルの涙というドラマについて知らない人もいると思うので簡単に説明すると、体が徐々に動かなくなる難病に侵された女子高生と、ごくごく普通の男子高生の恋愛を軸に、障害について、病気について、愛について掘り下げられたヒューマンドラマである。


その結果……。ぼろぼろぼろぼろ、私も美香さんも目をはらしながら号泣する結果となった。

悲しい物語だけれど、励まされる物語でもあり、私たち闘病者にとっては非常に厳しいことを突きつけるドラマでもある。 


お前はここまで頑張ったのか? そう突きつけられるのだ。

一リットルの涙を観終わってパンパンに浮腫んだ顔で部屋に戻ったら、看護師さんが同室のベッドのセッティングをしていた。


私の部屋に三人目が入るの……?

五反さんだけでお腹いっぱいだというのに?

いや、待ってメンバーによる。素敵な人が入るかもしれないじゃないか。


と思って看護師さんに確認すると、晴美さんかひろこさんがこちらに移動してくる予定だと正直に話してくれた。


ひろこさんなら全然問題ないが晴美さんだと私の病棟生活は最悪になる。

同室でない今でさえ付きまとわれて鬱陶しいのだ。同室になってしまったらそれこそ胃袋に穴が開いてしまう。

「あの、実は……」


主治医に言わなくては意味がないのではないか、と思いつつも看護師さんに相談すると、看護師さんは「わかった。先生に急いで伝えておく」

と言ってくださった。


そして、「全然知らなかったよ。早くそういうことは相談してね。ここは休養する場所でストレスをためる場所ではないんだからね」とまさに私が思っていたことそのものずばりで釘をさされた。 


なんだー、早く相談すれば良かったのか。

そうだよね、看護師さんや医師だってエスパーじゃないし忙しいんだから患者の口からちゃんと聞かないと、迷惑してるなんて思わないよね。


こうして私は「口にすること」の大事さも知った。

沈黙は金だけれど、「口にすること」もまた貴金属クラスに貴重なことだ。


主張しすぎるのはただのわがままになってしまうけれど、スタッフへの相談はある意味、快適な病棟生活を送るにあたって大変重要なことなのだ。

そして、それは、きっと社会に出てもそう。この病棟を出たら、私はまた厳しい社会にもまれることになる。

そのとき周りに相談しないで、耐えて耐えて耐えてまた爆発して、同じことになってまた入院しないようにするには、早めに相談することが肝要になってくるだろう。

今までになかったスキルだけど、それも磨かないとな。

夕食を食べて部屋に戻るとセッティング途中にあったベッドが骨組みだけの姿に戻っていたのですごくほっとした。

晴美さんのマシンガントークから完全に逃れることは出来ないだろうが、部屋に逃げ込めるだけで(病棟には自分の部屋以外には入ってはいけないルールがあるので)すごく助かる。

あ、そうだ、と思って状況を院内外出したときに両親にもメールしておく。 


これで両親からも主治医に何か、働きかけてくれるかもしれない。

それにメールに状況を書いたことは愚痴を吐いたことにもつながって、とてもすっきりした。

母からは「そんなことで悩んでるなんて知らなかった。早く言ってね」とあった。

そう。私は仕事の報連相はできるのだが、人間関係でトラブルを抱えたときの報連相がすごく苦手なのだ。

誰にも言わず、もう耐えられなくなってから打ち明けるので驚かれたことは職場でもあった。

……仕事を辞めるのは仕方なかったと思うけれど。

もしかしたら、もっと早く「仕事の量が多すぎます」「押し付けられてます」「ある人から嫌がらせに似た行動をとられています」と言えたら……。

私はまだ、あの場所に居られたのかな……?

休職期間をいれて、私は8年間公務員だった。

それが私の限界だったけれど、最終的に辞めることになったとしても、休職せずに、こんな形でなくて、もっと穏便に、入院することもなく、辞める形だってきっとあったはずなんだ。

私次第だったんだ。

今更気づくなんてなんて馬鹿なんだろうなあ。

でも、今気づけてよかったのかな?

両親は明日面会に訪れると言っていた。

嬉しいな。どんな話が出来るかな。


今日の夕食

豚肉香味焼き。ゆでアスパラ。粉拭きいも。大根きんぴら。白菜ポン酢和え。キウイ・りんご角切り。


今日の処方

昨日と同じ


追記

移動図書館で借りた、「博士の愛した数式」の感想。

”僕の記憶は90分しか保たない”事故により、記憶を保つ能力が損なわれた博士の元に、新しい家政婦が通ってくるようになる。やがて、家政婦の息子の加わって、三人は温かい輪を構築していく。

博士は家政婦の息子の平べったい頭をなでて、うってつけの愛称をつける。

「君はルートだよ。どんな数字でも嫌がらず、自分の中にかくまってやる、実に寛大な記号、ルートだ」三人の日々は、数式の素晴らしさや、野球球団タイガースへの熱い思いをちりばめて、過ぎてゆく。ちょっとした事件が起こったり、素晴らしい瞬間に恵まれたり、三人の日々はずっと続くと思われたが。

読んでいて数字のロマンへ誘われ、博士の一挙一動に癒され、忘れていた弱者への慈しみの大切さに気付かされる素敵な小説。

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